二重人格パイロット、銀河辺境でロボ稼業に邁進中

サイリウム

1-1 久しぶり世界(前編)


「この辺りにいると思ったんですけどね。」


(隠れてるんじゃねぇの。一回ぶち込めば寄ってくるんじゃね。)


「弾の無駄ですよ。タダではないのですし。」



双眼鏡の奥に広がる砂しかない景色を眺めながら、自身の内から聞こえてくる声にそう返します。


この惑星は惑星DYU‐422、通称ザイオラ。地球から300万光年ほど離れた場所に位置する星です。砂しかなく酷く放射能に汚染された惑星ではありますが、住めば都とはよくいったもので。地球、特に日本のような潤沢な水資源に思いをはせることはあれど、特に問題なく生活することが出来ています。



「……それにしても、西暦4028年。こんな形で未来を見ることになるとは思いもしませんでした。」


(前世の話か? アタシも一回行ってみてぇよな、そのニホンってところ。)


「えぇ、私も可能ならば帰りたいですね。地球行きのチケットが高すぎて今の収入では不可能ですが。」


(死ぬまでには一度、ってやつだよな。もし行けたら案内してくれよ?)


「勿論。2000年も経っているのでお役に立てるかは解りませんがね。」



自身はいわゆる転生者と言われる存在です。西暦2000年代の地球に生れ落ち、その生涯を不本意ながら終わらせた者。しかし何の因果かもう一度目を覚まし、現在の時代。4028年を生きています。まぁ2000年もあれば人類は大きく発展するようで、違う惑星に居住するどころか、生物としても大きく進化してしまいました。


遺伝子操作によりどんな環境にも適応できるようになり、過去我々を苦しめていた放射線への強い耐性を獲得。そして外宇宙へと足を延ばし、どんどんとその生息域を増やしていく。気が付けば我々が住んでいるような砂漠の惑星に定住しているのですから、面白いものです。



(なぁ『アタシ』。帰ったらアレ見ようぜアレ。旧世代の映画。懐かしいだろ?)


「気遣いはありがたいのですが、あれは2800年代のもので懐かしさは全く。それに少々片づけねばならぬ仕事がありますので、今日は勘弁して頂ければ。」


(ちぇ。まぁいいや。あ、言っとくがアタシは手伝わねぇからな?)



その声に肯定の意思を伝えながら、双眼鏡から目を離し、周囲全体を再度見渡します。


もう何度もやり取りをしているのでご理解いただけるとは思うのですが、自身はいわゆる多重人格者というものに分類されます。より正確に言うなれば『2000年代を生きた前世を持つ私』と『この4000年代を生きるこの肉体の本来の持ち主』と言うべきでしょうか。早い話、彼女の体に間借りさせて頂いているのです。


まぁ彼女はこの表現を強く嫌っており、『私らは姉妹みたいなもんなんだからんなこと気にすんな気色悪い』と言ってくれるのですが少し引け目があることは確か。生れ落ちる前から今世の父は他界しており、母も我々を産んだ翌年に黄泉の国へ。まだ若い彼女が健やかに育てるよう、年長者である自身がサポートさせて頂く形をとっています。



「まぁ機械関連に関しては全くなのですが。」


(バカ。アタシは経営とか欠片もわかんねぇからいいんだよ。得意不得意あるのが人間だろうが。お前が出来ないことはアタシがやる。アタシが出来ないことはお前がやる。そうやって生き残って来ただろ?)


「でしたね。少々弱気になっていたようで。……失礼。」



巻きあがる砂を確認し、会話を中断。意識を外界へと向け、即座に双眼鏡を構えその中を覗きます。


するとやはり想像通り、蠢く巨体の影。今回のターゲットにして、私達の飯の種。依頼主からの情報でこのあたりだと推測し周囲を伺っていたのですが……、どうやらあちらから頭を出してくれたようで。



(しゃぁ! 仕事だ仕事! 行くぞ『アタシ』!)


「えぇ。」



すぐさま双眼鏡をしまい、行動を開始します。


乗り出していた体をコックピットへと収め、補助電源を入れれば即座に計器たちが発光。それまで黒を表示していた周囲の画面が、外の景色を表示。そして最後に目の前に現れる、巨大な突起。


この機体に繋がる幾重ものコード達を束ねたソレが、自身の胸へと勢いよく刺し込まれ、4本のボルトで固定。まるでコックピットに打ち込まれたような状態ですが、これが私達のいつも通り。接続を確認した直後、一気に動力を引き上げていきます。



「連結完了、メインサブ合わせ動力問題なし。右脚駆動系一部イエロー、それ以外グリーン。帰ったら整備をお願いしますよ?」


(んなもん後だ! さっさと行くぞ!)


「あともう少し……、お待たせしました。『錣山テツザン』改。出ます。」



レバーを強く押し込むことで、一気に開く脚部の噴射口。


鼓膜にその音が到達するよりも早く、全身にGがかかり、画面に映し出される景色が流れては消えていきます。これまでの2脚では砂上での行動がしにくいと、ホバー移動の改造をお願いしましたが……。ここまで高速機動が可能になるとは。30m級のこの機体が時速500km以上の速度を出しているとなると、後々の整備やそれに掛かる費用が不安にはなりますが、今は『私』の腕に感謝しておくことに致しましょう。


そんなことを考えていると、みるみる縮まって行く標的との距離。



「視認……、やはりいつもの『ミミズ』ですね。」


(でもかなりデカいぞアタシ!)



視界に映るのは、この砂の大地に相応しい数百メートル級の巨大ミミズ。先端に付く口の大きさだけでも十数メートルはあろうというその巨体は、この星の現住生物にして人にとっての益虫です。


雑食の様で岩どころか人類の建造物を軒並み補食してしまうようで、町に現れれば正に破壊の限りを尽くされてしまう害虫ではあるのですが……。その肉体の価値だけを考えれば、有用。特にその体液は私達にとって純金に等しいのです。


保存液を少量混ぜることで百年単位の保存が可能となり、火をくべることで石油より便利なエネルギーとなる。『血油』と呼ばれるそれは、この星のメイン燃料になっています。あと遺伝子操作による進化を遂げた私達人類では飲食も可能な万能素材。養殖は未だ不可能なようですが、私達のインフラを支える大事な虫。


けれどそんな素材も、ミミズを殺さなければ手に入りません。



(だから『ドレッド』! 巨大ロボの出番ってやつだよなぁ! アタシ! そろそろ射程はいるぞ! 一発でやれよッ!)


「心得ています。」



背後の照準器を移動させ、自身の眼前へ。


体に染み込んだ動きで引き金に指を掛けながら、それを覗き込みます。幸いなことに、あちらはまだこちらに気が付いていない様子。狙うのはその神経系が集中している一点のみ。


そこを狙えば……ッ!



鼓膜を震わす、破砕音。



引き金を引こうとした瞬間、衝撃と共に機体が揺れます。そして既に引いてしまった、引き金。衝撃と共にブレた標準は益虫の肉体ではなく、その直前の地面へ。これにより気が付かれてしまったようで、その巨体が動き始めています。奇襲からの即討伐とはいきませんでしたか。



「右足にダメージ、砂に隠れていた岩にでもぶつかったのでしょうね。」


(あぁもうッ! なんでそこにあるんだよ!)


「仕方ありませんよ。弾薬換装、少々手荒いですが通常戦闘と参りましょうか。」



即座にこちらに口を向け迎撃に向かって来るミミズ、その内部に見える何かの工業製品を思わせる幾重にも重なった刃たち。好戦的な個体で何よりですが、如何に鉄の巨神たるこのドレッドでもあの巨体に噛みつかれれば破損します。近寄られても『変われば』済む話ではありますが、近接戦は常に破損の可能性があるのです。我々のような零細では1機のドレッドを維持するだけでも一苦労。つまり今乗っているロボの代わりなどいません。


多少採取できる血の量が減りますが……、リスクを回避し安全に確保するため、遠距離戦で片を付けてしまいましょう。


神経破壊用弾頭から、通常弾頭へ変更。腰背後に掛けていたもう一本の銃身を手に取り、2丁拳銃ならぬ2丁ライフルへ。画面に敵の肉体を見た瞬間、即座に引き金を引きます。



「ギ゙ィ゙ィ゙ィ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙!!!」


「命中。」



弾頭がミミズに突き刺さった瞬間、赤い血が辺りへと飛び上がり、ミミズの悲鳴のような叫びが響き渡ります。ですがやはりまだ殺し切れていないようで、その長い巨体を収縮させ、その口をこちらに向けます。



(くるぞッ!)



彼女の掛け声に合わせ、脚部ブースターを全開。横へと飛びます。


そして飛んだ瞬間、先ほどまで私たちがいた場所に出現する、ミミズの巨体。


全身をばねの様に動かし人体では視認できない速度で噛みついてくる。流石別の星と言うべきか、途轍もない性能をしているものです。


ですが一度回避してしまえば、眼前に広がる無防備なその体。



(しゃぁァ! ぶっぱなせー!)


「全弾斉射。」



口径200㎜、48発を2丁分叩き込み、弾け飛ぶのは血と肉。


心地よい振動に身をゆだねていれば、いつしかミミズの胴体は穴だらけとなっており、切断され向こう側の景色が見れるほどに。先ほどまで元気に動いていたソレが徐々に止まり始め、傷口からどんどんと血が溢れ出ていっています。よくよく見てみれば最初に狙おうとしていた神経系の部分が消し飛んでおり、既に絶命している様でした。



(おわりか?)


「みたいですね。ホバー移動の確認も含めた討伐でしたが、弾薬以外の損耗無しで完了。非常に良い結果かと。さ、一滴でも無駄にできません。早く止血処理をして帰るとしましょうか。」


(あいよー。まぁ動かすのはお前だけどな。)







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