第14話:伝説の始まりは、小さな豆から

一方、美琴も上野の買取所に到着していた。


上野の買取所は、他の店舗とは違い、近代的な造りだった。


ガラス張りの外観で、中の様子がよく見える。最新の設備が導入されているらしく、鑑定装置も他店より大きく立派だ。


美琴は深呼吸をしてから、店内に入った。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」


若い女性係員が、笑顔で迎えてくれた。美琴は悠真から預かった4個目の魔石を差し出す。


「Bランク魔石の買取をお願いします」


「承知いたしました。少々お待ちください」


鑑定は他店よりも詳細だった。装置が魔石を様々な角度から分析し、データが次々と表示されていく。


「品質Aランクですね。大変良い魔石です」


係員が満面の笑みを浮かべた。


「106万円でお買取りさせていただきます」


「ありがとうございます」


美琴は安堵の息をついた。これで4個すべての売却が完了した。


正午少し前、二人は約束通り上野駅構内のカフェで合流した。


「お疲れ様でした」


美琴が微笑みながら言う。


「美琴こそ。無事に終わってよかった」


悠真がスマートフォンの電卓アプリを開いて、合計金額を計算する。


「105万、103万、108万、106万……合計422万円」


「予想以上でしたね」


「ああ。これで種シリーズが余裕を持って買える」


二人はサンドイッチとコーヒーを注文し、軽い昼食を取った。緊張から解放されたせいか、いつもより美味しく感じる。


「午後は秋葉原ですね」


「協会本店か。行ったことある?」


「一度だけ。すごく大きな建物でした」


 ◇ ◇ ◇


午後1時、電車で秋葉原へ移動した。


駅を出ると、電気街特有の喧騒が二人を包む。看板やネオンサインが所狭しと並び、様々な店舗が軒を連ねている。アニメグッズの店、パソコンショップ、メイドカフェ。観光客も多く、外国語が飛び交っていた。


「協会本店はこっちですね」


美琴がスマートフォンの地図アプリを確認しながら先導する。


大通りから一本入った場所に、探索者協会の本店がそびえ立っていた。10階建ての近代的なビルで、ガラス張りの外壁が太陽光を反射している。


「確かに大きいな」


「本店ですからね。全国の探索者協会の中枢です」


自動ドアをくぐると、広々としたロビーに出た。床はきれいに清掃され、天井には明るい照明が並んでいる。正面には大きな案内板があり、各階の施設が記されていた。


1階:総合案内、カフェテリア

2階:一般装備品売り場

3階:武器・防具売り場

4階:消耗品売り場

5階:レアアイテム売り場

6階~8階:協会事務所

9階:VIPラウンジ

10階:展望レストラン


「レアアイテム売り場は5階か」


二人はエレベーターホールへと向かった。3基あるエレベーターのうち、一番早く来たものに乗り込む。


中には、明らかに上級探索者と思われる屈強な男たちも乗っていた。全身を高級な装備で固め、腰には見るからに高価そうな剣を下げている。


「……あれ、ミスリル製かな」


一人が小声で呟いた。彼らの会話から、かなりの実力者であることが窺える。


 ◇ ◇ ◇


5階に到着すると、フロア全体がレアアイテム売り場になっていた。


壁際にはガラスケースがずらりと並び、中には様々な貴重品が展示されている。魔法の指輪、特殊な護符、レアな素材。どれも一般の探索者には手が届かない高額商品ばかりだ。


「すごい品揃えですね」


美琴が目を輝かせながら見回す。


「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」


若い女性係員が、にこやかに近づいてきた。紺色の制服に身を包み、胸には「主任」のバッジが付いている。


「種シリーズを購入したいんですが」


「種シリーズですね。こちらへどうぞ」


案内された先には、小さなショーケースがあった。照明に照らされて、6種類の種が美しく展示されている。それぞれが透明な容器に入れられ、プレートには効能と価格が記されていた。


係員が一つずつ説明を始める。


「『力の種』の価格は55万円です」


指先で容器を示しながら、続ける。


「『知力の種』は52万円、『守りの種』は53万円、『素早さの種』は51万円、『体力の種』は54万円、『魔力の種』は50万円、『運の種』は55万円となっております」


悠真は頷きながら聞いていた。


「各1個ずつ購入します」


「承知いたしました。合計で370万円になります」


悠真は現金で支払った。大金のやり取りだが、この世界では珍しくない。上級探索者なら、一度の探索でこれ以上の収入を得ることもある。


係員は白い手袋をはめ、慎重に種を一つずつ取り出した。それぞれを専用の小箱に入れ、緩衝材で保護する。


「大切にお使いください」


「ありがとうございます」


小箱を受け取り、二人は店を後にした。


 ◇ ◇ ◇


エレベーターで1階に降りる間、美琴が小箱の一つを手に取った。


「本当に大豆みたいですね。色も形も、質感まで」


「確かに。知らない人が見たら、ただの豆だと思うだろうな」


1階のカフェテリアで、二人は一息ついた。アイスコーヒーを飲みながら、今後の計画を話し合う。


「帰ったらすぐに複製作業ですね」


「ああ。それから効果を確かめよう」


「そうですね。きちんと測定して、記録を取らないと」


美琴はノートを取り出し、実験計画を書き始めた。


午後2時半、二人は電車で西新宿へと向かった。


車内は買い物客で混雑していた。大きな紙袋を抱えた家族連れ、デートを楽しむカップル、友人同士で談笑する学生たち。


美琴は隣に座ると、思案顔で口を開いた。


「見た目も味も大豆にそっくりなら、豆料理として調理できるはずです」


「なるほど、それなら食べやすいな」


「煮豆、炒り豆、豆ご飯……いろいろ作れそうです」


「まずは力の種から試してみよう」


「そうですね。効果を確認してから、他の種も使っていきましょう」


電車が揺れる中、二人は具体的な調理法について話し合った。

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