きつね色のあの子
「あら、思ったよりおとなしいね」
それが、今や我が家の一員となった”おあげ”(仮名)との出会いでした。
保護センターの講習会の前に、少し早めに到着した私達家族は、今譲渡先募集中の犬のお部屋に面会に行く事に。
「お姉ちゃん、この子」
そう言って妹が駆け寄ったのは、柴のミックス犬の女の子でした。きつね色をした、柴よりもほんの少し手足の長いスラリとした子です。
歳は約4歳、「多分親の片方が大きい犬みたいです」との言葉通り、手足が長くて柴よりも若干体長も長い。嬉しそうに妹に飛びついてきましたが、顔を舐めることもなく、その後は静かにおすわりをして我々家族から撫でられるのを受け入れているようでした。
「この子、噛み癖ありますか? 周りのものや、コード齧ったりとか」「吠えます? あと保護犬ということで夜泣きが心配なんですけど……」
ほとんど撫でることもせずに、淡々とセンターの人に聞く私を、職員さんは「ああこの人だけ現実主義なんだろうな」という目で見ていたと思います。
実際、妹は障がいのため聴覚過敏があり、近所の子供達が物凄い叫び声をあげて遊ぶ事があるのですが、その時に体調を崩したり泣き叫ぶ事が何度もありました。
保護犬は色々な経験をした子が集まっていて、中にはトラウマで夜泣きが凄い子がいるとも聞きます。結果、誰かが体調を崩したり眠れなくなったりと、家族共倒れになるのだけは避けたかったのです。
他の犬に構うと物凄く嫌がって吠える甘えん坊です。そう言われ、実際にセンターの人が向かいにいる別の子を抱っこして目の前を歩いた時はキュンキュンととても悲しそうな声を出していました。
そしてその後の講習会では、今なお現実にある殺処分の話も含め、犬を飼う際に必要な心構えや病気と予防の話などを。
感受性の強い真ん中の妹は殺処分の話が始まると大号泣をしていました。
そしていよいよしつけ教室が始まると、センターの譲渡可能な子達がボランティアさんに連れられて入室してきました。
その中に、ぽつんとおあげもいたのです。
お手やおかわりも、おすわりも覚えている。
何より、その時廊下をたまたま新しくセンターに来た犬が通過したのでしょう、一気に他の犬がワンワンと吠える中で、おあげは全く吠えなかったのです。
「お母さん、あの子ならうちに来ても良いかもしれん」
帰りの車の中で、そう告げると、お迎え希望の連絡をすぐに次の月曜日にセンターにしました。
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