第8話 桜の木の下⑤
「ところでいじり君」
僕の事を呼んでいるつもりだろうか?
ここで返事すると定着しそうで嫌だから目をつぶってスルーする
「イジリー君?」
アレンジしないで
「弄り君?」
変換しないで
頭の中でツッコミが出るがこういうのは反応したら負けだ
だからどうしてもスルーだ、それ以外の選択肢は無い
「い・じり?」
どこの国の人だよ……!?
「…………ち、ちなみに僕の名前は聖って言うんだけど……?」
「知ってる
そこまで記憶力弱くないから」
やっぱりワザとか……!
「わかったわよ、聖」
君がなくなった……!?
別にいいけど、芳野桜花って人は距離の詰め方が半端ない
でも妥協案として名前は戻ったからそれは良しとしよう
「それでどうかしたの?
芳野さん」
「桜花」
「え?何か言った?芳野さん」
「…桜花」
「それにしてもやっぱり桜って綺麗だよね
芳野さん!」
「いい度胸してるじゃない?」
めちゃくちゃ笑顔を向けてくる
笑顔なのにめちゃくちゃ怖い
泣きそうになる
名前で呼ぶのってハードル高くない……!?
劔岳や蓮司は男だし幼馴染だ
夏梅だってそう、長い付き合いがあって初めて名前呼び捨てになる
それ以外にも仲のいい異性はいる
名前で呼んでる人もいる、でもそれはちゃんと仲良くなってきたからだ
出会って即名前呼びとかしたことが無い
「おーい、聞こえてるー?」
一人頭の中で葛藤していると肝心の芳野さんは至って普通だ
まぁ、見た目とんでもなくモテそうだからこういうのに慣れてるのかもしれない
「井尻君は耳くそでもたまってるの?」
変換されてる!?
要望に応え無かったら名前が勝手な方向に進化するらしい
とんでもないペナルティだ
「ヒジリ……だよ
おう……か…さん」
「30点、変なアクセントつけんな
さんも要らない」
さんは確かにつけたけど
それはアクセントじゃないんだよなぁ……
陰キャ特有の言葉づまりだ、ほっといてくれと思う
……なら同じ事をしてみるか……!?
そうする事で自分がどれだけ恥ずかしい事をしているか客観的に分かってもらうんだ
なんて効果的……!
一度想像してみよう
『それなら僕の事も呼び捨てにしてよ』
と言う
すると芳野さんは
『あ、会ったばっかりでいきなり呼び捨てにしろって言うの?
恥ずかしいわ』
と返すはずだ
そこをすかさず僕は
『ならお互いの仲が深まってから名前で呼ぼう
ましてや呼び捨てにするのはその後だね』
と繋げる……!
ここまできたらあとは簡単だ
こんな流れが出来たからには芳野さんは
『仕方ないわね……
恥ずかしいのもなんだからそうしましょうか』
となる!
流れは完璧……!
ならば後は行動に移すだけだ!
「それなら僕の事も呼び捨てにしてよ」
「おーけー、ヒジリ」
すると芳野さんは……
「え?」
「ヒジリ」
指差してくる
「oh Yeah」
「何人よ」
寸分すら合わなかった……
「ヒジリとイジリとヤジリどれがいい?」
「ひ、聖かな……」
最早語感で選んでるなこの人
人の名前で韻を踏んで遊ぶな遊ぶな……
「ちっ、つまんな」
おい舌打ちしたぞこの人……
聞こえていないように敢えてのスルー
夏梅とかを見ていても漫画で見るような女の子らしい女の子って本当に居ないよね
油断しているとどんな呼び方になるか分かったもんじゃない
「……その様子見てると
本当に何も知らないのね、あたしの事」
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