第7話 第二段階と成永からのSOS
騒がしい一行と別れ、成永達と学校に向かう心詠は怒りの理由を聞かれていた。
「ねぇ、心詠?どうしてあんな言葉に怒ったの?呆れるのなら分かるけど……。」
「まだプレイしたことの無い初心者が、ノリと勢いでトップを目指すのは良くあることだよね。」
「………ノリと勢いだけなら、あそこまでは怒らなかった。けど……あの取り巻きその1の声にはなんか嫌な感じがしたと言うか……。ん〜……どう説明すればいいかな……。」
「嫌な感じ?」
「うん。イメージカラーを付けるなら暗い紫かな?」
「暗い紫……これまでの心詠の感覚の傾向からするに……傲慢さを感じたということ?」
「そうだね……傲慢さとか……驕り?なんかそんな感じかな。」
「あ〜……なんかわかる気がする。他の人とかには出来なくても自分達なら出来る!…みたいな?実際、簡単だろって言ってたしね。」
「あぁ、なるほど。つまり彼からはノリと勢いだけじゃなくて、自分に酔ってる感じがしたってことね。」
「そう、それ!」
「なるほどね〜。まぁ、確かにイラッとはしたよね。」
「うん。聞いていて良い気分にはならなかった。とはいえ、あそこまで怒ることでは無かったんじゃない?」
「………私がMOを始めた当時、はる兄はね。まだ最上位職業じゃ無かったんだよ。」
「暖万さんが最上位職業に転職したのって去年の秋頃だっけ?」
「うん。9月の中旬辺り。」
「心詠がMOを始めたのは去年の誕生日からだから……暖万さんが最上位職業への転職クエストに苦戦していたのを見ていた時期ね。」
「うん。はる兄、冬のギルド対抗戦のために最上位職業へ転職しようとしてたの。最上位職業への転職クエストのために鍛錬しなきゃなのに、私やお母さん達のレベリングに付き合ってくれてたんだよね。わざわざ自分の睡眠時間削って。私達のレベリングに付き合ったあとは毎晩遅くまでMOにログインして鍛錬してた。私達がある程度自分達でやって行けるようになってからも、睡眠時間削って鍛錬するのは変わらなかった。他の龍の覚醒の人達だって、似たような状況だったって聞いた。それだけギルドのために頑張ってても、ギルドランキングのトップにはなれなかった。他のギルドの人達だって、同じくらい……もしくはそれ以上に、ギルドのために頑張って努力してたから。」
「それを知っていたから、あんなにも怒ったのね。」
「うん。自分達は特別だから、簡単にギルドランキングのトップに立てる……なんて思って欲しくなかった。」
心詠は暖万や龍の覚醒がどれだけゲーム内で努力したかを知っていた。日々睡眠不足でやつれて行く暖万を、心詠と両親はすぐ傍で見ていた。それでも暖万達はギルド対抗戦で負けてしまった。トップになることは出来なかった。だからこそ、自分達は特別だから簡単にギルドランキングのトップに立てる…などと勘違いしていた彼に腹が立った。
「みよちゃんがあんなにも怒ってた理由は分かった。でも……。」
「怖いのは女性陣よね。多分、今回のことで私達は取り巻き達に睨まれてると思う。具体的に何をしてくるかは分からないけど、たぶん嫌がらせくらいはしてくるわよ。」
「私もそう思う。特にあの人達の中で、みよちゃんの印象は最悪になっただろうから……気を付けてね?」
「うん。ありがとう、2人とも。巻き込んでごめんね。」
「良いのよ、気にしなくて。別に心詠は当たり前のことを言っただけだもの。」
「そうだよ、みよちゃん!それにね…実はちょっとだけスカッとしたんだ。私も
「……ありがとう。」
自身のせいで成永達まで巻き込まれる形になったにも関わらず、自身を案じてくれる。そんな二人に、心詠は感謝と巻き込んだことに対する申し訳なさを感じて謝ると、二人は気にしなくて良いと言ってくれた。だからこそ、心詠は取り巻き達に行動される前に潰してしまおうかなどと物騒なことを考え始める。まだ心詠の中で、彼への怒りは収まっていなかったのだった。そんなこんなで心詠達は学校に到着し、懸念はあったものの大した問題もなく学校生活を終えた。
放課後。心詠は家に帰って宿題を終わらせるとすぐにMOへログインし、リィラとなった。前回ログアウトしたクラフト街からポータルを使い、帝都の広場へ転移する。リィラはそのまま真っ直ぐ進み、劇場へと向かう。ゲーム内の時間では深夜なのにも関わらず、街灯のおかげでそれなりに明るいため迷うことなく目的地まで歩いて行ける。流石は現状、ゲーム内で最大の国家である帝国の首都なだけはある。十字路で左に曲がり、五分ほど歩くと劇場の前に到着した。中へと入り、客席の横を通って最前列の席に座る劇場の支配人に話しかける。
「こんばんは、支配人のおじいさん。こんな夜更けでも劇場に居らっしゃるんですね。」
「こんばんは、リィラさん。最近、疑問に思うことがありまして……どうしても気になって眠れないのです。」
「疑問に思うこと……ですか?」
「ええ。とは言っても、個人的な疑問なんですけどね……。実は演奏して貰う予定だった楽団には私の姪が所属していましてね。甥を通して姪の所属する楽団と連絡を取り合っていたんです。ですが……。」
「連絡が取れなくなってしまったんですよね。」
「えぇ、それと同時に姪は行方不明になってしまったんです。なぜ、姪は行方不明になってしまったのか……どれだけ考えても分からないのです。一体今、あの子は何処にいるのか……気になって仕方がないのです。甥が人を使って捜索して居ますが、未だ手掛かりすら見つけられず……。私も捜索に参加出来れば良いのですが……私はもうこの年齢ですから、参加しても足を引っ張ってしまう。この場所で姪の無事を祈ることしか出来ない自分が情けない限りです。」
「そうだったんですか……。心配ですね……。それなら、おじいさん。私がおじいさんの代わりに捜索に参加させて貰うことは可能ですか?」
「リィラさんが……ですか?」
「はい。同じく音楽に携わる一員として、私も姪っ子さんの捜索をお手伝いしたいです。」
「なんと……それは有難いですが、リィラさんにもご予定があるのでは……。」
「大丈夫ですよ。私はしばらくの間、予定はありませんから。それに、まだ出会ってから日が浅いですが……知り合いが困っていたら助けたいと思うのは当たり前のことです。」
「リィラさん……ありがとうございます。では、兄に紹介状を書きましょう。朝、またいらっしゃってください。用意しておきますので。」
「分かりました。また朝に来ますね。それでは、お休みなさい。おじいさん。」
「えぇ、お休みなさい。リィラさん。」
リィラは支配人さんと別れ、劇場を出るとメニュー画面を開いてクエスト一覧を確認する。連続クエストの第二段階が進んでいることを確認すると、朝まで何をしていようかと悩む。街の外に出てレベリングをするか曲を作るかで悩んだ結果、曲を作ることにした。今作ろうと思っているのは三曲。月夜を題材にした子守唄と太陽を題材にした曲、それから妖精を題材にした曲だ。どれも既に現実で楽譜にしてあるため、あとはゲーム内の紙にスクショを見ながら写すだけだ。リィラが一度、転移ポータルでクラフト街に戻ろうとしたところで通知が鳴った。メニュー画面を確認するとメッセージが届いていた。誰からだろうと見てみると、『白はんぺん』という名前のところに通知マークがあった。白はんぺんとは成永のプレイヤーネームである。つまり、成永からのメッセージということだ。
「……今日はギルド勧誘の当番だって言ってたはずだけど……どうしたんだろ。」
リィラは白はんぺんからのメッセージを確認すると、すぐに返事を返し転移ポータルのある広場へ急いだ。手を貸してほしいということ以外は書かれていなかったため、詳細は何も分かっていない。しかし、白はんぺんが手助けを求めるのは珍しいことだった。基本的には自分でどうにかするか、行動をよく共にしている優友子と共に乗り切っている。そんな白はんぺんがリィラに手助けを頼むのならば、それはリィラにしか出来ないことである可能性が高い。
転移ポータルのある広場に到着したリィラは、始まりの街へ転移すると白はんぺんを探す。周囲には初心者プレイヤーが多く、リィラは明らかに浮いていた。そんなリィラを見つけた白はんぺんが近くへ寄って声を掛けた。
「リィラ!」
「あ、白ちゃん!」
「……あのねぇ。いつも言ってるけど、私のプレイヤーネームは白はんぺんよ。」
「知ってるよ。でも、白はんぺんちゃんより白ちゃんの方が言いやすいし可愛くない?」
「はぁ……まぁ良いわ。メッセージを送った件について説明するから、ついて来て。」
「分かった〜。」
白はんぺんの先導で人気の少ない場所へと移動すると、そこに居たのは初心者装備をしたどこかで見覚えのある四人組と優友子だった。
「あ、白はんぺんおかえり〜!」
「ただいま、ゆず。」
「やっほ〜、ゆずちゃん。」
「やっほ〜、リィラちゃん。」
リィラは優友子のプレイヤーネームである『はちみつゆず』の愛称を呼びながら挨拶をする。そんな和やかな雰囲気に割り込んできたのは苛立った声だった。
「おい!まさかとは思うが、そいつが助っ人とか言わないよな?」
「そうだけど、何か不満?」
「全然強そうじゃねーじゃん!俺らは天陽の守護者みたいな……」
「コーガ、流石に初対面の人に失礼だよ。僕らは助けを乞う側なんだから、助っ人が誰であっても感謝しないと。」
「それは!…………そうだけど……。」
初心者装備の四人組はリィラが予想していた通りの人物達だった。
「………悪いけど、天陽の守護者は今日はほぼログイン出来ないよ。リアルが忙しいから。あと、完全に初対面って訳じゃないよ。」
「「「「え?」」」」
「まぁ、リィラは見た目が変わっただけじゃ気付くわよね。」
「あちゃ〜。まぁ、そりゃそうだよね〜。しかも、今日ハルさんほぼ居ないのか〜。」
「うん。今日はハル兄、バイトの日だから。」
「困ったわね。龍の覚醒に協力をお願いしたかったんだけれど……。」
「龍の覚醒に?というか、どういう状況なの?これ……。」
「あぁ、ごめん。説明するのを忘れてたわ。察しの通り、彼らは宗弥くん一行よ。宗弥くん以外は名前も現実と同じだから分かりやすいけどね。」
「で、リィラちゃんはみよちゃんだよ。天野心詠ちゃん。メイン職業は最上位職業の歌姫。」
「ちなみに、さっき言ってた天陽の守護者は私の実の兄だよ。」
「はぁ!?」
宗弥一行は驚きのあまり口を開けたまま、少しの間呆然としていたが、やがて正気に戻ると一人を除いて睨みつけてきた。
「何?」
「天陽の守護者がお前の兄貴?はん、嘘つけ。お前みたいな性格が悪くて、空気も読めないやつが天陽の守護者の妹な訳があるかよ。どうせ天陽の守護者の名声目当てに騙してんだろ。詐欺は犯罪だって知ってるかぁ?」
「そいつが天陽の守護者の妹かどうかなんて知らないけど、私はこの女に助けを乞うなんて真っ平御免よ。空気も読めないやつが居たら、連携なんて出来たものじゃないわ。」
「妹がどうとか連携がどうとかは分かんないけど 私もこの女きらーい。」
などと好き勝手言っているのを、リィラは冷たい目で見ていた。リィラはもう何を言われても彼らを助ける気が無かったが、一応二人に断りを入れようと口を開く。
「白ちゃん、ゆずちゃん。私、帝都に戻っていい?」
「……なんだか私も助けなくて良い気がして来たわ。」
「まぁ、ここまで言われたらね……。」
「待ってくれ!話だけでも聞いて欲しい。僕らだけじゃ、助けられないんだ!」
必死にリィラ達を引き留めようとする宗弥の言葉に、違和感を覚えたリィラは話だけならと帝都に戻ろうと歩み出した足を止めるのだった。
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