あなたのもとへ……

美女前bI

 



「今度の休みなんだけど、暇かな?」


 男の子は私の友人にそう声を掛けるも、そっけない態度で「無理」と突き放した。


 同じ光景を見るのは4度目。


 モテる女とモテない女。どちらが大変なのかはわからない。


 友人の苦労話を聞いて、どちらでもない私は幸せだと思っていた。でも違った。


 いつからだろう。どんなに離れていても、彼を見つけてしまうし彼の言葉も耳に届いてしまうようになった。


「また振られちゃったの?あんましつこいと本当に嫌われちゃうよ」


「う、うるさい。お前に関係ないだろ」


 またやってしまった。


 私に気付いてよ!心は叫ぶが言えるわけがない。彼が好きなのは私の友達だから。


「あ、そうだ。確かお前もこのバンド好きだったっけ……ん?どうした?」


 お前には関係ない―――


 彼の言葉が時間差でズシンと心に響く。そのせいで、リアクションができなかった。だめ、泣きそう。


「か、帰る」


「え?ミカもう帰るの?」


 誰にもこんな顔見られたくなかった。何よりも彼には絶対に見せられない。


 早歩きで廊下を移動する。濡れた頬より鼻水のほうを抑えながら、校舎から、彼から、友達から、逃げた。


 不自然な逃亡だったけど、背に腹は代えられない。


 明日友達に会ったら謝ろう。彼には……顔合わせるのが辛い。


「ま、待って!」


 この声は彼だ。ずっと聞いていたから見なくてもわかる。でも、タイミング悪いよ。手首なんて掴まないで。


「ごめん、あたし用事あるから」


「お、俺もごめん。お前に関係ないだろって言ったのは嘘! 関係ありたい!」


「意味わかんない。離して。誤解受けちゃうよ。さっさと戻ったらいいじゃん」


 これ以上あんたに言いたくないセリフ言わせないで!


 本当に私は最低だ。てか、最悪だ。本当になんでこのタイミングなの?今すぐにでも穴があったら入りたいよ。


「違う!本当はお前を誘いたかったんだ。で、でも恥ずかしいからあいつに頼んでお前と、その、つ、付き合いたくて!」


 えっと……ん?


 ちょっと何言ってるかわかんない。


「あ、やべ。勢いで、告白しちゃったけど。そ、そういうことだから。こ、これだけでも受け取ってくれよ。明日も明後日もライブハウスの前で待ってるから」


 強引に押し付けられたのはチケット。私の好きなガールズバンドだ。マイナーすぎてファンが少ないのに、彼も好きだったのかな?


 涙が止まった。ようやく落ち着いたみたい。振り向くと彼はもういなかった。


 ホッとしながら先ほどのやり取りを思い出す。自分のことに必死で、妄想のセリフが聞こえちゃうほど私はショックだったらしい。


 つまり話をまったく聞いてなかったってこと。


 でもチケットが手の中にある。彼に追いかけられたのは現実。その時私は彼に何を言ったのだろう?話せる余裕なんてなかったと思うんだけど……


 明日も明後日もライブハウスの前で待ってるから――

 

 その言葉だけ思い出した。


 妄想じゃないなら、明日行けばわかるはず。


 でも妄想なら……確認するのがちょっと怖い。


 私は、あなたのもとへ本当に辿り着けるのだろうか……


 






 

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