第32話 またまた千葉電力少女シオリだよ
チホはその日の夜遅くなってから帰って来た。
灯油を入れる大きなポリタンクを両手に持って部屋に入って来た。
二つのポリタンクの中にはクラゲみたいな透明な物が入っていた。
チホはかなり疲れていたので、その日は声をかけなかった。
チホは死んだように眠った。
あたしがびっくりしたのは、ポリタンクの中身が一晩中ちゃぷちゃぷと揺れていたことだ。
ときどき
何これ?
生きてるの?
あたしは謎のポリタンクを前にまんじりともしない一夜をすごしちゃった。
だから、翌朝一番に部屋のあちこちを叩いてチホに新しい電池を要求した。
部屋中にあたしが鳴らす音が響いても、チホは新しい電池をなかなか出してくれなかった。
チホは意地悪をしているという感じでもなく、ただぼんやりとしていた。
考えてみると、殺し屋と殺し合ってきたばかりだから無理もなかったのだけれど、あたしは我慢できなかった。
乾電池はケースから取り出して、プラスを上にして立ててもらわないと、うまく中へ入れない。
スマホも電源を切ってあると、中へ入り込めない。
あたしはしばらく実体化できずに部屋中でもがいていた。
あたしがずっと騒いでいると、チホはああうるさいとやっと重い腰を上げた。
単三電池一個、身長25センチで実体化すると、あたしは
「ポリタンクの中身は何?」
「あれ、超動いてるんだけど……」
「
まだ昨日の疲れが残っているのか、チホは普段よりさばさばした感じだった。
「
そう言って、チホは紙袋から何か取り出してテーブルの上に広げて見せてくれた。
それは、風船みたいな等身大の人形だった。
「まさか、これがセラミド君じゃないよね」
あたしはびくびくしながら訊いてみた。
「ローラー車に
「違うよ。これは皮。あっちが中身」
チホは床に置かれた二つのポリタンクを指さした。
あたしはポリタンクに顔を押しつけて観察した。
この中に入っている凍らせる前の保冷剤みたいなのがセラミド君だと言われても、にわかには信じられなかった。
「おい、そこの
甲高い声で右のポリタンクがしゃべった。
あたしはびっくりして部屋の隅まで走って逃げた。
カーテンの陰から恐る恐るポリタンクを
「おまえはいつぞやのカミカゼ少女だな。礼を言っておこう」
今度は左のポリタンクが低い声でしゃべった。
「おれは
左右のポリタンクが同時に言った。
あたしはカーテンの陰から抜け出すと、テーブルの上の空気が抜けた人形に「よろしく」と言った。
何か変だなと思いながら、二つのポリタンクにも「よろしく」と言った。
(つづく)
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