(8)

「だから、何で、こうなるんだよッ⁉」

 パーティーのリーダーなのに、このミッション中は、囚人のようにフン縛られて、引き回される羽目になった不幸な奴が居る。

 笑える事態だ。

 その不幸な奴が俺でさえなけりゃな。

「この山の動物さん達は、人間さん達の中で人間さんだけを悪人だと認識してるらしいのだ」

 クロちゃんの許婚だという竜人が、そう答える。

「で、他のほぼ全員が、動物達の殺気が、アニキに向いてるのを察知したんで……カマルの姐さんが、とっさに、アニキの周囲に結界を張ったんだよ。動物達をアニキから守るのと、アニキを動物達から守る両方の目的で」

 忍者バーグラーのサファルが、そう解説する。

「いや、でも、何で、動物の殺気が俺に向いてると判った?」

「あ〜……秘術系の魔法でも、信仰系の魔法でも『気配を感じる』は、魔法を使う前提スキルなんで……」

 今度は、僧侶のジブリルが解説。

「で、あたしら忍者バーグラーは、基礎訓練の中に、クロちゃん達が使う『気功』の基礎訓練に似たのが有るんで……まぁ、気配に敏感じゃない忍者バーグラーなんてのが居たら、駆け出しの内に大概死ぬ」

「何? じゃ、この一行の中で、俺だけ勘がクソ鈍いって事?」

「概ねそう」

「で、何で、俺だけ悪人なんだよッ?」

「私だって人の事言えた義理じゃないけど……リーダー、私や他の連中以上に『自分はロクな事やってきてない』って心当り有るでしょ?」

 魔法使いのアイーシャが冷酷つめたい声で、そう告げる。

「大体、こいつら、肉食だろ? こいつらが、この山の他の動物を食い殺したら……」

「それは問題有りません」

 聖女騎士サマが、あっさり答える。

「え? 何? この山の主のドラゴンって、ダブスタ糞ドラゴンなの? 人間が動物殺したら、町ごと滅ぼして、動物が動物殺しても、おとがめなし?」

「いえ……この山で生まれた肉食獣で、他の動物を殺すような性質を持っている動物は、この山の主のドラゴンさんが、他の場所に移してます。逆に、他の場所で生まれた『肉食獣なのに、他の動物を性格的に傷付けられない』ような動物を、ドラゴンさんが、この山に引き取って来てます」

 ああ、なるほ……いや、待て。

「いや、ちょっと待って。じゃあ、こいつら何の肉を食ってんの?」

 俺は、クロちゃんの許婚に妙になついてる虎と熊の方に顔を向けて、そう訊いた。

「熊さんは……元から肉を食べなくても大丈夫ですし……あと……虎さんは……人間の社会で言うなら葬儀屋さんです」

「えっ?」

 えっ……えっと、どう云う事?

 何が、どうなってんの?

「自然死した他の動物の肉を食べてます」

 ああ……なる……ほ……いや待て。

 何か、おかしいぞ、この山。

 どうなってんだ?

 何でだ?

 この山は……善意に溢れてるドラゴンが支配してるらしいのに……何で、この山を地獄にしか思えねぇんだ?

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