第31話 VS淫魔
「私の顔を…良くもやってくれたわね…!!」
「俺の拳は男女平等なんでな!!」
積極的に距離を詰め、肉弾戦に持ち込む。
槍相手ならば距離を離さず攻めたほうがいいという判断だ。
だが、やはり魔族、身体能力は人間とは比べ物にならない。
「チィっ…!!」
決定打を打てず、二人は互角に体力だけを削っていた。
「さっきから胸ばっかり狙い過ぎじゃないかしら!?」
「うるせぇ!!さっきからバルンバルン揺らしやがって!集中できねぇから抉ってやるんだよ!!」
「なっ、抉るって…ちょっと酷すぎないかしら!?」
「ふんっ!!」
全力ストレートの拳は淫魔の胸のスレスレを通り過ぎる。避けられたエイルは体制を崩したが、そこに振るわれた槍を左手で掴み、転びそうになった体を槍を利用して立ち直り、そのまま膝に蹴りを入れる。
「くぅっ!!」
「クソッ!!!」
更に追撃しようとしたが、槍を力強く振るわれて距離を取らされる。
「死になさい!!」
そこに、四本の水の矢が迫る。
吹き飛ばされ姿勢を崩していたエイルはそれを躱すことができなかった。
「ガッッッ…」
刺さった矢は、腕と足に一本ずつ、水の矢はその体を貫くことはなく、そのまま形を崩し、パシャリとエイルを濡らす。そしてそこには大きな穴が残り、大量の血が流れた。
「終わりよっ!!」
そこへ、一気に距離を詰め、淫魔は槍を振り下ろす。だが、それは油断であった。
「甘いぜ!!!」
「ギャッ!!!」
飛びかかった淫魔が攻撃するよりも早く、槍が刺さらなかった左腕を振り上げる。相当な深手を負いながらも、エイルはその拳を振るう。
その一撃は、運良く淫魔の顎を打った。だが、淫魔の槍はそのままエイルの腹部へと突き刺さる。
「カフっ───」
「っ…」
そして、淫魔は意識を失った。
水の槍がただの水へと戻り、エイルの体から流れる血と混ざり合う。
ぼたぼたと、その血は止まる様子を見せなかった。
「っ…はぁっ!危ねぇ…意識が………血を…止めないと………」
一瞬、意識を失っていたエイルは指輪に魔力を込め治癒魔法を使おうとするが、集中力が途切れ魔力を込められない。
「あっ………これ………や……ば…………」
そうして、エイルは意識を失った。
意識が途切れる寸前、何か柔らかなクッションに飛び込んだような気がしたが…こんな森にそんな物があるわけがないだろう。
□
「──きて──起きて────」
「レティ」
目が覚める。
するとそこには、とても美しい少女が膝を付き座っていた。
「大丈夫?凄くうなされていたみたいだけど…」
「…はい。大丈夫です。サクラ様…昔の夢を見ていました」
その目覚めは、あまり良いものではなかった。
「酷い顔をしているわ。顔を洗ってきたらどうかしら?」
「…そう、ですね。そうさせて頂きます」
彼女にそう言われ、レティシアはテントから出る。そこは、薄暗い森の中であった。
肌寒い森の中を進み、川で顔を洗う。彼女に言われた通り、川に反射した自分の顔は赤く晴れ、とても憂鬱な表情をしていた。
情けない。今は任務の途中なのに。集中しなければ…
「戻りました」
「お帰りなさい。もうご飯はできていますよ」
「サクラ様、そういったことは私に任せてくださいと…」
「いいじゃないですか。好きなんです、こういうの」
そう言いながら、彼女は木のお椀にスープを注ぐ。
聖女サクラ。二年前聖女となり、現在聖国では、聖女リリィに並ぶ影響力を持つ聖女である。
黒く長い髪と翡翠色の瞳。聖女となった日から一度も留まることなく世界各地をめぐり、数々の民を救ってきた。その生き様は初代聖女を彷彿とさせる献身であり、初代聖女の生まれ変わりとも噂される聖女である。
そして、その護衛は、レティシア・ローズマリーただ一人である。
「今日中に次の街に到着する予定です。そこは魔物避けの結界があるのですが、最近その力が弱まっているらしく、その修復をお願いしたいとのことです」
「わかりました。それでは向かいましょう」
二人は、荷物をまとめ、舗装されていない獣道を歩き出す。
本来であれば聖女は移動では馬車を使うのだが、前の街の復興で様々な物資の輸送が必要だったため、聖女サクラが自身の馬車を街に寄付し、結果歩きでの旅となったのだ。
数時間程度で、城壁が見えた。だが…
「黒煙…?」
「レティ、急ぎましょう!」
街からは黒い煙が上がっていた。
急いで駆け、街につくと、そこは大量の魔物によって蹂躙された街があった。
「レティ!私が魔物を!貴女は街の人々の避難を!」
「駄目ですサクラ様!私から離れては…!!」
「私は大丈夫ですから!!!」
サクラは、レティシアにそう言いながら街の中心へ聖なる力で魔物を討伐しながら走り去っていった。それを追おうとするも、視界の端にサクラが倒し損ねた魔物が街の人々を襲おうとしていた。
レティシアは、迷った結果、街の人々を救うことを選んだ。
それが、最悪の選択だったと気づくのに、そこまで時間は掛からなかった。
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