第7話


 祁山きざんの陣に入っていた賈詡かくは、幕舎の中で築城の進捗を確かめていた。


「失礼します」


「入れ」

 副官が入って来る。

「賈詡将軍、天水てんすい砦より陸議りくぎ殿がお越しです」

「陸議が? 一人か?」

「はい」


 珍しいな。

 何となく、その珍しさの裏に郭嘉かくかの気配を感じなくも無かったが、賈詡にとって陸伯言りくはくげんは害のない人間だったので頷く。


「呼んでくれ」


 陸議を差し向けたのなら司馬懿しばいか郭嘉だ。

 馬岱ばたいはどうしたという催促か、まあそんなものだろうと思う。

 すぐに陸議がやって来た。

 意外なことに完全なる軍服姿だ。

 

「君は、確か寝てなきゃいけない状態だったと思うんだが。俺の思い違いだったかな?」


 賈詡は深く一礼した陸議をからかうように言った。

 顔を上げた陸議は凜とした表情で賈詡を見つめて来た。


「司馬懿殿の許可を得て徐庶殿を伴い、黄巌こうがんの行方を追っていましたが、北の山中で徐庶殿を見失いました。全て私の失態です。これより天水砦に戻り司馬懿殿からの処分を受けるところですが、祁山きざんの陣に賈詡将軍がいらっしゃるなら、まずこちらにご報告に来るべきだと思い、出頭いたしました」


 賈詡はさすがに数秒、押し黙った。



「…………なんだって?」



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