2-5.散文部の危うい構造【2/2】
「えっ、ホントかよ、玲司!?」
絵梨花が女の子として好きだったと言った玲司に対して、俺は俄かには信じがたく、そう聞き返した。
「ああ、本当だ。流石に航也みたいに告白まではしてなかったがな。航也と同じで、散文部で一緒に活動しているうちにこの感情はどんどん強くなっていったよ」
そうか、それでさっき俺が絵梨花をそんな風に見ていなかったって言ったとき、同意できずに黙り込んでいたのか。
「きっと絵梨花自身も航也が告白する前から気が付いていたんじゃないかな? それでも散文部の活動を続けるために気が付かないふりをしてくれてたんだろうね」
それを聞いて俺は、昨日絵梨花が言っていたことの意味が分かったような気がした。
『私はこのまま4人で続けていくのは危ういと思うな。やっぱり新入部員、特に女の子には絶対に入ってもらいたいと思ってたの』
『そういう意味じゃないんだよ。まあ晃斗には分からないかも知れないけどね』
玲司が言うように、絵梨花自身も玲司や航也が絵梨花に向けている恋愛感情に気が付いていたのなら、逆に俺が絵梨花に対して何ら恋愛感情を持っていなかったことも気が付いていただろう。
「そっか、だから絵梨花は女の子の新入部員を欲しがっていたのか」
きっと絵梨花は玲司と航也の恋愛感情が強まっていくのを感じながらも、誰にも相談できないなかでずっと何事もなかったように活動を続けてくれていたのだ。
女子部員が入ってくれたならこの状況を相談することもできただろうし、2人の感情の強まりを抑える効果もあったかもしれないからな。
「情けないな、俺は。副部長なのに部の危うさに、今まで全く気が付かなかったなんて」
「仕方ないさ。恋愛に関しては、晃斗には去年のあの件があるからな」
俺の呟きに対して、唯一俺の事情を知っている玲司がそう言った。
俺は去年のとある騒動をきっかけに、恋愛について考えることを意図的に避けるようにしていた。
その件については、絵梨花や航也だって知らない。なんなら幼なじみのえいりちゃんにだって話していない。おそらく知ってるのは当時騒動の渦中にいた玲司と散文部の部長、そして当事者のあの子だけだ。
恋愛について考えなくたって困ることなんてないかと思っていたが、まさか仲間たちの問題を見落とすことになるとは。
「それでどうだ晃斗? この話を聞いて僕のことも疑わしいと思うか ?」
航也の問いは冗談っぽくも真剣に聞いているよう聞こえたので、俺が少しだけ考えた後で、はっきりと言った。
「いや、思わないよ! 恋愛感情については何とも言えないけど、もし玲司や航也が犯人だったらあんなメールを送らないよ。普通に絵梨花だけを呼び出すことだってできるだろうしね」
そもそも学園内で絵梨花を殺すなんて、犯人にとって全くメリットがないのだ。容疑者は限定されるし、犯行時に誰に見られるかも分からないんだから。にもかかわらず部室で絵梨花を殺害したのは、あの時に行動しなければならない、よっぽどの理由があったはずで、恋愛感情から来るものでは絶対にないと思うのだ。
「ただ、ちょっと玲司に聞きたいんだけどさ」
俺はそう言って玲司に一つの質問をした。
「散文部の部室を密室にする方法について思いつくことはないかな? 航也じゃないけど、玲司ならネタとして前から散文部室の密室トリックとか考えてたんじゃないかと思ってね」
普段から謎を作っている玲司は、日常生活のなかで謎作りに使えそうなものを探している。であれば実際に密室殺人に使われた扉であれば、前から密室のトリックを思いついてもおかしくないと思ったのだ。
「いや、流石に何も思いつかないな。特殊な構造になっていれば僕もネタにしたかもしれないが、普通の教室と同じ引き戸だしな」
確かに普通の扉じゃあ、謎作りのネタにもならないよな。でも犯人はそれをやってのけたんだから、何か方法はあるはずだ。
「まあ密室は今現場を調べている神崎警部たちがきっと解決してくれるさ。俺は容疑者と考えている5人の調査の方に力を入れるとするよ」
今後の捜査の方針を決めたところで駅に着いたので、玲司と分かれてそれぞれの帰路についた。
その日の夕方頃に、学園ホームページ上にある、学園生だけが見ることのできる電子掲示板に事件についての説明が掲示された。それは主に以下のような内容だった。
・昨日の夜、散文部の部室で絵梨花の遺体が発見されたこと
・現場の状況から殺人事件であると思われること(密室については触れていない)
・今日明日は学園内への立入は一切禁止にしていること(月曜日の部活の朝練習も禁止)
・月曜日は1時間目の授業を中止して学園集会で事件について説明するので新体育館に集まること
・2時間目からは警察官が巡回する中で通常通り授業を行うこと
・絵梨花の葬儀は数日以内に近親者のみで行い、学園生の参加は一切禁止すること
・記者からの質問などには不用意に答えないこと
「葬儀は近親者だけ、か。絵梨花が殺されたっていうのに、俺達は弔うこともできないのか……」
そんなやるせなさを感じつつも、俺のやるべきことは犯人を突き止めて絵梨花の仇を取ることだと
「とにかく、明後日から学園に通えるわけだから、そこからが本番だ!」
俺は本格的な捜査は明後日からにしようと決意し、あの夜に航也からの電話で中断していた読書を再開して、頭と身体を休ませることにした。
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