第30話 襲撃者


 その日から、気まずい空気は…流れなかった。


 次の日、まるで泣いた真実などなかったように普通の態度でいたレティシアに、俺達は何も触れなかった。というよりは触れられなかったが正しいか。


 まあ、そんなわけで彼女に関しては不干渉で行くことにした。わざわざ藪をつついて蛇を出すようなことはする必要はないだろう。


 そんなわけで、俺達は今街の外に来ていた。どういうわけだよ?そういうわけだ。


「…まぁ、特に異変はないか。何かが変わった様子もないな」


 街の近くにある森を散策する。今回の依頼は本来この辺りでは見かけない魔物が現れ、しかもその魔物が凶暴化しているらしく、それを調査してほしいというものだった。調査であり、討伐でないのにも関わらず報酬がとても高いため嬉々として了承した。


 そうやって森の中を進むが、やはり何もない。


 特に怪しい気配…まあ俺が探知できることなんてたかが知れているが、聖騎士団の団長である実力者こレティシアが何も言わないということは本当に何もないのだろう。


 …だが、やはり妙だ。何が妙かはわからないが、何かが引っかかる。


「んー…?あ、魔物がいないのか」


 森に入ってから1時間、ここまで一度と魔物と出会っていない。


 本来魔物というのは自分のテリトリーから出ないものだ。縄張り意識が強く、それは獣型でも人型でも変わらない。


 この森は魔物にとっては絶好の縄張りだろう。にも関わらずこの気配の無さ、まるですべての魔物が消えてしまったかのような錯覚さえ覚える。


 だが、異常な魔物がいるという情報があり、討伐したという報告がないということは確実にその一匹はどこかにいるということになる。その一匹がこの森にいた魔物を手当り次第皆殺しにしたなんてことはないだろう。


「……あ?」


 一瞬、背後から気配を感じ振り返る。そこには、黙々とついてきていたレティシアがいるだけで、それ意外の気配は…


「っ【身体強化】!!!」

 

 指輪に魔力を込め、レティシアの背後から迫っていた強靭な爪を受け止める。


「危ねぇっ!?」


 ギリギリセーフ?ってか…


「レティシア!ぼさっとしてんじゃねぇっ!!」

「は、はい…」


 そのまま力を込めて、その襲撃者…赤毛の狼を投げ飛ばす。


 それを見て、レティシアはもたもたと剣を抜いたが…


「おい、何して…」

「ぁ…え……」


 彼女の身体はまるで蛇に睨まれた蛙の様に、恐怖に震えていた。


 顔は青白く、構え方もまるで駄目。聖騎士とは思えないほどの覇気であった。


「………チッ、マジで面倒事じゃねぇか…」


 頭を掻き、エイルはそう呟いた。


 そんな彼女に気を取られている間にも、周囲に少しずつ怪しげな光が現れる。その光は少しずつ数を増やし、ついにはエイルとレティシアの周囲を囲んだ。


 何かを警戒するように、狼はその場を動かない。


「…十匹、ってところか」


 あの気配の消し方からして、奇襲タイプの魔物だろう。だが、この数の差で、しかもを抱えての戦闘となると…状況はよろしくない。


 逃げる?身体強化の指輪のストックはあまりない。現在手持ちはさっき使用した物ともう一つ、他の指輪は探索の為、戦闘用の指輪は炎の中位攻撃魔法が篭った指輪くらい。


 隠密系の指輪もあるがこうも視認された状態だと使い道はない。


 だが、背に腹は替えられない。こうなったら全部使って逃げるしかないだろう。


「はぁ…最悪だ。こうなるとわかってたなら一軍持ってきたのに」


 一軍、そう区切られた魔導具だ。それさえあればこの程度の魔物はどうにか…


「……ならない、か」

 

 周囲を囲む魔物の後ろから姿を現した女を見て、警戒度を上げる。


「…?まだ生きてるじゃない。何してるの?さっさと殺して……あらぁ…?もしかして貴女、聖騎士?」

「あ、その…」

「悪いが、彼女ちょっと自信喪失中でね。話なら俺が聞くよ」


 レティシアとの女の視界を遮るように体を出し、エイルは話す。


「あらそう?でもまあ、話すことなんてないわ。聖騎士だろうが何だろうが、ここで死んでもらうもの。やりなさい」

「問答無用かよ!」


 飛び掛かってくる狼を下から蹴り上げ、その間に迫り噛もうとしていたもう一匹の口を掴む。


「レティシア!!」

「キャッ…!!」


 その間に、横から襲われそうになっていたレティシアを、エイルは遠慮なく蹴り飛ばす。


 レティシアは受け身も取れずに地面に転がった。


「あぁ!もうふざけんなよ!!【身体強化】っ」


 節約しようと思っていた指輪も使用し、一気に狼どもに距離を詰める。


 守りながらは戦えない。ならば、さっさと全員殺すしかない。


 最初に吹き飛ばした狼に目をつけ、その拳を振り抜く。


 すると、その拳は狼の肉を裂き、骨を砕き、そのまま貫いた。


「まず、一匹」


 それから、レティシアに近い奴らから殲滅していく。血塗れになりながらも、時間は30秒も掛からなかった。


「……貴方、随分とやるわね」

「おう。んじゃ、次はお前だ」

「私がそんな雑魚どもと同じように行くとでも?」

「あぁ、行く」


 その言葉と共に、女魔族に飛び掛る。だが、エイルの拳を魔族は軽々と受け止め、肌と肌がぶつかった乾いた音が周囲に鳴り響かせた。


「【焼き尽くせ、炎の嵐】!!」

「くっ!このっ!!」


 一気にエイルの拳から炎が広がり、魔族を包み込む。だが、炎はいとも容易く吹き飛ばされた。


「……最悪。あの外套、お気に入りだったのに」


 だが、無傷というわけには行かなかったのか、一部焼けた体に外套は焼けて散り散りになっていた。


 その外套を脱ぎ捨て、魔族は姿を見せる。


「…淫魔?」

「正解よ」


 紫色の髪と青い瞳、悪魔の角と尻尾。特徴的なのはやはりその服装だろう。淫魔は肌を露出する服を好むと聞いたことがあるが、まさかこんなにも際どいとは…というかこれもう下着じゃね?


 今にも溢れんばかりのおっぱいは、レティシアに負けず劣らずの大きさであった。


 くっ、目を逸らしたいが、この状況で相手から目を逸らすわけには…


「ふふっ、そんな食い入るように見つめちゃって…そんなに見たいなら見せてあげる」


 彼女はそう言いながらその紐と言えるくらい細い水着のような服をずらす。


「ぉっ!?」

「チっ」


 そのπが溢れる瞬間、俺のそばを青い槍が貫いた。


「あぶねぇ…魅了魔法か」


 ギリギリで躱し、目頭を揉む。


 魅了魔法、淫魔が使うことができる固有魔法だ。それによって視線をひきつけ、水の魔法で俺のことを殺そうとしたというわけか。男心を利用するとはなんて卑劣な…!決しておっぱいに釣られたわけではない。


 だが、レティシアとの出会いがなければ危なかったかもしれない。


 淫魔とレティシアのおっぱいは段違いだ。淫魔はとにかく大きく、それ故視線を惹きつける魅力がある。それが劣っているというわけではないが、レティシアは違う。


 均等が取れ、形も理想、大きさは男の夢が詰まっているくらいでまるで芸術作品。それに比べると…


「ふん、だらしない胸だな」

「はぁ?私は淫魔よ!?私ほど完璧な体なんてどこにもないに決まっているでしょう!!」

「なら、証明してみせろ!お前のおっぱいが上か、それともこっちのおっぱいが上か!!」


 魅力魔法に掛からなければ淫魔など脅威ではない!!



「行くぞっ!淫魔デカ乳!!」

「っ!!!」



 距離を詰めて、拳を振るう。その一撃は、彼女の頬に美しく決まった。



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あとがき

50万PVやったー

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