1-2 久しぶり世界(後編)



『お帰りなさいませ、オーナー。』


「万事問題なく。私のことは良いですから、すぐに作業を開始してください。」


『かしこまり。』



私達の拠点に帰って来てすぐに迎えてくれるのは、何体もの人型ドロイドたち。キャタピラの脚部と4本の腕が特徴的な私達の家族とも呼べるような子たちです。『私』の作品の一つで、完全自立型。既に仕事のため倉庫の方から何体も出てきているのが見えます。


そんな様子に微笑ましさを覚えながらも、最初に声をかけてくれた子にスピーカーで返答。ついでにここまで牽引して来たミミズの肉体をいつもの場所に転がします。



「最初は殺風景な場所でしたが……、色々と増えましたよねぇ。」


(ま! 人はアタシらだけだけどな!)



この場所は、私達の拠点は町の住人たちからは『給油所』と呼ばれるいわゆるガソリンスタンドのようなところです。オーナーを自身が勤め、『私』がメカニック全般。それ以外をドロイドが担当するお店になります。


まぁ前世でいう所の原油がミミズの血なのでガソリンを売っているわけではないですし、ミミズ肉の販売やドレッドによる害獣駆除などの依頼も受付中。自宅も兼ねてますからちょっとなんと分類すべきか解らない場所なんですけど。



『サイシュサイシュ、血あつめ。』

『らじゃらじゃ』

『オーナー、もっとキレイに倒せ。弾痕の処理メンドイ。神経狙エ。』


「アクシデントがありましてね。勘弁してください。」



っと、私も私で仕事をしませんと。


自身の胸に刺し込まれていたコード群を引き抜き、コックピット内へと格納し隠蔽。一度全て確認し終わった後に、ハッチを開き外へと顔を出します。地上へと降りるリフトに足を掛けながら店の様子を眺めてみれば、見慣れた景色をドロイドたちが走り回っているのが見えます。


その様子を楽しんでいると、ようやく地上へ。軽く歩いていれば一体のドロイドがタオルとタブレット、そして水の入ったボトルを運んできてくれました。『私』が腕の操作権を奪い喉にそれを叩き込むのに合わせ口を動かしながら、何か話そうとしているドロイドの言葉を促します。



『業者が一件、個人が三件。ご指示通り血油を販売。詳細はデータで送りますか?』


「んっ、っと。えぇ、そのようにお願いします。それと業者は、いつもの方で?」


『ですです。生活物資等の受け取り、及び次回注文データ受け渡し済み。』



私達が経営するここは、人々の居住地からかなり離れた場所に位置しています。


もともとの持ち主である母が人の眼を好まなかったことや、『私』が他人と話すことを好まないこと。そしてミミズなどの現住生物を狩り保管するのに広大な土地がいることから、何もない砂漠の真ん中に居を構えている感じですね。


不便を感じないわけではありませんが、先ほど言った業者が血や肉と生活に必要な物資を交換してくれますし、ドロイドに買い出しに行かせれば細々とした物も問題ありません。まぁ私個人としては、彼女のコミュニケーション能力に影響するためもっと多くの人間とふれあってほしいと思うのですが……。



(うるせ。……あとアタシ、変わるぞ。)


(えぇどうぞ。)



全身の主導権を彼女に手渡してみれば、ドロイドの頭部のボタンを押し、発声用のスピーカーをメガホン代わりに。その声が作業員として働くドロイドたち全員に届くよう、声を張ります。



「おいお前ら! アタシが食べる分の肉取っとけ! あと血はあるから全部処理してタンクぶち込んどけよ!」


『らじゃらじゃ。肉は何日分ですか?』


「前の分もう食い切っちまったから冷蔵庫一杯に!」



そういうと、すぐに主導権を私に返してくる彼女。


言われてみれば確かにそろそろ食料が切れそうでしたね、感謝を。……でもいくら肉が好きでもそれだけ食べるのはいけませんよ? いくら遺伝子を書き換えられ元の人を超越した私達でも必要栄養素が足りなければ体を壊すのです。真面な医療にありつけないのですから、普段から気を付けなければなりません。


確かに私と『私』は同じ体なので、残した野菜などを全て押し付けても問題はないと思いますが……。あ、まただんまり? 都合が悪くなるといつも引っ込みますよね。



「はぁ、まぁいいですけど。……失礼、ドレッドの方も並行して行えますか?」


『可能、問題なしなし。』



お願いするのは、私達が先ほどまで乗っていた機体。『錣山』改。


正確にいうなれば風防社製・第十二世代型ドレッド。防塵特化作業機『錣山』の改造機は、もう一人の私によって本来とは比べ物にならない程の改造を受けています。


元々ただの作業機を戦闘用に改造しているので仕方ない所はあるのですが……、どうやら変に触られると壊れる可能性が高いとのことで、お願いするのは主に補給と作業準備だけです。『私』が生み出したドロイドですし、高性能なのは確かですが流石にそこまで出来るわけではありません。それに、ハッキングを受ける可能性が常にあるのも確かですから触れられる情報は少ない方がいいんですよね。



「ではいつも通りコックピットには触れないように。弾薬の補充をお願いします。それと右足の方が少々不調の様でしたので、その整備の用意をしておいてください。それが終われば店番の子以外は休憩してもらって大丈夫ですので。」


『かしこまり。』


「よろしくお願いします。私は自室で書類整理などをしていますので、何かあれば連絡してくださいね。」



そう頼み軽い会釈を送りながら、店舗の中。そしてその中にある私たちの居住スペースに入って行きます。


幾つかの数字を打ち込み、物理キーで開錠。扉を開けた後は再度カギをかけ、しっかりと閉まっているかどうかを確認します。そしてこの部屋に誰も侵入していないことを見た後は……、やっと一息。



「お疲れ様です、私。」


(おーう。先にコアの調整終わらせようぜ。)


「ですね。」



彼女と会話しながら、向かうのは部屋の中央に置かれた手術台のような場所。


そこに腰かけ手元のボタンを押してみれば……、ドレッドにて自身の胸に刺し込まれたようなコード達が伸び出てきて、この身に刺し込まれていきます。


この時代における人類は遺伝子操作により肉体性能及び強度の向上や、エネルギー摂取効率の向上、放射能含めた様々な環境への強い耐性を獲得しましたが……、人の手によって作り替えたせいか、時たま持つべきものを持たぬ子どもが生まれることがあります。


早い話、それが私たちなのです。



(なぁアタシ。心臓とか肺ってどんな感じなんだ?)


「以前と勝手が同じですし、内臓って普通に生きていて認識できるものではないですから……。」



心臓を始めとした大半の臓器を持たずに生れ落ちた私たちは、そのまま死を待つのみでした。しかし『私』同様に優秀な技術者であったらしい母はその代替手段を製作。ひとつの動力源、この西暦4000年であってもオーパーツと呼べるような驚異的な炉心を、埋め込んだのです。



「グリオナイト、この惑星のみで採取できる緑色に発光する放射性物質。発見当初は新たな動力源として期待されたが、その加工の難しさから研究は破棄され今では石ころ同然の鉱石。」


(それを炉心に仕上げた母ちゃんはやっぱすげよなぁ!)


「……まぁ研究資料を残さずに亡くなられたので結構ピンチなのですが。」



名をグリオナイト・コア。


安直ですがその性能はこれまでの人類の作品を軽く凌駕し、ドレッドに乗せる様な最新の大型核融合炉と比べても、その性能は数万倍。人の胸に収まる拳大の存在が、規格外の数値を示しており、手持ちの計器では正確な出力数値が測れないレベルのもの。お陰様で私たちは生存できていますし、余剰エネルギーをドレッドにつなげて動かすこともできます。


ただ……。この世に生れ落ちて15年。それだけ使い続ければ、少々ガタがくるもので……。



【検査完了シマシタ。先週ト比べ、出力0.0002%減少。初期データト比ベルト、14%ノ出力低下ガ見受ケラレマス。スペアノ作成ガオススメデスネ。】


「それが出来れば苦労はしないんですがねぇ。」


(だよねぇ。)



グリオナイト・コアによるエネルギー供給と、遺伝子操作による驚異的な成長、そして私の前世の記憶のおかげか生まれてから1年ほどで母が死んでも、生き残ることは出来ました。けれど母がこのコアの作成方法を残さず、いえ正確に言えばその作成途中でなくなってしまったため、複製は困難。


『私』が技術方面への興味を持ち私よりも速い速度どころか、前世の名立たる天才たちが可愛く見える速度で習熟していったためこちらの方面は全て任せているのですが……。今だその道筋は見えていません。まだ余裕があるのは確かですが、こう徐々に首を絞めつけられるような感覚は苦手なんですよねぇ。



(コア以外のさ、エネルギー吸い上げて血を循環させたり酸素製造したり水にしたりカロリーに変換する機構はもう複製できるんだよ。簡単だし。でも肝心のグリオナイト自体の加工が意味不明過ぎて全く解んねぇ。どんだけやっても最終的に爆散しやがる。マジで母ちゃんどうやって安定させたんだ?)


「物が物ですし、気軽に相談できませんしねぇ。バレれば確実に私を殺して奪おうとする方々が多数いらっしゃるでしょうし。」



この西暦4000年の時代でも、このグリオナイト・コアの出力は異様の一言。鉄器時代の者に核兵器をプレゼントするかのような技術差が、このコアには存在するのです。


これを手に入れられるとなれば小娘一人の命などどうにでも出来るでしょう。これ一つで星のエネルギーの大半を賄えてもおかしくありませんし、ドレッドに乗せれば半永久的に動かせる巨大ロボ、宇宙戦艦に乗せてしまえば星も砕ける超兵器の完成。


私も『私』も好き好んでモルモットになる様な趣味はありませんし、バラバラにされてコアだけ抜き取られるつもりもありません。ですので隠す必要がありますし、身を護る力が必要でした。それに、可能ならこのオーパーツをもって母の名を全宇宙に知らしめ、その劣化版を生み出すことでより豊かな生活を手に入れたいんですよね。


いまの収入では地球に旅行に行くことすら不可能ですし……。



「まぁいくら思い悩んでもアイデアが出ない時は出ないのです。先ほどタブレットで確認しましたが、業者の方々が大量の水を運んできてくれたご様子。どうです、シャワーでも浴びてリフレッシュというのは。」


(いいな! ……でも一回ぐらい風呂って奴に入ってみてぇ。)


「流石にそれはちょっと……。」



砂漠の惑星ですから、水が高いんですよ。流石に数百リットルもお風呂に使っちゃうのはもったいないといいますか、まだ手が出せないといいますか。


飲み水はもちろんドレッドの整備やミミズ関連の処理にも水って必要ですからねぇ。もうちょっと経営がうまく行けば色々と事業を拡大できると思いますので、それまで我慢してくださいな。



(ちぇっ。りょうかーい。んじゃ今日はアタシの番だったから変わるぞ?)


「えぇ、ごゆっくり。」






ーーーーーーー





〇主人公・肉体名セファ


先月15になったばかりの銀髪の少女。遺伝子操作による成長速度の向上により成人年齢が大幅に引き下げられているため、既に成人済み。


『私』と『アタシ』の二つの人格が存在し、『私』の方は過去から体に入り込んでしまった存在で、『アタシ』がその肉体に元々いた人格だと彼女たちは判断している。産まれた時からずっと一緒だったせいか、人格間の仲は良好。『私』が前世の経験を元にした経営系のスキル、『アタシ』が純粋な才能による工学系のスキルを保有している。また人格ごとに瞳の色が若干変化し、『私』が赤、『アタシ』が緑となっている。


肉体強度・出力共にこの時代のトップレベルになるよう遺伝子操作が行われたが、彼女たちの母の記録によると事故により内臓器官の大半を失った状態で生れ落ちた。それをグリオナイト・コアを始めとした機械類で補っているため、分類的にはサイボーグに位置する。


現在の夢は地球旅行、出来たら移住。けれど宇宙船のチケットが高すぎる上に地球自体の物価も凄いことになっているためかなりの額の資金が必要となっている。現代の感覚に合わせると一般人が十数回宇宙旅行するのにかかる値段くらい。






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