第2話 呪

 日記は日に日に荒れていた。


 【8月21日】

 また聞こえた。「呪」の声。時計を見たら2時22分。なんで毎日同じ時間なんだ。誰かが俺を呼んでいる気がする。

 「開けてくれ」って。


 【8月25日】

 夢の中の“俺”が話しかけてきた。「ここに来い」「お前が代われ」

 なにに? なんのことだ? 頭が重い。寝てても、起きてても、声が離れない。


 【8月27日】

 俺が俺じゃなくなっていく。

 部屋の中に「俺」がいて、俺を見て笑ってる。

 やばい。これ、夢じゃない。現実だ。

 俺はもう“向こう側”に片足を突っ込んでる。


 【8月30日】

 鍵が開いた。

 入った。

 終わった。

 オレが呪になった。

 真理子は日記を読み終え、部屋の中を見回す。


 重たい空気。三重の鍵は無造作に外され、畳の上には無数のお札、そしてその中央  に――


 鏡が一枚、立てかけられていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る