図書館で出会った生意気な男の子
夏休み。おばあちゃんは朝から晩まで友だちと電話している。自室にこもっていても話し声が聞こえてくる。うるささで宿題も手につかない。
「おばあちゃんのバカ!」
私は家を飛び出した。静かで、涼しい場所を求めて。
バスに揺られ、巨大な図書館にやってきた。国内でも有数の蔵書を誇るという隣町の名所だ。
適当に本棚のあいだをプラプラする。目当てなどない。宇宙に関連する書籍が集められているとこで、なんとなく足を止める。「望遠鏡の仕組み」……。子ども向けの解説本。ふーん。そんなのまであるのか。
「ちょっと、お姉さん。その本取ってくれませんか。『望遠鏡の仕組み』」
声に振り向くと、男の子がいた。五、六歳くらいだろうか。
「う、うん。いいけど。……はい、どうぞ」
「ありがとう、お姉さん。ところでさ」
本を渡してやると、男の子はニッコリ笑った。
「ヒマだよね? さっきからあてもなくウロウロしてるでしょ。手伝ってほしいんだ。ほら僕、背が小さいから。高いところの本は届かないんだよね。これからしばらく、代わりに取ってくれないかな」
受ける理由は無いが、断る理由も無かった。それに、ちょっとだけ楽しそうな気もした。男の子とともに、館内の検索機で目当ての本を探してはその場所に向かって本を手に取る。途中からはカートも使った。本は高く積み上がっていく。
しかし、ジャンルが幅広い。「ティーカップの歴史」「萌えイラストの描き方」「哲学書」……。
「ねぇ、これあんたがぜんぶ読むの?」
「そうだよ。親は嫌がるけどね。勉強に関係あるのだけにしろってさ」
「ふーん……」
私の相槌をかき消すように、館内放送が始まった。
「お知らせいたします。星柄の青いTシャツに、グレーのズボンの、五、六歳くらいの男の子が、館内で迷っていらっしゃいます。見かけられた方は、一階インフォメーションまで情報をお寄せください。繰り返します――」
「……やっぱあんた、迷子なんじゃん」
館内放送を聞き終えた私は、目の前の男の子に言う。
「『迷子』っていうのは正確じゃない。僕は自分の意思で別行動をしているのだから」
その子は肩をすくめた。子どもらしくない言葉と仕草に、私はため息をついた。
「親は心配してると思うよ? あんたが勝手にいなくなって」
「むこうが悪いさ。僕の望んでないこと押し付けて。くだらない」
でも、と言いかけて、気づいた。
似ている。私も今日、おばあちゃんがうるさくって嫌になって家から飛び出してきた。対話もせずに。
「ねぇ、あんた。親とちゃんと話したことあんの?」
「え? ……ないけど」
「なら、もうちょっとだけさ。話してみない?」
「なんでお姉さんにそんなこと言われなきゃいけないの」
「……ちょっとだけ似てるって思ったから」
「は?」
「私も頑張るからさ。あんたも言ってみなよ。自分の気持ち。ほら、一階行こ。親御さん待ってるよ」
「でも、聞いてくれるか分かんないし」
「聞いてくれなかったら、また私を使ってよ」
「いいの?」
「うん」
男の子が笑った。心からの笑顔に見えた。
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