10・誓約の日

「誠に、申し訳ございませんでした」


[ラストコア]臨時支部、統制制御室にて。


 土星圏の星々の首領陣の1人が謝罪の言葉を述べた。


 彼が頭を下げると、他の者達もそれに倣って同じ行動を取った。


「我々は臆病者です。あの悪賊共に怯えながら、のうのう暮らしてきましたので……」

「いえ、お気になさらず。我々も配慮が足らず、申し訳ございません」


[トンケ団]襲撃時に同時避難をした、[ラストコア]総司令官の西条宗太郎が言った。


「[トンケ団]の襲撃は過去に幾度もあったはずです。何故我々に連絡をなさらなかったのです?」


 ニコンの代表としてリュートは尋ねた。


「口封じと、油断ですね。近年の[トンケ団]は活動を静めていたようでして」

「何故です?」

「我が星の兵士によりますと、トンケ団は火星人と協力関係を結んだようで」

「火星……!」


 宗太郎、リュート、サレンの3人が驚いた。


「星とか、人物でもいい。判明しているものはありますか?」


 ジェームズは会議場にはいなかったが、襲撃時の避難誘導に立ち合った。だから統制制御室にいた。


 彼も同じ様に驚いたが、情報収集に徹した。


「智将のグロス様、でしたか……彼は何も話さなかった。ただ命令を下し、背いた者に罰を与えた男です。ただ、変化がなかったと言えば嘘でしょう」

「変化? 何があったのです」


 リュートは自然と続きを知りたがっていた。


「私が見聞したのは、地方の商人の管理長からでした。火星人と協力関係を結んだことで、商業が発展していったと」

「まるで戦争の恩恵パターンですね」


 ジェームズが皮肉を言った。


 この場の者に対してではない。


「喜んでいる彼らを、私は無碍にする事はできません。経済の活性化は、星の生命維持にも必要な成分となりました。それは我々の血肉となる素材さえも、今や取引、交換で賄う時代に……」


 首領陣の1人の言い分に、地球人の宗太郎とジェームズはある程度納得していた。経済の概念が同じだからだ。


「ですがこれでようやく、支配からの脱却ができました。商業人の反発を買う羽目になりますが、被害に遭われた者達も我々は考えなければいけないんです。地球人との交渉会議は、解放への切り札だと見込んでました。少数ですが、今回は参加させていただいたのです」


 首領陣の話はまだ続いた。


「協力しましょう。技能知識等習得の必要な分野は準備がいりますが……」

「幾つかの宇宙船の提供を検討しましょうか? 距離にもよりますが、太陽系内でしたらそのままの運航が可能な船がありますよ」


 他の首領陣が言った内容に、4人は表情を明るくさせた。


 宗太郎を筆頭に、4人は頭を下げた。


「ありがとうございます!」

「我々の母星には即時報告いたします。迅速に対応させるよう指示を出しますので、それまでの辛抱を」

「わかっています。お待ちしております」


 この数分後。意見や質問がないかの確認後、宗太郎が解散の表明をした。


 とはいえ、バラバラに散らばるのではない。


 サレンが首領陣を休ませる為に、個室の案内をしていた。


 統制制御室には、宗太郎、ジェームズ、リュートの3人だけになった。


「王子にもご苦労かけたな」

「いえ。話し合いの場を用意して頂き、助かりました」

「じゃあ、俺は黒川達に伝えておく。真ん中の子供も起きるだろうからな」


 ジェームズも統制制御室を後にして、室内には宗太郎とリュートだけになった。


「私も我が星の現状を把握してきます」

「大事な人が危険な状態だったが……」

「王家の兵士達が救出に向かって、命に問題ありませんでした」

「すまないな。ずっと引っ張り続けて」

「大丈夫ですよ」


   ☆☆☆


 勇希の友達の件を聞いた俺も、自分の仲間が気になっていた。


 眠る勇希を未衣子に預け、俺は[ラストコア]の閲覧室にやってきた。


 目的はPCの利用。


 インターネットに繋ぎ、ブラウザ上でチャットサイトを開いた。


 ログイン情報を入力し、専用のチャット部屋に入った。



《部屋名・吉川高校電子工作研究部》


白井:ごめん。今誰か起きているか?


~数分後~


◯◯:その名字、本当に白井か?

白井:ああ。ご無沙汰しててごめんな。

◇◇:マジで! 久しぶりじゃん!

白井:今起きているのは2人だけ?

◯◯:先輩達は勉強合宿中で、携帯いじれないって。

◇◇:後輩達、誰か呼ぼうか?

白井:いやいいよ。君達2人の近況が聞きたい。

◯◯:近況? だったら◇◇がすごいぜ? 市内のロボコン優勝したからな!

◇◇:よせよ、府内の大会が控えてんだから。

白井:おめでとう! その時の画像ってある?

◯◯:あるぜ、ほら。

◇◇:ちょ、恥ずかしいって!


[市内のロボコンでの優勝記念撮影]


白井:春の部活で見た時と違うな……大分改良している。

◇◇:悪い。パーツ諸々については、お前の意見も聞きたかったが……。

白井:こっちの都合でいなくなっただけだから、気にしなくていいよ。◯◯は?

◯◯:俺はコイツのアシスタントしただけだぜ。

◇◇:◯◯も大会出たらよかったのに……。

◯◯:白井やお前に比べたら、俺なんて初心者レベルだって。

白井:出場するだけでもいい経験になるんだぞ?

◯◯:冬には出てみるぜ……ところでさ白井。

白井:なんだ?

◯◯:チャット覗いたの、別に俺達目的だけじゃないだろ?

白井:……バレたか?

◇◇:白井はあまりチャットには顔出さないからなぁ……。

白井:学校の教室の方が、作業が捗りやすくてね。電子工作は、目と手で覚える方が早いから。

◯◯:それはすげぇわかるぜ。……聞かなくていいのか?

白井:櫻井はどうしてる? チャットには……厳しいか。

◯◯:……。

◇◇:……。

白井:何だよ、聞いてこいって言ったの君達だろ?

◇◇:白井は《課外活動》でいない時だったから、知らないだろうけど。

◯◯:絵の勉強するのに海外留学したんだ。期間は1年くらい。

白井:そっか……アイツ美術部と掛け持ちで入っているからな。

◇◇:……悔いはないのか、お前。

白井:後悔?

◯◯:お前、綺麗な絵描いてたんだろ?

白井:何言ってるんだ。1年後に戻るんだし、それに、あの絵はボツだよ。

◇◇:決めつけるのはもったいないだろ?

白井:アイツが描くのはキャンバスで、俺が描くのはタブレットのペイント画像。そんな絵を彼女に見せたら悲しむだろう?

◇◇:◯◯、これ言っていいか?

◯◯:いいぜ。

白井:まだ話してない事があるのか?

◇◇:白井、櫻井からの伝言だ。『白井君の描いたタブレットの絵が久しぶりに見たい』って。

白井:……いいのか?

◯◯:本人の希望なんだぜ? メアド知ってるだろ? もう一度評価してもらえよ。意外と喜ぶかもしれねぇぜ?

白井:……そうだな。部屋を出たら、アイツのメアドに送るよ。

◇◇:そうこないとね。

◯◯:じゃあ、早いけどお開きにするぜ? 俺達もう寝るからな?

◇◇:おやすみー。

白井:おやすみ。


[チャット終了]



「海外留学か……」


 フゥと俺は息を吐いた。


「ま、櫻井もチャットしないけど」


 それでも文字だけでいいから、会いたかったなぁと俺は思ったのに。


 櫻井とは、俺の同級生の櫻井美空(さくらいみそら)という女の子だ。


 美術部と掛け持ちで研究部に所属している。


 知識は乏しいが絵がうまく、完成図のイメージから回路図などの製図を作成した。だから俺達は作業に専念できた。


 櫻井がいなくなったからと言って、別に回路図ぐらいは描けるから、心配無用だが。


 俺には他に約束事があった。


 個室のロッカーから持ち出した携帯電話。


 メモリーカードをうまく取り出して、PCの差し込み口に購入した。


 データは自動的に表示され、別途設定は必要なかった。


 俺はフォルダ内から、1枚の画像ファイルを探して、プレビュー表示をした。


 何の変哲のない、風景画。


 花がたくさん咲いている所は、他の風景画とはちょっと違う所だろう。


 絵の具で描いたような水彩画。


 何の説明がなければ、手書きの絵画で美しく感じとる人もいるかもしれない。


 実はこれ、俺が植物園に1人で行った時に、タブレット端末でデッサンと色付けした画像だ。


 手書きキャンバスの要素なんてどこにもない。


 別の絵を彼女に一度だけ見せた。


 彼女はたくさんの指摘をしてきた。


 我に返って反省したようだが、彼女にはデジタル化された絵画は苦手なのだろうと納得してしまった。


 美術部でキャンバス上に筆で絵を描く彼女なら尚更だと。


 だから自分のデータに残したままだった。


 だけどここで尻込みしていてはいけない。


 せっかく仲間が後押ししてくれたんだ。


 勇気を出して、絵を見せるんだ。


 俺は登録済みのブラウザ上のメール機能で、絵の画像ファイルを添付し、彼女のメアドに送った。


 多少の応援メッセージと、正直な絵の情報を伝えて。


 メールは無事に送信できた。


   ★★★


[ラストコア]臨時支部内の通路も、愛嬌市内の本部と内装は似ていた。


 カメラ映像ではあるが、窓際側のスクリーンは海底の様子が映っていた。


 白井3兄妹に付き添っていた武人と、避難誘導に関わったジェームズが同じ場所で立っていた。


 ドア側の壁に、2人とももたれながらだが。


 ジェームズが武人の所にやって来たのは、報告する為だった。


「土星圏の支援が可能になった。《宇宙進出》の日も近くなるだろう」

「技術の伝授なん?」

「船を何隻か用意してくれるみたいだ。数次第では日が短くなるかもな」

「今回の目的は手っ取り早い方がええ。……奴は早く止めないとな」


 ジェームズはポケットから自販機で入手した缶コーヒーを取り出して、開けた。


「しかし、[トンケ団]だったか? 土星圏を支配していた割に大した事なかったな」

「強いのはHRのトンケだけや。昔見た時は華奢やったけどなぁ……かなり改造されとったな。智将に指揮任せてたみたいやし」


 武人が言っている間に、ジェームズはコーヒーを1口飲んだ。


「昔のトンケは頭悪いHRちゃう。改造で身体が大きくなっていって、思考が弱くなったんやろうな……」

「いいのか?」

「何がや?」


 ジェームズが武人を見た。


「王子に戦闘を挑んで来い、とお前は言ったようだが……」


 武人は通路の天井を見ていた。


「[宇宙犯罪者]がのうのうと生きてたらあかんし。俺も変身のせいで寿命も縮まっとるしな。最後に生き残りに倒されたとしても、俺に悔いはあらへん。……クーランに潰されたら話は違うんやけどな」

「先に《宇宙進出》を目指すんだな」

「そうや」


 ジェームズは残りの缶コーヒーを飲んだ。


「船がやって来たら、試用運航後に進出をしたい。HRを悪用し、宇宙の秩序を乱す輩を打ちのめしたい。クーランの討伐は、その先駆けとなるやろう」

「衛星データも、王子達の話でも……悪用する権力者の始末のニュースを耳にした事がないな」

「それだけHRの開発技術も発展してしまったんや。負の資産だけ、肥大化しとる。俺も負の資産の一部やけどな」

「子供達にしたら、違うと否定しそうだがな」

「それだけでも十分や」


 ここで2人の会話は途絶えた。


 ジェームズは缶コーヒーを飲み干して、回収箱に捨てに行った。


   ★★★


[レッド研究所]のクーランは頭を抱えていた。


 自分の部屋に1歩も出ずに、ある現状に悩まされていた。


『強力なHRの不足』だった。


 まず、『自慢の息子』のラルクは研究所内どころか、火星圏タレスにもいない。


 彼は地球に潜んでいるからだ。


 次に、雇ったHR達の欠員。エスト、ヒスロ、ニシア、マルロの4名は既に倒されていた。


 依頼を行った時に拳で回線を切られたトンケも、つい最近倒されてしまった。


 5名全員が、[ラストコア]との関わりを持っている。


「あそこにはラルクがいるが、強大な組織には見えんがなぁ……だが結果ははっきり出ているしなぁ」


 以前からクーランは情報をこまめに入手していた。


 マルロの報告以外でも、彼は偵察用に衛星やHRを飛ばしていた。


 原始地球のロボの正体も、パイロットの素性もわかっているのだが……。


「やっぱ博識な俺が出向かんとダメだなぁ。いくらリーダー格でも、HRは思考力が欠けているわ」


 クーランがため息つきながら呟いていると、部屋の奥のモニター画面が切り替わった。


『クーラン様!』


 金髪の顔の良い《オス》が、真っ直ぐ見つめていた。


 音声のボリュームのせいか、クーランの身体が微動に揺れた。


「ああ、金星の王子様ね……」


 相手を確認すると、彼は平静を取り戻した。


 金星圏メイスの、ビウス・エクステラ。


 彼がクーランの通信相手になっていた。


 実は彼もHRであり、[宇宙犯罪者]に指定されている1人である。


 本人はプライドが高く、『犯罪者』のレッテルを張られる事を不服に思っているが。


「何か用?」


 クーランはとりあえず、話だけ聞こうとした。


『同志達から聞きました! 他のHRが全て倒されたと!』

「あー、うん。俺のとこのはな」

『でしたら、是非我々をお使いくださいませ!』


 キラキラと笑顔で話すビウス。


 聞き手のクーランは頭を掻きながら、苦い表情をしていた。


「いや、いいわ。ちょっと俺に考える時間をくれや」


 クーランの応答に、ビウスが吠え出した。


「何故です! 我々は準備万全なのですぞ!」

「お前ら、何にも調べてねぇのか?」


 クーランは首を左右に振って、ビウスの過剰さに呆れていた。


「知っていますとも! 地球には憎きラルクが生存しているのでしょう! 地球人と手を組んで!」

「じゃあ地球人の素性まで……いやこれはいい。地球産のロボは? あと地球に協力する宇宙人は? お前さんはどこまで、この情報を知っている?」

『子供が操縦するロボでしょう!』

「ガキが扱うから、地球産のロボの守りが堅いんだろう?」


 クーランの答えに、ビウスは口を閉じてしまった。


 これ以上ビウスを指摘しても時間の無駄と思い、クーランは話を変えた。


 その時、両目を閉じる仕草をした。


「で、お前さんは何で奴に挑みたいんだ?」

『奴は、ラルクは、エトラトル様を消したのだ! 我々の希望の女神を、あんな火星男に……!』


 ビウスの発言に、怒りの感情が見えていた。


「あの嬢ちゃんはフェルホーンで、お前はメイス出身だろ? 利害関係ねぇじゃん」

『女神様を斯様な呼称で呼ばないでください! あの方は、元はメイス出身のHRなのです!』

「拾われたのは聞いてたが、メイスだったとはな……」


 新たな事実を知ったクーランは、右手の指で顎の肉を摘んでいた。


「俺も人の事言えんが……恨みだけではラルクは倒せんぞ? 対策は施すつもりか? 真正面から突入したら、やられるぞ?」

『それはこれから……』

「だから遅いって。確かにお前さんの力は認める。だが力のゴリ押しで、今の地球人に勝てるかと言えば難しい。開発も交渉も、かなり力を入れてるしな」

『でしたら、これはどうでしょう?』


 ビウスは右手を前に出した。


『クーラン様は一研究所の博士であります。繁栄の継続の為、開発と研究に専念したい筈です。時間と引き換えに、我々がラルク討伐に参りましょう!』


 ビウスの提案に、クーランの目つきが変わった。


「いいのか?」


 ビウスの反応は早かった。


『はい! 要は取引をしましょう! 我々はラルク討伐、クーラン様は新兵器の開発のみ。これでクーラン様は一歩も出なくていいでしょう!』


 クーランは彼の言葉を聞いて、自分の行動を振り返ってみた。


 ここ数年、自分の部屋から出た回数は少なくなっていた。


 久しぶりに身体を大きく動かすと、すぐ疲労が溜まるのは経験済みだ。


 ならば、もう少し部屋に籠る方が楽だろうと、 クーランは金髪の高貴な《オス》に気付かされたのだ。


 最終的にクーランが決断を下した。


「わかった。必ず仕留めてこいよ? 取引だし、報酬も弾むように考えておくぞ」


 既にキラキラ輝いていたビウスの表情が、更に明るくなった。


『かしこまりました! 我が同士達とともに、討伐に参ります!』


 敬礼の構えをした後、ビウスは自ら回線を切った。


「はあ……無駄な出費をしたなぁ」


 暗くなった部屋の中で、クーランは再びため息を吐いた。


「運動でもするか……」


   ★★★


[トールメイス]は派手な装飾のついた、金星圏産の汎用型の宇宙船だった。


 メイン制御室であるブリッジに、男性陣が集まっていた。


 全員、髪の色は金髪の、凛々しい若者達。


 宇宙船が金星圏産ならば、乗組員も金星人がほとんどなのも当然で。


[トールメイス]内は全員が金星人だった。


 彼らの先頭に立ち、彼らに向けて演説を行う《オス》がいた。


 先程クーランと取引に応じたビウスだった。


「同士達よ、時は来た! 我々の女神様を打ち砕く憎き《オス》を裁く時が! あの《オス》はクーラン様から逃げ、女神様と密かに添い遂げていた! 不埒な輩は断罪せねばならぬ!」


 ビウスは高らかに言った。彼の演説に応えているのか、聞き手の同士達はおお! と歓声をあげた。


「奴を、ラルクを野放しにするわけにはいかぬ! 闘志の持たぬ愚か者はこの世に要らぬ! 同士達よ! 我と共に行こう!」


 歓声の音量が大きくなった。


「目指すは地球! ラルクと、奴に従う者を始末する! 皆よ、配置につけ!」


 ビウスの号令に同士達が従い、各々の配置についた。


 ブリッジ内を任されている者以外は、素早くブリッジから出ていった。


 ブリッジの正面奥はモニター画面になっており、ブリッジ以外の船内の様子が映し出されていた。


 各画面に共通しているのは、皆ビウスの同士達が横一列で並んで立っていた。


「よし、現在位置を確認しろ! 我々はどこにいる!」

「我々の母星を出たところです!」

「3日あれば地球降下できる! 皆の者、進め!」


 ビウスの号令は、[トールメイス]のみならず、左右の2隻の宇宙船も前進させた。


 今は小さく見える地球だが、宇宙船では目標がくっきり表示されていた。


(この美しき原始地球、本来は我々高貴なメイス人が手に入れるべき星。10年前のフェルホーンの降下に、目を瞑る必要はなかった……今度こそ、我々の領地にするのだ)


 ビウスはラルク討伐と同時に、地球獲得の野望も抱えていた。


 船長席で座ったまま、真剣に青い星を目でとらえていた。


   ☆☆☆


[ラストコア]臨時支部でも、警戒体制は万全になされていた。


 地球上に敵が出現している訳ではないのに、突然の警報。


 俺はメールを送ってから、閲覧室に頻繁に通っていた。


 彼女からのメールを確認したかったからだ。


 この時も、メールボックスに彼女のアドレ スはなかった。


 警報がやかましく鳴り響く。閲覧室から出て、出撃に備えないと。


 PCの電源は自動的に切れる。


 USBメモリ内の画像ファイルは送っているから、荷物はない。


 俺はイスだけ素早く元に戻して、閲覧室を出た。


 通路は走っていい場所ではないが、走っているスタッフさんがちらほらいた。


 俺は腕時計型の[転送装置]があったので、スイッチを押して一瞬で移動してもらった。


 コックピットの中まで移動できるなんて、すごい機能だと感心していた。


 そんな感動している暇はない。


 備え付けのパイロットスーツに着替えて、レバーを握らないと。


 勇希と未衣子も、次々乗ってきた。


【パスティーユ】は合体前のジェット機状態。


 輸送機の中に格納されたままで飛行すらもしていない。


 エンジン自体は起動しているので、モニター画面で外の様子は確認できた。


 大気圏に突入した宇宙船が3隻。


[ラストコア]は衛星ロケットを飛ばしていて、宇宙からの映像も入手できた。


 大気圏突入は成功する。


 熱の膜が無くなった瞬間に、敵の船の外観を視認できる。


 輸送機は既に発進していた。


 敵の降下地点は太平洋上だと推測されている。


 弟と妹もレバーを握っている。


 武人さんも同じ輸送機に乗っている。


 ニコンの王子達は別の輸送機で待機していた。


 ようやく、敵の宇宙船が地球内に入った。


 金色? の飾りが多く、凝視すれば目が痛くなりそうな船だった。


 真ん中で先陣をきる船だけが豪華だった、というのが救いかもしれない。


 3隻ともに派手な船だったら、めまいを起こしそうだから。


『あー、あれは金星の奴やな……』


 武人さんが言った。


『知っているの? 兄ちゃん』


 未衣子が尋ねた。


 武人さんは首を左右に振って、

『いや、金星も広いから、未確認の新しい奴でも出たんやろ?』

 と返した。


 俺ははぐらかしているのだろうか、と考えていた。深読みしすぎだろうか。


 戦闘を交えたら色々判明するし、今は気にしなかった。


   ☆☆☆


「うっ、摩擦熱が強力です!」

「怯むな! 我らの船は他星よりも頑丈だ! 第一、金星圏の硫黄ガスはこの数百倍は厳し いのだぞ!」


 大気圏突入した[トールメイス]のブリッジでは、ビウス含め全乗組員が慌てていた。


 ビウスも仲間達に叱ったが、彼自身も地球降下は初めてだったのだ。


 他星との和平的交渉は、同じ金星圏のフェルホーンの独壇場だったのだ。


 外の宇宙に出ることすら、メイス人には不可能だった。


 彼らもルーツを辿れば、過去の地球生物の魂から来ているとの言い伝えがあるのに。


 メイス人が『外』に出るには、強くなるしかない。


 ビウスの軍団もHRが多かった。もちろんビウス本人もHR。


 西洋の貴族紳士の身なりをした彼は、ロボ形態【シェーク・フローレ】も中世西洋の鎧をモチーフにした見た目となっている。


 今はまだ船長席についたままで、金髪の麗しき《オス》の姿だが。


 突入には成功した。


 しかしブリッジのモニター前の操縦士は、冷静さに欠けていた。


 おかげで[トールメイス]は太平洋の水平線とは平行な角度を保たないまま、落下していた。


 速度の計測も誤ったせいか、初動でスピードを出しすぎていた。


 結局、[トールメイス]は太平洋の海に着水して、沈んでしまった。


 残り2隻は後続の体制を取っていたためか、うまく制御して着水で済んだ。


   ☆☆☆


『ど素人のやり方やなぁ』


 輸送機の後ろで飛んでいる武人兄ちゃんのセリフだった。


 HRのロボ形態で兄ちゃんは備えているけど、セリフの雰囲気がのん気に感じられた。


 その真逆が操縦士さんの張り合った声だった。


『宇宙船が沈んだんですよ! 津波被害が出てくるかもしれません!』

『そうですね……』

『王子とか土星人も来てるんや。避難誘導は伝わっとるし、沈んだ船が這い上がらんように祈ろうや』

『だよな。そっちの方が楽だし』


 勇希兄ちゃん……確かに残りの茶色い船を潰したらいいだけにはなるけど……。


 戦闘は残りの2隻の船を落とす目的へと変わる、予定だった。


 沈没したと予想した派手な宇宙船、這い上がり時も威勢がよかった。


 波が大きくうねり、津波の二次災害が起きないか心配だった。


 災害関連処理は全般的にスタッフの皆さんに任せきりなのだけど。


 大気圏突入時でも眩しかったのに、近くで見るとさらに目が痛くなる。船を凝視しない方がいいな。


 宇宙船も派手で大層だなぁと思えば、乗組員の態度もデカいなぁと実感したのが、宇宙船から発せられた音声だった。


『ラルク! そしてラルクに跪く愚かな原始人共よ! 我々は金星圏メイスの高潔なる軍隊、[エクステラ隊]である! 我らの尊敬する女神様を失わせた罰として、貴様らを処刑する!』


 また武人兄ちゃんをラルクと呼ぶ人が出てきたなあ。


『女神様?』

『兄ちゃん、知ってるか?』

『うーん。金星圏は知っとるけど、女神様おったのは聞いたことないわな』


 武人兄ちゃんがとぼけてるぐらいだし、私達が知るわけないよね。


 すると、私達の会話を聞いた船の中の男の人が怒鳴った。


『誤魔化すではない! エトラトル・フェルホーンの名を知らぬ筈はなかろう!』

『さあ? それが何か関係あるん?』

『このぉ、黒ずくめ犯罪者がぁ!』


 派手な宇宙船の前方の扉が開き、1体のロボが出てきた。


 金と銀のみでできた中世西洋風の鎧が、巨大化したみたいな姿だ った。


 この人もHRかな?  ロボっぽくはないから。


 彼の後ろから、次々とロボが宇宙船から出撃してきた。


 銀1色の、こちらも中世西洋風の鎧のようなデザインで眩しくはなかった。


 ボスはやっぱり、1番最初に登場した金銀の鎧の人らしいね。


【パスティーユ・フラワー】のロッドで蹴散らすか。


 ロッドを右手であげて光の球を繰り出そうとしたが。


 ビュンビュン、風が吹く音が激しかった。敵のロボ軍団の、動きが速いのだ。


 また油断したのかな……。


 広範囲の技で一掃するつもりが、素早く散られてはダメージを思うように与えられない。この人達はうまく切り抜けるだろう。


 スピードに気を取られすぎたせいか、【フラワー】に衝撃が走った。


 敵のロボ軍団の1体が、体当たりして来たんだ。


「きゃっ!」


 衝撃で機体の中が揺れた。私は咄嗟に変な声を出した。


【パスティーユ】は常にバリアを張っているから、ショックは和らいでいるけども。長くは保たないなぁ。


『大丈夫かお前達!』


【ホーンフレア5th】が王子に応えたのか、【フラワー】に駆け寄った。


【ブラッドガンナー】は両手 の銃で敵を引き離していた。


『これは速さ比べの方がええな!』


【ブラッドガンナー】の銃の1発が、敵のロボの1体の片足に当たった。


 命中したロボは速度を下げた。


 ロボはよろめいて、ゆっくりと下に落ちていった。


 武器の剣を投げつけようとしたらしいが、追い討ちの銃弾で機能を停止させていた。


『ビウスという金星人、騎士道精神マシマシ男やから、剣同士で勝負したらええんとちゃう?』

『【スカイ】で挑むって事、ですか』


 和希兄ちゃんが呟いた。


『勇希、未衣子。今から【スカイ】にチェンジしようと思う。バリアは張るようにしてほしいが、装甲は弱くなるだろう。少しの辛抱、耐えてくれるか?』


 モニターの四隅で兄達と連絡とっているけど。


 四隅の小さい画面からでも感じ取れる、和希兄ちゃんの真剣さ。


 真っ直ぐに前を見ていたから。


 真摯な姿勢で取り組みたい和希兄ちゃんの気持ちを、私と勇希兄ちゃんは拒むことができなかった。


「大丈夫だよ。変わりたい時は言ってくれたら変わるよ」

『兄貴は控えめすぎるんだよ。ガツンと行く時いかねぇと後悔するぜ?』

「行き過ぎて泣き喚く誰かさんよりは冷静だけど」

『おいコラ!』


 勇希兄ちゃんはすぐ反応するなぁ。私も揶揄うからいけないのだけど。


『今回も敵の大将落としていこうな?』


 周りの手下は俺らが協力して落としとく、と武人兄ちゃんが引導を渡そうとしていた。


 これに反発した男がいた。


 武人兄ちゃんに女の人の事で因縁を持っていたビウス? だった。


『逃さんぞラルク! 貴様の相手は私だ! 心身ともに腐りおって……!』


 ガンガンガン、と3発の銃声。弾の行方はビウス本人ではなく、彼の後ろの離れた手下達の心臓部分に定まっていた。


 ロボ形態の手下達は撃たれると勢いを失って、ゆっくり下の海へ落ちていった。


 これなら雑魚は無視でいいか。


 武人兄ちゃんは固まるビウスに向けて、正直な話をした。


『エトラトルは自らを捧げただけや。負傷で意識を失った俺を救うために。エトラトルに報いる為の復讐やったら、クーランにするべきや。10年前の地球襲撃事件の主犯はアイツやから』

『ふざけた事を抜かすな! 動揺をさせる気か!』


 また銃声が響いた。これもビウスの後ろにいた手下に向けられたものだ。


 同時に、兄ちゃんの背後にも手下が!


 和希兄ちゃんに【スカイ】で飛ばさないと、と焦燥に駆られてると。


 藍色の小さな槍が、手下の心臓部分に突き刺さった。


 手下は武人兄ちゃんに手を下せずに、落ちていった。


『因果関係の話をしている場合か貴様! 今回はHRだらけなのだぞ!』

『わかっとるって王子。コイツは甘ちゃんやから、一言添えただけや』

『早くケリをつけるぞ』

『被害が大きくならんように終わらすか』


【ホーンフレア5th】と【ブラッドガンナー】はビウスから距離を離した。


 舐められたビウスが黙るはずがなく、兄ちゃん達に攻撃を仕掛けようとした。


『批判を述べるのならば、私と勝負せんか!』


 ロボ形態の彼の剣が上から下へ振り下ろされる前に、刃が何かにぶつかった。


 本当はぶつけたが正しいかな。


【パスティーユ・スカイ】の青く澄んだ2本の剣が防いでるから。


 相手が武人兄ちゃんじゃないと知ったビウスは、すぐに【スカイ】から距離を取った。


【スカイ】の2本の剣は、目の前でクロスしたままの構えだった。


『武人さんの前に、まずは俺が倒しますんで』


 和希兄ちゃんの宣言だった。


 私と勇希兄ちゃんは黙って機体の状態チェックに徹した。


『あの愚か者につくとは正気か! 奴は多くの生命を追いやったのだぞ!』

『追いやるのはあなたも同じではないですか? 浮上時にあれだけ宣言しておいて……撤回しませんよね?』


 和希兄ちゃんが饒舌でビウスは言い返せなかった。


 兄ちゃんは、

『さて、試合を始めるか』

 と笑みを浮かべた。


   ☆☆☆


[レッド研究所]は実験施設から製造施設まで完備している、総合的な開発機関である。


 クーランの部屋だけが、彼の仕事場ではない。


 クーラン本人が部屋から出なかったのは、備え付けのモニターの通信で指示系統全般を発信できるからだ。


 とうとう彼が、自室を出るようになった。


 頼みの綱にしていた[宇宙犯罪者]達が、悉く消されていった。


 頼り甲斐のないビウスも予想通りなのか、端末で戦況が芳しくない事を確認した。


[ラストコア]の統制制御室のような司令室は、[レッド研究所]にも存在した。


 司令室に特別な名前はつけていない。が、機能は充実していた。


[レッド研究所]から発する電波の範囲は広かった。


 火星圏タレスに位置するこの研究所だが、太陽~土星圏まで電波が届いた。


 天王星圏スイルのマルロ・ヒーストンと頻繁にやり取りをしていたのは、天王星圏から奥の太陽系外まで電波が届かないから。


 司令室の地下は、電気が蓄えられていた。


 蓄電した電気は放電し、振動が生まれ、その積み重ねが電波の距離を伸ばす仕組みになっていた。


 同時にクーランは、電波が届く各惑星圏に衛星を数十機飛ばしている。衛星も立派な通信回線の強化につながっていた。


 司令室は自動操縦で、基本的に誰もいなかった。


 中央奥までクーランは歩いた。


 中央奥のコンピュータ群が、司令室のメイン制御装置となっていた。


 配線のつながったマイクを口元に寄せて、クーランは口を開いた。


「いいか? 照準は金星の王子様だ。せめて四肢だけでもチョッキン、だ。王子様が壊れたら軍団は一気に戦意を失う。ガキ共? 今はまだ放置しておけ」


 誰かに指示を出しているクーランだが、静音設定で彼以外は相手側の声は聞き取れなかった。


「じっくり痛めつけてやるよ。マルロは証言だけで戦意喪失を促したが、効果がなかった。実践で引き剥がして、ガキ共を殴りつけさせるのがわからせやすいとな。……ラルクを連れ戻す準備もするからな」


   ☆☆☆


 地球の高校生である和希兄ちゃん。


 HRで部隊のリーダーを務めるビウス。


 ロボ搭乗状態の地球人と、ロボ形態に変身した金星人。


 両者の力量に差はなく、拮抗していた。


 良く言えば和希兄ちゃんはかなり善戦をしているし。


 悪く言えばビウスが他の[宇宙犯罪者]より弱いと判断できる。


 実は和希兄ちゃん、中学時代の途中まで剣道教室に通っていた経験があるんだ。


 メキメキと強くなっていった勇希兄ちゃんと違って……弱い印象を受けていた。


 けど何度かジュニア大会に出ていた実績もあったんだ。


 趣味の電子工作と勉強を理由に、剣道の稽古から身を引いたのだけど。


 HRのビウスといい勝負しているって事は、和希兄ちゃんは剣道の勉強もおさらいしていたのかな。


 和希兄ちゃんも私と似て、自分自身を前に出さない内向的なタイプ。


 勉強、電子工作の合間に、今回の剣術戦に備えたんだろう。


『くっ、やるではないか!』


 カキンと刃の音がはっきり伝わった。


「和希兄ちゃん、エネルギーがまだ5割程残ってるよ?」

『もっとパワー出してもいいんじゃねぇの?』


 サブパイロットとして和希兄ちゃんのサポートにまわった私と勇希兄ちゃん。


 エネルギーの管理はもちろん怠っていなかった。


 和希兄ちゃんはハアハアと過呼吸気味のまま言い返した。


『いや、もうちょっと詰めていく。あと少しずつ減らしてから一気に攻めていきたい』

「わかったよ。念の為に予備エネルギーを準備するね」

『ありがとう』


 私はパネル操作で予備エネルギーを準備し、接続を行った。


 HRと地球人の差は、あった。和希兄ちゃんの息遣いでよくわかる。


 体力的に見れば、ビウスの方が余力を残しているようで。


 和希兄ちゃんの体力は、もうすぐ限界点まで到達しそうだ。


 コックピットのモニター画面は、私達の健康チェックまで調べてくれていた。


『いいだろう。私の必殺技をお披露目しよう』


 ビウスはロボの半分程の長さの剣を、胸元に寄せた。


 刃先は頭部より上を指していた。


 両手でマイクを持つように握っていた。


 彼の両脇、浮いている足元から白い霧が出てきた。


 白い霧はもくもくとあがり、剣の刃先へ集っていった。


 やがて刃先に、丸い光が現れて、少しずつ膨れ上がった。


『これは……』

『今すぐ離れなあかんで!』

『え?』


 ビウスの手下と交戦していた武人兄ちゃんの声だった。


 同じHRの兄ちゃんが、遠くからでも危険を察知しているって事は……。


『決まりか……』

『回避したらいいだろ! 距離を取ろうぜ!』

「攻撃分をギリギリ残せる範囲で、バリアを張っておくね!」


 その場凌ぎでも、防ぐ手立てを私達は行った。


 ビウスの近くから移動すると、彼は剣先を上に掲げた。


 ロボ形態の頭部の面が、両手で隠された。


 あげる動作は二段階で、今度は肘も位置が変わった。


 どうやら剣を振り下ろす技らしい。


 まだ離れないと、バリアを張ってもダメージをくらうだろう。


 警戒するように、【スカイ】は下がっていった。



 だけど、私達はビウスの攻撃を受ける羽目にならなかった。


 トドメを刺すつもりのビウスが爆発に巻き込まれたのだ!


『え?』

『あーあ、締れへんなあ……』

『ビウス様!』


 和希兄ちゃんは驚き、武人兄ちゃんが呆れ、手下は心配の声があがった。


 私と勇希兄ちゃんはもちろん、驚きの反応だった。


『うわあああああ!』


 ビウスの悲鳴。


 爆発の影響で、ビウス以外の者は状況がわからなかった。


『まさか』

『そうみたいね。宇宙からの発射の軌道が見つかったわ』


 武人兄ちゃんと同じく他の敵の迎撃にあたっていた王子とサレンさんが言った。


 第三の敵が、判明したらしい。


 爆発はすぐにおさまった。


 しかし、姿を現したビウスのロボ形態はボロボロで。


 特に悲惨なのは、手足の先が無くなっていた事だ……。


『HRは生命体や。再構築なんて要素は、余程の改造が施されない限りあらへん』

『やっぱりアイツの手足は……』

『手術でもせんと、回復せんやろうなぁ……』

『そんな……』

『ビウス様!』


手下の2、3人がビウスの周りに駆けつけた。


『フフ……惨めな姿を曝け出してしまった……貴様の言う通り、私は締まりのない戦士だろうな……』

『静かにして下さいビウス様! 今すぐ解除して施術を!』

『もう……よい。撃ってきたのはクーランであろう』


 ビウスは息絶えるのを踏ん張って、話しかけていた。私にはそう映っていた。


『私が幼稚すぎたのだ。クーランにつく周りのHRは皆、力か頭脳どちらか突出していた。私は……メイス随一の大隊長を務めていただけに過ぎない、一介の兵士だったのだ。夢を、見すぎてしまったのだ』

『そんな事は滅相もございません! 我々を導いて……』

『エトラトル様は希望の女神だった。彼女の宇宙進出が一縷の望みだった。……ラルク、貴様がエトラトル様に手を掛けてないのは存じている。クーランの襲撃で倒れた貴様を、彼女は救っただけだと。だが、私の怒りが収まらなかったのだ』


 ビウスはぎこちない動きで頭部を【スカイ】のいる方向に向けた。


『我々は降伏する。残存兵をそちらで扱ってもらいたい。私はこのまま命を絶つ。……青年よ。君の蒼き剣で私を刺してくれまいか?』

『ビウス様?』

『勝手な事を言うな!』

『ちょっと待ち、王子と手下君』


【ブラッドガンナー】の手があがった。


『ビウス、残存兵の扱いは[ラストコア]の規律に沿ってもらうけど、ええな?』

『我々は兵士の身だ。同士達よ、理解してほしい。我々が討つべき相手はクーランだ。この者達は反クーラン組織となろう。今は新たな同士として、共に戦ってくれ』


 それ以降、手下達が後ろへ下がった。


 ロボ形態のビウスが不思議と浮いた状態になっていた。


『私は呪わない。青年よ、奥まで貫いてくれ』


『和希』武人兄ちゃんが名前を呼んだ。


 モニターから様子を見ると、和希兄ちゃんの手が震えていた。


『いいのですか……こんな勝ち方』

『構わん。神が君達を選んだのだろう。原始地球の空と、空気を味わえただけでも幸せなのだ。私は』


【スカイ】はそこそこのスピードでビウ スの前へ向かった。


 止まると、【スカイ】は1本の剣をビウスの心臓部分……の前に近づけた。


 和希兄ちゃんの震える手は、意外に早く止まった。


『もっと仲良くなれたなら、草花も見せたかったですね』

『そうだな』

『最後まで、目に焼き付けてくださいね。青空』


 剣は勢いよく、下に降りた。


【スカイ】の手によって、ビウスのロボ形態の心臓部分に穴が開いた。


 大きな音がする筈なのに、音が聞こえないような感覚がした。


『櫻井、今は俺も留学生だ。今度は、海の絵を描くよ』

「え?」

『いや、なんでもないさ。もう帰ろうか。』


【スカイ】は剣を収め、輸送機へと帰った。


 背後では後に聞いたビウスのHRの名、【シェーク・フローレ】の胴体が海に落ちていった。





 ☆☆☆☆☆


 ここでバカみたいに短期間で地球へ行ける発言をしておりますが……。


・惑星とは違う位置にある。

・宇宙船の技術が進歩している。


 と思ってサラッと読み流して下さい……。

ごめんなさい……。

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