ほのぼの掌編集――即興文筆――

鐘町文華

ケンちゃんとものもらい

 おめめのうえのところがいたい。あつい。おもいかんじがする。

「ああ……、ものもらいになっちゃってるね。ケンちゃん」

 ママはまゆげをさげた。

「おめめの病気だよ。病院にお薬をもらいに行かなくちゃ。保育園はお休みだね」

「えー! ヤーダー!」

 げつようびのきゅうしょくはぼくのスキなミルクパンなのに!

「でもそのままにしておくと、ずっとイタイイタイだよ?」

「それもヤダー……」

「わかった。がんばったらご褒美にアイス買ってあげる」

「えー! ヤッター!」


 びょういんはホントはヤじゃない。だって、おもしろいおもちゃがいっぱいあるから。あおいビーだまがコロコロするめいろのおもちゃであそぶ。いたをうごかすと、キラキラのビーだまがカタカタいいながらクルクルする。とってもたのしい。けど、たまにめのうえがズキズキするから、ぼくいまびょうきなんだな〜って思う。

「ケンちゃん。お会計終わってお薬もらったから、帰るよ」

「えー。 もうちょっとあそびたい」

「いいの? アイス食べられなくって」

「よくない!」


 スーパーでチョコのアイスをかってもらった! くるまのなかであけようとしたけど、「帰ってからじゃないとダメ」っていわれちゃった。ちぇ。


「さて、ケンちゃん。アイスの前にお薬です。目薬をもらってきたからね」

「んー……」

「ここに寝て」

 ソファのうえにごろんする。ママのおかおがみえる。そのおててには、めぐすりのいれものがある。それが、おめめのすぐちかくにくる。……ちょっとこわい。でもアイスのためにがんばらなきゃ。

「ちゃんと目、開いててね。いくよ……」

 しずくがおちてきた。つめたい。スーッとする。まぶたがかってにギュッとなる。

「よくできました! ケンちゃん、エラい! しばらくおめめ、つむっておいてね」

「うん……」

 いわれたとおりにおめめはそのまま。……なんかふわふわする。めのらところはずっとあついし、からだもホカホカしてる。なんか、ぜんぶ、ポヤポヤしてくる……。


「んー……?」

 どこだろ、ここ。まっしろいかべがある。さわってみる。すべすべしていて、ちょっとあったかいかんじがする。これ、ちょっとまえにさわったことあるきがする。

 まわりをみてみる。まえに、さっきさわったかべ。うえは、ずーっとまっしろ。よこのほうは、みちがつづいてた。

 テクテクあるいてみる。みちはグネグネだ。たまにみちがふたつとかみっつにわかれる。なんとなくでえらぶ。そうしていたら。

「ん……?」

 ゴゴゴ……っておとがきこえた気がした。うしろのほうから。そっちをむいたら、あおいおっきなまるいのが、すごいいきおいでこっちにむかってきていた!

「わあああ!」

 にげなきゃ! つぶされちゃう! はしれ、はしれ! からだがすっごくあつい! あしが、すっごくはやくうごいてる!

 でもそのうちおいつかれちゃうかも。そうだ。かべにこうやってはりついて、かくれるみたいにすれば……!

 おっきなまるいのが、とまる。これで、ひとあんしん……?

 いや。まるいのから、なんかヒモみたいなのがのびてる。なにあれ、こわい。ぼくつかまっちゃう……!!

「そこまでよ!」

 どこからかこえがした。なにかがぼくのまえにおりてきた。

「ママ!?」

「ケンちゃん、よくがんばったね。エラい! ここからはママが、このビー玉モンスターをやっつけるからね!」

 ママはどこからともなくめぐすりのいれものをとりだした。すごいデカい。おっきいワンちゃんくらいある。

「おおお!! 母の愛のパワーをくらいなさい!!」

 めぐすりのいれものからぶっといビームがでる! ビーだまモンスターにあたる! モンスターは、さいしょからいなかったみたいに、どっかにいっちゃった。

 ママは、ふぅ、とおでこをぬぐうと、ニコっとしてぼくにおててをさしだした。

「さぁ、ケンちゃん。おうちに帰って、いっしょにアイスを食べよう」

「うん!」


「……あれ? ケンちゃーん? 寝ちゃったの?」

「……ママ」

「あ、起きた? アイス食べよう、ケンちゃん」

「ママ、きょうかっこよかったよ」

「え? どうしたの急に」

「ううん。ねー、はやくアイスたべよ!」

「うん。ちゃんといただきますしようね!」

「うん!」

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