植物に愛された少年 〜捨てられ領地で、のんびり作った楽園がなぜか人を惹きつけます〜
KAORUwithAI
第1話 アルフ、追放される
朝の光が窓から差し込み、カーテン越しに部屋を明るく照らしていた。
目を開けると、見慣れた天蓋付きのベッドの天井。
今日は――十五歳の誕生日。そして「鑑定の儀」の日だ。
寝台から起き上がると、世話係の少女シーナがにこやかにタオルを差し出した。
「おはようございます、アルフ様。とうとうこの日が来ましたね」
「うん。父上に胸を張れる結果を見せたい」
辺境伯家の次男として、父からは幼い頃から「お前は我が誇りだ」と言われてきた。
その言葉を信じ、今日も胸を張って屋敷を出る。
馬車に揺られ、町の中央にある大聖堂――鑑定の儀が行われる教会へと向かった。
高い天井から差し込む光は神聖で、祭壇前には水晶台が置かれている。
静まり返る中、神官が荘厳な声で告げた。
「アルフレート・マグナ殿。水晶に触れ、己が資質を示しなさい」
深呼吸し、水晶に両手を添える。
光が淡く灯り、赤、青、白、茶、黒、金と色が巡り――やがて一色に収束した。
――緑。
大聖堂に小さなどよめきが広がる。
緑、それは植物を司る魔法。
貴族社会では役立たずと蔑まれ、戦や政治に不向きとされた色。
視線を向けると、父の顔から笑みが消えていた。
辺境伯家は代々、赤――火の魔法を操り、王家の盾として戦場に立ってきた。
緑の息子は、家の誇りを汚す存在に他ならない。
式が終わると、父は短く告げた。
「アルフレート。お前に領地をやる。……好きに使え」
「本当ですか、父上!」
「捨てられた土地だ。作物も育たぬ、誰も寄りつかぬ場所だ。――以上だ」
それが追放であることを、理解するのに時間はかからなかった。
◇ ◇ ◇
出立の日。
「私もお供します!」
荷馬車の前に立ちはだかったのは、幼い頃から仕えてくれていた世話係のシーナだった。
「そんな場所に一人で行かせられません。アルフ様の世話は私がします」
「……すまない、シーナ」
二人は馬車に乗り込み、荒れ果てた“捨てられ領地”へと向かう。
王都を発って二週間。
長い道のりを経て、ようやくアルフとシーナを乗せた荷馬車は目的の地に辿り着いた。
村の入口には、傾きかけた木製の看板が立っている。
掠れた文字で、そこには「ニーベル村」と書かれていた。
「……ここが、僕の領地か」
アルフは呟き、視線を村の奥へと向ける。
しかし、進めども人影はない。
軋む扉、割れた窓、崩れた塀。
吹き抜ける風の音だけが、やけに大きく響いていた。
「……誰も、居ませんね」
シーナが小さく呟く。
やがて、村の最奥にある領主屋敷に到着した。
それは、屋敷というより廃墟だった。
屋根は抜け、壁はひび割れ、庭は荒れ放題。
「これじゃあ、雨風もしのげないな……」
アルフは一歩前に出て、両手を屋敷に向けた。
「《ウッドリペア》」
緑の光が広がり、腐った木は新たな木肌へと変わっていく。
ひび割れは塞がれ、崩れた屋根は組み直され、見る間に屋敷が蘇った。
「すごい……」シーナは目を丸くし、感激の声を漏らす。
修復を終えると、二人は荷馬車から荷物を下ろし、屋敷へと運び込んだ。
アルフが荷解きを始めようとすると、シーナが手を伸ばす。
「それは私がやります!」
「いいよ、一緒にやろう」
その言葉に、シーナは少し驚き、ふわりと笑った。
「……相変わらず、アルフ様は優しい方です」
荷解きが終わった後、アルフは村の様子を見て回った。
だが、そこにあるのは朽ちた家々と、草に覆われた道だけ。
どの建物も中は空っぽで、人の気配は欠片もなかった。
翌朝、アルフは屋敷の玄関先で伸びをした。
昨日までの長旅の疲れは残っていたが、ここで立ち止まるわけにはいかない。
「今日は村を見て回ろう。水と食糧の確認が最優先だ」
「はい。私も一緒に行きます」
シーナは頷き、籠と水筒を手に取った。
二人は屋敷を出て、まずは村の中央へ向かう。
そこには石造りの井戸があったが――
「……干上がってるな」
桶を下ろしてみても、底で乾いた音が響くだけ。
苔むした井戸の縁はひび割れ、長らく使われていないことが一目で分かった。
続いて畑を見に行く。
広がっていたはずの畑は、背丈ほどの雑草に覆われ、作物の影はない。
土を掘ってみても、指先が粉になるほど乾いている。
「この土じゃ、種を撒いても芽が出るかどうか……」
シーナの声には、不安が滲んでいた。
家畜小屋も覗いたが、中は空っぽで、柵は壊れ、扉は外れていた。
まるで長い年月、誰も手を入れていなかったかのようだ。
「……水も食べ物も、今のままじゃ暮らせないな」
アルフは空を見上げ、深く息を吐いた。
「でも、諦めるつもりはない。水も食糧も、必ず確保する」
その声に、シーナは小さく笑みを返す。
「はい。アルフ様ならきっとできます」
村は静まり返っていたが――二人の胸の中には、小さな火が灯っていた。
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