第17話 堕竜兵の大進軍!アウルム王国決戦の幕開け


 その日、アウルム王国の北方空域を覆ったのは――絶望そのものだった。


 すでに大群の他、腐敗した竜たちが呻き声を上げながら這い出してくる。

 落ちた竜の亡骸に怨念を縫い付け、黒き魔術で操る異形の軍勢――。


「な、なにあれ……! ゾンビ……いや、骨ドラゴン? しかもいっぱい!?」


 王都城壁の上でレオンが叫ぶと、隣に立つヴァルザードが真顔で頷いた。


『……《堕竜兵》だ』


「名前からして物騒すぎない!?」


『千年前、竜王戦争で散った竜族の骸をシリウスが穢し、怨念ごと兵に仕立てたものだ。

 死してなお、竜は戦わされ続ける……忌まわしい術だ』


「え、ちょっと待って。そんなヤバい軍団、どうやって倒すの!?」


『普通は無理だな』


「じゃあ何でそんな落ち着いて言えるの!? 俺ら詰んだ!?」


『まあ、お主がやるから問題ない』


「俺に丸投げすんなぁぁぁぁ!!!」


 その時、空を切り裂くように黒い稲光が奔り、瘴気の中から人影が降り立った。


「また会ったな、ヴァルザード。そして……“最恐魔王”」


 聞き覚えのある低い声。

 闇を纏った長身、銀色の髪に蒼い瞳、背から伸びた竜翼――シリウスだ。


「お前かよぉぉぉ! 二週間ぶりだな!」


「やけにフランクだな、お主」


「いや、もっと長い期間開けるべきじゃない!? なんでそんな高頻度で攻めてくんの!?」


 シリウスはレオンの抗議を無視し、薄く笑った。


「ここで再会できたことを、感謝するんだな。

 お前たちの命、そのまま“原初竜”復活の贄にしてやる」


「またティアマト!? この前も幻影でボコボコにされたんですけど!?」


『黙れ主よ、動揺するな!』


「いや、動揺するだろ!?」

 

 シリウスが指を鳴らした瞬間、地面から瘴気が爆ぜ、百体を超える堕竜兵が一斉に突撃してきた。


「来るぞ、レオン!」


「おう! ――《紅蓮竜閃波》ッ!!!」


 紅蓮の閃光が戦場を薙ぎ、十数体の堕竜兵を一瞬で灰へと変える。

 だが――。


「え、まだ来るの!? 数多すぎない!?」


『倒しても蘇る。魂を縛る呪鎖を断たねば終わらん』


「早く言えよぉぉぉ!!」


 その時、頭上から銀の閃光が降り注ぎ、堕竜兵の進軍を食い止めた。


「殿下! 呪鎖はあの黒塔にあります! 我らが足止めします!」


 現れたのはアウルム王国の第一王女フィリア率いる精鋭部隊だった。


「フィリア! 助かった! よし、行こうヴァル!」


『ふむ……筋肉姫、役に立つではないか』


「筋肉姫って言うなぁぁぁぁ!!!」


 黒塔の内部は、竜の骨と黒魔石で編まれた異形の迷宮だった。

 中心には巨大な祭壇――そこに封じられているのは、竜王ティアマトの鱗片。


「うわぁ……嫌な予感しかしないんだけど」


『あれを核にして封印を破るつもりだな』


 祭壇の前に立つシリウスが振り返り、蒼の瞳を輝かせる。


「遅かったな、レオン。だがちょうどいい。

 お前たちの竜因子、その魂ごと頂く!」


 次の瞬間、シリウスの背中から黒い鱗が隆起し、肉体が膨張していく。

 漆黒の竜翼が広がり、尾が生え、角がねじ曲がりながら伸びた。

 その姿はもはや人間の影も残さない。竜と魔族を強引に融合させた異形の存在。


「ちょっ、あいつ進化してない!? 完全に裏ボスの見た目なんですけど!?」


『油断するな! 原初竜の因子を取り込んでいる!』


「そんな重要な情報、今さらサラッと言うなぁぁぁ!!!」


「それに対抗するには、真竜同調するしかないのか……」

「う~ん……やるしかないか……」


 レオンは深呼吸し、ヴァルと視線を交わした。


『ああ、共鳴するぞ』


「――“真竜同調”ッ!!!」


 紅蓮の光がレオンとヴァルザードを包み込み、背中から竜翼が展開した。

 手に握る竜槍は、まるで生きているかのように脈動し、魔力が奔流となって迸る。


「おおおおおおおおおおッ!!!!」


 竜と人間の魂が重なった瞬間、世界の色が変わった。

 レオンの視界に広がるのは、魔力の奔流そのもの。

 敵の動きが読める。空間の歪みすら感覚で把握できる。


「行くぞ、シリウスッ!!」

「来い……貴様らの絶望が、我が糧となるッ!!」


 紅蓮と漆黒の竜炎が激突。

 爆発的な衝撃が黒塔を揺らし、壁がひび割れ、天井が崩れた。

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