第24話 クリスマスの約束
12月も後半に入ってきて、いよいよクリスマスが近づいてきた。
街を歩けば色とりどりのイルミネーションが飾られていて、お店のウィンドーの中は赤緑緑白赤赤。BGMクリスマス一色で、街全体が浮かれている。
「今年もクリパする?」
そんなある日、乙葉ちゃんは他の友達と教室で話している時、誰かが口にした。
なぜ今年もなのかというと、私の通っている学校が中高一貫校で乙葉ちゃんを含めた他の友達はみんな、エスカレーターで中学から上がってきたからだ。
「もちろんー! 今年はどこ行く?」
「夢の国とかどう? みんなで行きたいと思ってたんだ。ホテルとってさ、みんなでパーティーすんの!」
乙葉ちゃんがそう言うと、他の友達たちはわぁっと歓声を上げる。
私にとっては、このメンバーと過ごす初めてのクリスマス。クリスマスパーティーという単語を聞いた時から、わくわくしていたけど…。
「ごめんね…。クリスマス当日はバイトで行けないんだ〜…」
「「「えーーー!!」」」
私が少し声のトーンを落としてそう伝えると、みんな残念そうな顔をしてブーイングをする。
私もできればクリスマスにはバイトは行きたくなかったけど、佐野さんと1ヶ月くらい前から約束していたから仕方ない。
「本当にごめんね…。私のことは気にしないで、みんなで行ってきて〜? また、いつか遊ぼう〜!」
「うん。今度ね。クリスマスじゃなくたってパーティーはいつでもできるし、夢の国も逃げていかないし!」
「あまねちゃん、気にしないで! またみんなで遊ぼう!」
私がもう一度本当にごめんね、と謝るとみんな笑って本当に気にしないで、と言ってくれた。
中学の頃は、ほとんど羽月ちゃんとしか遊ばなかったけど、こんなふうに断ったら大喧嘩間違い無しだかったから、私は今の仲間が、友達が、居心地がいいし、時々めんどくさいな、って思っても、なんやかんや大切に思っている。
ずっとこんな風にいられたらいいな。なぜか、そう思った。
♢
「佐野さん、クリスマスのシフトなんですけど…」
1週間くらい前から、クリスマスは何時から来れるのか聞かれていたことを思い出し、バイトの日にカウンターで作業をしている佐野さんに声をかけた。
「あれ、なんだっけ?」
「時間なんですけど…」
「ああ! そう言えば。何時から来れる?」
「オープン前からいけます。そこから22時くらいまでいれます」
「了解。じゃあ、10時から16時までいれる?」
「そんなに早くあがりでいいんですか?」
クリスマスなんてずっと忙しいし、クリスマス特別手当がでるくらいシフトに入ってくれる人もほとんどいない。
私も元々クリスマスはシフトに入る予定がなかったけど、佐野さんに人数がギリギリだからとお願いされて入ることになった。
それなのに、これから忙しくなる、と言う時間にあがっていいなんて言われて困惑してしまう。
「あまねだって、誰かと遊びたいでしょ。学生なんだから、今を楽しみたまえ! こっちもごめんね。もっと他の子とか頼めば良かった」
佐野さんがそんなふうに言うなんて思わなくて、拍子抜けしてしまうと同時に胸がじんわりと温かくなる。
その配慮はすごく嬉しいんだけど…。
「本当に構わないです。友達との約束は…もう断ってしまってますし…。夢の国に行くらしいんです。その時間からじゃ、結局間に合いませんし…」
私がそう言うと、佐野さんは少し寂しそうに目を伏せる。佐野さんがそんな顔をしなくたっていいのに、と思う。
パーティーとか、そう言う類のものに誘われるかもと分かってた上で、シフトに入ることを了承したのは私なんだから。
「あ、じゃあ、成那ちゃんと一緒に過ごしなよ。成那ちゃんならきっと一緒にいてくれるよ」
「せ、成那さんと!?」
私が声を大きくしてそう返すと、佐野さんが楽しそうに笑う。
「そうだよ。成那ちゃんと一緒にいたらいいよ。それがいいよ」
「そ、そんな、恋人でもないのにクリスマス一緒にいるなんて…」
「えー? 恋人じゃないとクリスマス一緒にいちゃダメなのー?」
私が陸に上がってきた魚のように口をパクパクさせていると、佐野さんはパチンと胸の前で手を叩いて笑顔で告げる。
「はい決定ー! ちゃんと誘ってねー? 誘わなかったら特別手当無しだから〜」
まあ、冗談だけど〜、なんて言いながら佐野さんはどこかへ行ってしまった。私は、佐野さんの方に手を伸ばして待って、と呟くけどその手は宙を切った。
私はその中途半端な格好のまま、固まってしまう。
———自分からクリスマス誘うってことだよね…。
そんなの無理だ。恥ずかしいし。ただのセフレなのに、って思われたらどうしよう。
成那さんが大切だから、この中途半端な関係が終わってほしくないと思っているから。怖い。
でも、その事情を佐野さんに説明できるわけじゃないし…。
でも、当たって砕けろだ。やってみないとわかんないし。意外と成那さんだから、セフレだからとかって考えてないかもしれないし。
———…そんなわけないか。
私はひとつため息をついて、お店の奥に戻って行った。
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