この世界は男ってだけで勝ち組らしい

キレ猫

第一章

第1話-1 寝取られ、そして異世界へ

 俺は今、人生の上り坂にいる。何でも高校生になり、初めての彼女が出来たからだ。名前は西野ひより、幼なじみでもある。小さいときに俺達は結婚の約束をした。子供同士のお遊びみたいなものだったが、その頃からずっと彼女の事が好きだった。そしてその想いが遂に叶ったのである。


 今日は委員会の集まりがあった為、ひよりとは一緒に帰れなかった。そろそろ17時になる。今日は夜から大雨だと予報でもあったし、早く帰ろう。


 廊下を歩いていると、教室から物音がする。


 クチュ‥‥チュ‥‥チュパ‥‥‥ヂュル‥チュ‥‥


 何だかすごく卑猥な音に感じた。まるで濃厚なキスをしているかのような。


「んん♡あぁっ♡‥‥もっとちょうだい♡」


 教室から聞こえてくる喘ぎ声に耳を疑った。俺が聞き間違えるはずが無い。アレは間違いなくひよりの声だ。恐る恐る窓を覗くと、ひよりが男子生徒と抱き合っていた。扉を跨いだ先で俺の彼女が他の男と身体を寄せ合い舌を絡め合っている。俺だってまだ彼女とキスなんてしたこと無いのに。目の前の現実を、俺は受け入れられないでいた。


「でもひよりって確か彼氏いたよな?」


「あーアイツ?あんな陰キャ、本当に好きなわけないじゃん!なんか彼氏面してきてマジでキモイって。まあウチに貢いでくれる駒っちゃ駒かな?」


「うえ~、ヒドい女~!」


「ウチの彼氏はハル君だけだよ♡それよりさ、今日うち親居ないんだ?だから‥‥今日も一晩中シよ♡今日は危険日じゃないから‥‥中に出してもいいよ♡?」



 気付いた時にはその場から逃げ出していた。

 もう何を考えているのか分からない。ただただ頭の中がぐちゃぐちゃになっているのだけが分かる。


 そもそも俺はひよりに恋人だと思われていなかった。俺が幸せだと感じていた隣で、都合がいい頭の悪い男とでも思っていたのだ。それがものすごく悔しくて、悲しくて、そんな自分が情けない。


 気付けばもうすっかり夜になっていた。俺の心を代弁するように雨が降り続ける。


 さっきのひよりの言葉を思い返すと、今頃2人は家で2人きりなんだな‥‥。2人は生まれたままの姿で指を絡め、腰を振っている。そんな想像をしてしまい、つい吐き気を催してしまう。もう涙も枯れ果てたというのに、嗚咽が止まらない。


 もう‥‥帰ろう‥‥、


 そう思って橋を渡っていると、川の上流の方から濁流が流れて来るのが分かった。


 ああ‥‥アレに流されれば俺は消える事が出来るな‥‥。


 最愛の人に裏切られ、俺の心は完全に疲弊していた。もういっそ楽になろう。


 俺はそのまま、大雨でかさ増しされた濁流に飛び込み、呑み込まれた。


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