第9話 桜の木の下⑥

さっきも聞いた前提の話し方

自分が周囲に認知されている有名人という自覚がある言葉だ



「有名人……なの?」


「まぁ、そうね

望む望まないに関わらず

あと芸能科じゃないからね」



僕が再び同じことを聞こうとしてるのを悟られていた



新羅ここの中での有名人ってことよ」



芸能科じゃない有名人

そりゃそういうのもあるだろうけど、僕の世間知らずさは幼馴染の中でも有名だ


僕はそのつもりはないけど


三人曰く他人に無関心

確かに有名人と言われてもピンと来ない

でもそんなに興味をなくした訳では無いと……自分では思うけどなぁ……


僕は、僕の手の届く範囲が平和なら

あとは他はどうでもよかったんだ



「中等部にも見えるわね」


「そんなに子供っぽい……?」


「若く見えるのよ」



17歳で若く見えるって言われてもなぁ……



「じゃあヒジリ」


「な、なに?」



芳野さんはスムーズに僕を呼び捨てにする

そこに戸惑いや躊躇いは一切感じれないぐらいだ

僕は逆に気後れしてしまう



「この絵欲しいんだけど

貰ってもいい?」



さっきまで僕が描いていた絵だ



「それは授業の成果提出で出すものだから……」


「ダメなの?」


「ダメだねぇ」


「けーち」



提出物だって言ってるのに拒否るとケチ扱いされた……!



「他の絵なら別に良いけどさ」


「他の、ねぇ」



ペラペラと僕のスケブをめくる

暇があれば僕は絵を描いている

さっきの休み時間もそうだけど、色々と僕は描いていた


癖というか、日課みたいなものだった



「でも僕より上手い人なんかザラにいるからね」



確かに多くの絵を描いている

子供の頃からずっと描いていた


当時は特別上手いように扱われていたけど

でもそれは芸術科ここにくる人が大体通ってくる道で

有り体にいえば基礎の基礎なんだ


きっと僕は平々凡々で凡庸の特徴がないのが特徴というポジションに違いない



「……いいの?悪いの?

やっぱりあげたくないの?

はっきり出来ない?」


「悪いなんてことは無いけど……!」



そう、けど、だ


悪いなんてとんでもない、そう思ってくれてたこと自体が嬉しいに決まってる

ただ、でも……どうして僕なんかの絵を……?とどうしようもない疑問を思ってしまう


こういう事に慣れてなくて気恥しいのも勿論あるんだけど……



「……はっきりしなさいよ」



そう笑顔で言う、気のせいでなければ後ろに阿修羅が見える

なんでこの人笑顔で圧をかけれるんだ



「……提出物以外なら大丈夫なのは変わらないよ

大したものじゃないけど、それで良かったら」


「そ、じゃあ……」



パラパラと適当にめくっているように見える

ちゃんと確認できてるんだろうか?



「これ」



そして決めていたかのようにそこで止める


休憩時間に描いていた日常風景だ

軽く描いているいわば落書きのようなもの



「そんなのでいいの……?」



変哲のない日常

だけどかけがえのないもの


けどそれは僕にとってであり、芳野桜花その人には何の接点もない絵になる



「あげたくないの?」


「そ、そんなことは無いけど」


「じゃあ貰うわ」



言ってそうそうスケブから破り取ろうとする



「待って待って、僕がするよ

慣れてないと変に解けたりするから」



慌ててスケブに手をかけると間違えて芳野さんの手に触れる



「ありがと、ヒジリ」


「こ、コツがあるからね」



飄々としてると言うか

感情は動くんだけど底を見せない人って感じだな……


日常絵をスケブから取って芳野さんに渡す



「ありがと、ついでにサインもお願いね」


「サイン!?

ど、どうして僕のサインなんか!?」


「将来のプレミア狙い」


「押し入れの中でグチャグチャになってるパターンだよそれ……!」


「その為に芸術科にいるんでしょ?」


「それは……」



3人の前では確かにそう言った

でも僕はここに来て自分の天井を知ってしまった人間だった

子供の頃おだてられるままにその気になって、そして挫折を味わった



「僕なんかが芳野さんの言うような人間になれるとは思わない……よ」



自己肯定感の低さ

埋まることの無い幼馴染との差

埋めれると躍起になった一年前の僕


色んな事を思い返す


でも僕はどこまでいっても凡庸だった


思考も発想もセンスすらも


そしてこういう考えに陥る時点で、そこが僕の限界なんだ



「……」



そんな僕を真っ直ぐ見る芳野さん

この人の目力はどうにも強くて、僕が思う弱さを見透かされるような……


そんな気がした

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