第七章 大騒動 (1)

 災厄研究会が主催していた一連のセミナーは、欠席者の急増により中止された。遺跡の探索や開発業務も全面的に停止している。


 ディワンも、休暇を申請した者の一人だ。


 防衛線の前方にあるすべての村は撤退し、防衛線内の、すなわち遺跡都市の勢力圏に属する村々と合併することになった。


 この合併問題に対応するため、自治体を越えて「合村管理会」が設立された。それは、災厄後に設置された復興管理会の大規模版とも言えるものであった。しかし、ただ規模が拡大したという事実だけで、協調の困難さは一気に跳ね上がることとなった。合村管理会には最良の頭脳が求められており、ディワンは自ら志願して参加した。


 各村の元々の人口と、災厄後に収容可能な人数を算出するのは、あくまで 基礎業務に過ぎない。村ごとに 気質や慣習は異なり、移住してくる村人と元の住民との間で衝突が起きる可能性は、単に同じ村内で家を移る程度の話よりも、遥かに深刻だ。


 資料を整理し、受け入れ先となる村の排他性の度合いや、外部の人を受け入れる意志、そしてその条件を確認する。移住予定者の過去の行動履歴を精査し、他の村に対して征服行為を行った前科がないかを調べる。


 男女比や労働人口の割合に注意を払い、大人の数が不足している村に、自力で生活できない年少者を過剰に送り込まないよう調整する。


 受け入れ先の村にある田畑の性質や、普段育てている作物が、移住者たちの元の村と一致していれば、災厄で亡くなった人々の畑をそのまま彼らに引き継がせることができる。そうでない場合は、移住者の就労先を別途手配し、新たな職務分担に適応させる必要がある……


 これほど多くの要素を考慮しても、予期せぬ事態は次々と起こる。


 農業村の住民は、一般的に長距離の移動に慣れておらず、健康面を考慮すれば、できるだけ移動時間を短縮する必要がある。そのため、遏令アツレイに近い村は、同様に遏令に近い、ただし遺跡都市の勢力圏内にある村と合併させるのが望ましい。逆に、もともと遺跡都市の勢力圏に近い村には、さらに奥に進んでもらい、防衛線のさらに後方にある村へと移住させる。そうすれば、すべての村民の移動距離が均等になり、無理のない範囲に収めることができる。


 だが、現実はそう簡単ではない。


 勢力圏のすぐ近くにある村の住民たちは、防衛線を越えて遺跡都市の勢力圏内に入った瞬間、そこで前進を止めてしまい、防衛線付近の村への移住を強く主張する。彼らはしばしば独断で周辺の村と接触し、勝手に合村の合意を形成してしまう。すでに受け入れ側の村が彼らを了承してしまえば、合村管理会ももはや退去を命じることはできない。


 その結果、より遏令に近い地域にあった村の住民たちは、防衛線通過が遅れ、到着した時点で住む場所が残っておらず、より遠く、後方の村へと移動せざるを得なくなる。その途中で、病気や死亡といったリスクが大幅に上昇する。


 割り当てを守らず、勝手に居住地を変更して空き家を占拠する集団。元の村の集団から離れて、遺跡都市の内部に紛れ込む者たち。移動の途上で他の旅人を襲い、さらにはそれ以上の行為に及ぶ者まで……


 苛立たしく、時には吐き気すら覚える出来事が、後を絶たなかった。


 その一方で、戦争を求める声は日々高まりを見せていた。


 ディワンは、それがどうしても好きになれなかった。


 遏令に近い地域からの報告では、避難を拒んだ村は皆殺しにされたという。


「全部遏令のせいだ!」人々はそう叫ぶ。


 ディワンには、そういった主張を否定する材料はなかった。確かに、もし遏令が攻め込んでこなければ、こんな問題は起きなかっただろう。だが、彼にはそうした“わかりやすい答え”こそが、どうにも気に入らなかった。


 わかりやすい答えが、必ずしも誤りであるとは限らない。しかし、誰もがそれを安易に受け入れてしまえば、舞台が闇に包まれた中、たった一つのスポットライトだけが使われ、中央の目立つダンサーだけを照らすことになり、他のすべてが暗闇に沈んでしまうように、恐らく何か、大切なものを見落としてしまう。


 彼は、舞台の上に何があるのかを見極めたいと思っている。舞台の背後にあるもの、そして客席にいる観客の姿さえも、彼にはすべてが見たい。


 何もないかもしれない。だとしても、それを「何もない」と言い切るのは、すべてを見届けた後であるべきだ。


 彼には、皆と同じく“わかりやすい答え”を叫ぶことはできなかった。


 解析学校の授業は、依然として続けられていた。ディワンは、どんな状況下でも学生の課業には妥協せず、常に厳格に指導する姿勢を貫いていた。しかし、生徒の数は日に日に減っていった。


 付与の魔力を有する学生たちは、次々と警戒学校に転校していった。これから始まる戦争に備えるためだ。警戒学校では、彼らのために短期訓練課程が設けられ、遺跡探索に関する教育をすべて省略し、対人戦闘だけを教える方針が取られていた。


 そうして育成された人々は、もはや広範な業務を担う警戒員ではなく、ただ戦争のためだけに存在する軍人と化する。


 それと並行して、ほぼすべての工場が軍用機械の生産へと転換された。


 ディワンは、それが仕方のないことだとわかっている。自分自身ですら、遏令が手を引くとは思っていないのだから。ただ、それでも、あらゆることが、彼には苛立たしく感じられた。


 ファンの部隊が保護している避難民の一団は、遏令に最も近い農業村から来た。彼らの到着が遅れたため、防衛線付近の村はすでに満員となっており、仕方なくさらに前進し、遺跡都市の勢力圏を深く進むことになった。その結果、彼らはファンとディワンが暮らす遺跡都市の近くまで来たのだった。


 ディワンは、ファンを訪ねることにした。






 ドフヤが元いた村から防衛線までは二日かかり、その後の手続きの待機、指定された場所への移動にさらに五日を要した。その間、ドフヤは毎日ファンを遊びに誘い、毎日全力で遊んで、大声で笑い合った。


 ファンの部隊は彼らを慎重に守り抜き、村の人々も団結して互いを思いやった。遷村の人々の流れの中では様々な事件が起きたが、彼女の村の皆は無事だった。長距離の移動による疲れや体調不良はあったが、大きな問題はなかった。


 ようやく、彼らが移住する村が決定されたとの知らせが届いた。あと一日歩けば到着できる。皆の気持ちが高まった。


 移住が済めば、ファンは離れていくことになる。もう毎日顔を合わせることはできなくなる。ドフヤは決心した。今日、彼にプロポーズしようと!


 その日のデートでは、ドフヤは特別にファンをテントから遠ざけ、二人きりの時間を狙って、プロポーズの言葉を口にした。


 彼女も彼も名の知られた存在だ。毎日デートしていることは周囲の誰もが知っていて、皆がファンは彼女を愛していると思っている。彼女が成功するだろうという空気が流れている。遺跡都市の人々でさえドフヤに「頑張って!」と声をかけるほどで、「ファンは君と一緒にいると本当に楽しそうだ」と言う者もいた。「君は唯一、彼をそこまで笑顔にできる人だ。だから彼はきっと君を愛している」そんな言葉をもらっていた。


「結婚しよう!」ドフヤは一生に一度の勇気を振り絞って、そう言った。


 ファンはすぐには返事をせず、何かを考え込んでいた。今にも頷きそうで、けれど永遠に答えないかのような、そんな様子だった。


 そこでドフヤは続けた。「結婚の誓いは『災厄が我らを分かつまで』って言うじゃない? 私の『幸運』の魔力はすごく強いから、きっと長く一緒にいられるよ──」


 その瞬間、ファンの身体が硬直した。彼は答えた。「おれは結婚しない」


 拒絶された。


 ドフヤは混乱しながら話題を終わらせ、この日のデートは硬い空気に包まれたまま幕を閉じた。


 今の仮の家として使っているテントに戻ると、ドフヤは布団の中に潜り込み、わあっと泣き出した。


 ニーシャはテントの入口のそばで、緊張した様子でそっと覗いている。


「どうしたの? ファンと喧嘩でもした?」母が慌てて様子を見に来た。


「振られちゃった。彼、私とは結婚しないって」ドフヤは泣きじゃくりながら答えた。


 母は驚いた顔で言った。「なんて言ったの? 愛してないって言ったの?」


 ドフヤは努力してファンの言葉を思い出す。彼は”愛してない”とは言わなかった。「結婚しないって言ったの」


「この世界で、結婚しない人なんていないのよ?」母は眉をひそめて言った。「聞き間違いじゃないの?」


「聞き間違いじゃない。私が『結婚しよう』って言ったとき、彼全然嬉しそうじゃなかった」ドフヤは袖で涙を拭いた。


 母はハンカチを出して、そっと彼女の涙を拭いてくれた。「もし彼が『結婚しない』って言ったなら、それはドフヤのせいじゃないかもしれないよ。もう一度ちゃんと聞いてみたらどう? 私は彼、ドフヤのことを好きだと思うけどね」


「でも、結婚してくれないってことは、やっぱり私のこと、好きじゃないってことなの? 彼、本当に私のこと、好きなの?」


 母は少し考えてから言った。「ドフヤ、よく聞いて。ママはね、その質問は、私にするべきじゃないと思うの」


「じゃあ、誰に聞けばいいの?」


「自分自身に聞くのよ」母はそっと 笑った。それは娘にしか見せない、自信に満ちた笑みだった。「ドフヤ、教えてあげる。この世界にはね、女性だけが持っている魔力があるの」


「魔力?」ドフヤはぱちぱちと目を瞬かせた。涙は少しずつ止まり始めている。


「男の人は、私たちが彼らをどう見ているか、わからない。でもね、女はいつだって、男が自分をどう見ているか、ちゃんとわかるのよ。それが、女だけに与えられた魔力。男の表情をひとつ見るだけで、すべてがわかる。


 パパもね、言葉で愛を語るタイプじゃなかった。でもママは、彼の表情を見てきた。だから、何人子どもを産んでも、彼はずっと私を愛してくれているって、わかっているの」


「じゃあ、ファンの表情を見ればいいの? それで、彼が私を愛してるかどうかわかるの?」


「そうよ。もう一度彼のところへ行って、ちゃんと話をするの。今回は、しっかり聞いてきなさい」


「でも、行くのが怖い」ドフヤはまた泣きそうになった。誰かに会うのを怖がったことなんて、一度もなかった。でも今回は、本当に怖かった。


「ちょっと待ってて」母がそう言って、箱の中から水色のドレスを取り出した。


 それは母が、ドフヤが舞踏会で男性と出会い、夫を見つけるために着ると言っていたドレスだ。まさか持って来ていて、しかも完成しているなんて。


 ドフヤはそのドレスを初めて見た時からずっと惹かれていた。完成した今は、もっと綺麗になっている。どうしても着たいと思った。


「縫い目の中に入れておいたから、場所を取らずに済んだんだよね」母はリボンを整えながら笑った。「この生地、シワになりにくいのよ。ちゃんと仕上げておいてよかった。これを着て、彼のところへ行きなさい」


 ドレスに袖を通した自分を想像してみる。その姿をファンに見せたい。そう思っている自分に、ドフヤは気づいた。たった今彼に拒まれたばかりなのに。それでも、会いたいと思ってしまう。


「でも、髪型もメイクもいるし、靴も合わせなきゃ」柔らかな布地を撫でながら、ドフヤはまた不安になった。


「メイク、私がやる!」ニーシャが手を振りながら声を上げる。「友達がコスメとヘアアクセ持ってきてるから、お姉ちゃんに合う色、みんなで探せると思う!」


「それじゃ、よろしく頼むわね!」母が明るい声で言った。


 ドフヤが何か言おうとするより早く、ニーシャは勢いよく駆け出していった。


 靴が、問題だった。このドレスのために靴をオーダーするはずだったのに、いろんなことが重なって、そのままになっていた。


 誰かに借りるとしても、今回の旅でみんなが持ってきたのは、基本的に丈夫で歩きやすい靴ばかり。たとえ化粧品を無理して持ってきたニーシャの友達みたいに、ドレス用のきれいな靴を無理して詰めてきた人がいたとしても、ドフヤの足は特別に大きいから、結局履けなかった。


 彼女が持っているのは、いつも履いている土色の革のロングブーツだけ。その靴は気に入っている。でも、ドレスには合わない。


「スカート、少し長めにしておこうか。靴、見えないようにね」母はドフヤの不安に気づいて、彼女の頭を軽く撫でながら言った。


 ドフヤは、また泣きそうになった。「もし、彼が見ちゃったら?」


 そのドフヤの珍しく弱気な様子に、母はむしろ笑った。「見えないってば! ドフヤはとっても可愛いし、ママが縫ったこのドレスもある。王様だって、きっと一目惚れよ。でもね──」母は目をぱちぱちと瞬かせ、にこっと笑った。「相手が王様でも、好きじゃなければ嫁がない。今から会いに行くのは、ドフヤが好きな人なの。だったら、元気出して。せっかくの綺麗な目が、泣いて腫れちゃうわ。好きな人に、一番綺麗なドフヤを見せてあげよう。笑って。笑顔は、最高のメイクよ」


 ドフヤは、最後の涙をそっと拭いて、ふっと笑った。






 ディワンは、ファンの所属する部隊の野営地に到着した。警備員に訪問の旨を伝えると、最初は「ファンは今、勤務中です」と言われ、ディワンは辺りをぶらぶらして時間を潰すべきかと考え始めた。ところが、警備員が「ちょっと待って」と言って再度確認を取り、今度は「特別休暇中です」と言ってきた。


 どういうことなのか。ディワンには分からなかった。警備員たちは妙に含みのある口調で何やら話し合った後、彼をあるテントへ案内した。それは、倉庫を仮設の会見所として転用したものだ。


 いざ ファンと対面すると、事情は分からぬまま、警備員の奇妙な態度の理由だけは察せられた。


 ファンは、まるで巨大な石にでも打ちのめされたような顔をしている。もちろん、外見に怪我があるわけではない。身体は無傷だ。ただ、精神がぺしゃんこに潰されているようだった。


 沈んでいるファンを見るのは、ディワンにとって珍しいことではない。慣れていた。だが、潰れているとなると話は別だ。よほど異常な何かがあったに違いない。そして不思議なことに、普段ならファンのことをあれこれ心配するはずなのに、今日は妙に笑いたくなった。


 ファンの様子があまりにも変だったからこそ、上司が特別休暇を与えたに違いない。


 ディワンは自分に言い聞かせた。目の前にいるのは自分の伴生者なのだから、もっと気にかけるべきだ。まるで自分のことのように、寄り添わなければならない。彼は、背を丸めてだらりと座り、肘をテーブルに突き、片方の拳で頬を支えながら問いかけた。「それで、何があった? 数日見ないうちに、すっかり泥になってるようだな」


「求婚を断ったんだ」ファンは両拳を膝の上に置き、うつむきがちに、小さな声で言った。


「へえ、断ったって? どっちかっていうと、振られたようにしか見えないけどな」その瞬間、ディワンは自分がなぜこんなにも嘲笑したくなるのか、ようやく理解した。友人が女性に振られた時にからかうのは、友情の証明である。振られたのは本人の落ち度であり、女性の判断が正しかったと徹底的に認識させなければならない。伴生者として、その役割は友人以上に徹底すべきものだった。


「うん、俺が断った」


「お前、いつも女を断ってるだろ。今回は何が特別なんだ?」


「今回の女は、何日か、一緒にデートした」


「なるほど。じゃあ今回は、最初の段階でうまく断れなくて、引っ張り出されて、何日も粘着されて、ようやく拒否できたってわけか」ディワンは、眠気が押し寄せてくるのを感じた。ぐずぐずした恋愛話を聞くために来たわけではない。


 まったく、ファンの傍に自分がいないと、低俗な女が寄ってくる率が上がる。ちゃんとファンの同僚に小さな贈り物を配って、ストーカーを防いでもらっていたというのに。人事異動でもあったのか。防衛線が崩れている。もう一度、ファンの同僚を取り込んでおかねば。紫色の大屋を狙う女たちは、ほんとうに厄介だ。


「最初は断ろうと思ったんだ。無理に誘われたわけじゃない。おれが、彼女と出かけたいと思ったんだ」


 何? ファンの声は小さかったが、ディワンの耳にははっきり届いた。今、ファンは、自分から女と出かけたいと思ったと言った。そんなこと、今まで一度もなかった。


「お前、彼女のことが好きなのか?」ディワンは驚いて、拳に乗せていた頬がふっと離れたが、それでも背筋を伸ばす気はない。


 ファンは、うつむいて、口を閉ざした。


 その反応を見て、ディワンはようやく、真面目に向き合うべき事態だと悟った。彼は上体を起こし、前傾姿勢で訊いた。「どんな女だ? 名前は?」


「ドフヤっていう。なんか、春っぽい女だ。笑い声が小鳥より気持ちいい。笑ってる顔、陽射しより明るくてさ」


 伴生者からまさかの詩的発言を聞かされ、ディワンは顔を伏せ、両手のひらに顔を埋めた。数日ぶりに会ったら、すでに末期症状だった。


「それで、お前はなんで断ったんだよ」顔を上げながら、ディワンはどうにかその質問を絞り出した。ファンの症状なら、ドフヤが指をちょいと曲げれば、すぐに家までついて行くだろうに。


 ファンは顔を上げて、ディワンを見た。その目には、ディワンが見慣れてしまった絶望が宿っている。「災厄がおれたちを引き離す時が来たら、どうなるのか、それが怖い」


「彼女、お前のこと、かなり好きなの?」ディワンが静かに訊く。


「……ああ」ファンが小さく答えた。


 それこそが、ファンの怖れていることだった。ドフヤは幸運の魔力が強い。だから、災厄の時には彼女だけが残される。


 ディワンは深く息を吐いた。彼自身は、過去に囚われていない。すでに自分の幸せを手に入れている。だが、ファンをあの深淵から引き上げることはできない。


 ドフヤは、これまでで最も成功に近づいた存在だったかもしれない。少なくとも彼女は、ファンに自らデートを決意させた。それでも、結局は失敗だった。


 今頃、ドフヤは泣き崩れているだろう。泣き終えたら現実を受け入れ、別の男を探す。そして、もしその男と深く愛し合い、いつか災厄によって引き離され、苦しみに陥ったとしても、それはもう、ファンには関係ない。


 ファンはただ逃げているだけで、何も変えられていない。しかしディワンは、そんなファンを変えることはできない。


「おれ、もう二回災厄を経た。次は──もしかして」


「何回災厄を経ようが、次に選ばれる確率は変わらないよ。数学、やり直したほうがいいな」


 ディワンは、ファンをどこかへ連れ出して気分転換をさせるべきか、あるいは仕事で予定を埋め尽くし、ドフヤのことを考える暇さえ与えないようにするべきか、そんなことを考え始めていた。


 そのとき、アイオスが勢いよく部屋に飛び込んできた。両手でテーブルをバーンと叩き、大声で叫ぶ。「ファン! ドフヤがあんたを訪ねて来たぞ!」


 ファンもディワンも、愕然とした。


 アイオスはさらに声を張り上げる。「絶対見に来い! 絶対だぞ!」


 その言い方と顔つきは、もしファンが言うことを聞かなかったら、彼をジャムにされてパンに塗られそうな勢いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る