2-9.リコちゃんと昼食【1/2】

「リコちゃん、どうかしたの?」

「あっ、アキトさん、助けてください!! カフェテリアの注文方法が分かりません!」


 リコちゃんは俺の顔を見ると、安心したような顔をして駆け寄ってきた。


「ああ、リコちゃんはここのカフェテリアは初めて?」

「はい。普段は大食堂で食べてるのですが、今日の学園生集会のときにここがあるのを知って来てみたんです」

「そっか。まあ大抵はみんな大食堂に行くよね」


 大食堂とは特別教室棟にある食堂だ。座席数も多くメニューも豊富なので、ほとんどの学園生は大食堂で昼食を食べるのだ。


 おかげでここは、いつも昼休みが始まったばかりでもそこまで混んでおらず、快適に食事ができるのだ。


「ここは注文方法が特殊だから、初めてだと戸惑うよね」


 俺はそう言うと、壁に貼ってあるQRコードを指さした。


「このQRコードをスマホで読むと注文画面が出るから、そこで食べたいものを選ぶんだよ」

「そうなんですね! やってみます」


 リコちゃんは髪色と同じ銀色をした小さなスマホを取り出すと、QRコードを読み込み注文画面を開いた。


「えっと、学園生番号とパスワードの入力が必要なんですね」

「うん。学園クレジットで支払いになるからね」

「やっぱりここも学園クレジットなんですね」


 この学園で食堂、購買部、さらには自販機なんかで支払いをする際には学園クレジットという仕組みを用いる。


 仕組みとしては、学園生証がICカードになっており、そこに1,000円単位でチャージができるので、各自チャージをしてその残高で買い物をするのだ。


 チャージ金額は学内サーバで管理されているので、学園生番号を登録すればスマホ注文でも支払いができるというわけだ。


 もちろん、他人の学園生番号を使って不正注文ができないように、入学時に設定したパスワードを入学する必要がある。


「あっメニューが出ました! ここから選べばいいんですね!?」


 そう言ってリコちゃんは何を食べるか考えながらスマホを操作していった。そして注文を終えると満面の笑みで言った。


「できました! ありがとうございます、警察の方に聞いても分からないって言われて困り果ててたんです」

「あっ、警察の人に聞いたんだ」

「もちろんです。だって今朝、困ったことがあったら何でも聞いてって仰っていたので」

「だとしても、流石に学園の仕組みについては分からないだろうね」


 警察の人もまさかそんなことを聞かれるとは予想していなかっただろう。


「とりあえず、注文できたのなら受付番号が表示されたと思うから、カウンターの方からその番号でお待ちの人って言われたら、取りに行って好きな席で食べればいいから」

「ありがとうございます。それでアキトさんもここでお食事ですか?」

「うん。俺はいつもここだからね?」


 俺がそう言うと、リコちゃんは目を輝かせて言った。


「じゃあお席ご一緒してもいいですか? わたしアキトさんとお話ししたかったんです!」


 それは俺としても願ってもない誘いだった。リコちゃんも容疑者として考えないといけない以上、一度話はしておきたかったのだ。


「もちろん! ただ……」

「ただ?」

「俺も注文をしないとね」


 そう言って俺もスマホを出すと、食べたいものは決まっていたのでささっと注文した。


 そうしてリコちゃんが頼んだ親子丼と、俺が頼んだ鯖の塩焼き定食をそれぞれ受け取って空いている席を探した。


「リコちゃんはこの席で大丈夫? 高いところ苦手だったりしない?」

「全然大丈夫ですよ。それに高いところ苦手だったら、ここに食べに来ませんから」


 それもそうだなと思い、俺は窓際の席に座った。通いなれた学園とはいえ、7階から見える景色は爽快なので俺は、いつも窓際に座っているのだ。


「でもまさかエリカさんが殺されたなんて……悲しいです」


 右手に持った箸を使い、外国人とは思えないくらい上手に親子丼を摘まみながら、リコちゃんはそうポツリと呟いた。


「エリカさん……この前はあんなにわたしに優しくしてくれたのに」

「そうだよね。本当に俺も悔しいよ」


 俺も鯖を箸でほぐしながら、呟くようにリコちゃんに返事をした。


「犯人を許せないですよね、アキトさん」

「それは当然だよ! 犯人がこのまま野放しなんて絶対許さないよ!」


 俺は語気を強めてそう言った。


「じゃあアキトさん、この前のゲームみたいに鋭い推理で犯人を突き止められないですか!?」


 そう聞いてきたリコちゃんの表情に、俺は少し違和感を覚えた。


 リコちゃんの表情には、絵梨花への哀悼を含んでいるように見えるが、どことなくワクワク感も出ている気がしたのだ。


「ゲームみたいに簡単に行くかは分からないけど、犯人を突き止めるためにできる限り動くつもりだよ」


 俺が調査に動くことを、容疑者と考えているリコちゃんに伝えるべきか迷ったが、すでにえいりちゃんにも言ったし、この違和感が勘違いでないか確認したかったのであえて言ってみた。


 すると予想通り、リコちゃんは目を輝かせて言った。


「アキトさんが推理で犯人を追い詰めるの楽しみです!」

「リコちゃん、楽しみってどういうこと?」


 俺がやんわりと聞いてみると、リコちゃんは失言に気が付き、はっと口元を手で押さえた。

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