どうしてこんな世界になったのか。

20xx年。人類は黎明期に突入した。

これまで夢物語とされていたあれやこれが叶うようになったのだ。

ワープとか空を飛ぶとか。

それらが叶うようになった反面、代償も大きかった。

今まで散々ヤバいヤバいと言われていた地球温暖化、物価高騰、資源をめぐる争い──それら諸々が一層悪化した。

だから今、人類は黎明期であるとともに衰退期にいた。

しかし、どこ吹く風といった感じで日夜人類は新しい発明品を次々と生み出し消費していった。

本当、馬鹿みたいだ。

しかし、問題はそれだけではない。

いくら技術が発達し、豊かになったって人手不足は止まらない。

まぁ技術者なんかは小学生の将来なりたいランキングで堂々の一位に輝いているから問題はなさそうだが。

少子高齢化の改善は全くもって回復の目処が立たず、絶望の一途を辿っていた。

そうなると何が起こるのか。

人が沢山死ぬ。

もともと人は死ぬ生き物なのだが、数がどんどん増えている。

しかも最近は家で寿命を迎える人が増えているらしい。

なんたらブームと言ったか。

そうなるとが溜まる。

化け物──という例えが一番いい。

怪異や都市伝説──そういったあちら側のモノが引き起こす超常現象を処理し、よりよい社会にしていく。というのがこの日本超常現象保管協会の企業理念だ。

一見素晴らしいことをしているように思えるが、実態はクソブラック。うちの会社を一言で表すならそれ一択。

まぁ今のご時世大体そんなものだろう。



化け物は人がこの世に存在する以上絶対に発生する。

だから技術が発達する前からこのような事業を行う企業は小さいながらもいくつかあった。

ただ、そんな弱小の企業では手に負えないほどに人が死に過ぎたのだ。

前に何回か、大企業がを始めようとしたが、結果は大失敗に終わった。

まぁ聞かなくてもわかるだろうけど。

その企業の従業員ほとんどが謎の死を遂げた。

これは一時期全世界で話題になったが今はそこまででもない。

君子危うきに近寄らず。触らぬ神に祟りなし。

そんな風潮が蔓延しているのだから、変に詮索するのはユーチューバーか暇人ぐらいしかいない。

しかし、そのような風潮が蔓延しているせいで、新しい人手が確保できないとも言える。

まぁ人間だれしも、楽して稼ぎたいという思いがある。

命がけな仕事のクセに給料は普通の会社員の半分にも満たない仕事なんて誰もやりたがらないだろう。

そんな様々な理由が積み重なり、日本超常現象保管協会はブラック企業となっている。

「憂鬱だ~……」

今日も仕事。明日も仕事。休みの日なんてない。

おかげでタイムカードが悲鳴を上げている。

定時は18時だが、俺が入社してから一度も定時で帰った人を見たことがない。

大体、超常現象が発生するのは、人が住まなくなった、または寄り付かなくなった建物だ。そのような建物は全国各地にたくさんある。

超常現象が起こると、近くにある警戒装置が起動し、ウチに情報が回ってくる。そうしたら監視委員と現地対処委員が対応し、超常現象を片づける……というのがこの会社の体制だが、仕事を振ってくる人間が居ないので給料が少ない。

こんなに残業をしているのに、「本当にこの額、残業代入ってる?」と疑いたくなるほど安すぎる金額だ。

こっちは命がけでやってるのに。

しかし、ほぼお金の収入源がないのにこうして毎月給料がもらえるのは、俺たちが行っている業務の一つ、超常現象の収監にある。

超常現象の元凶は怪異。それにはだいぶ利用価値も研究価値もある。

だから、それぞれの化け物の特性を生かして、さらにより良い世界を作りたいんだそうな。

発展のためなら化け物にまで手を出すようになってしまった人間は、なんとも愚かしい。


まぁ、どの道俺には関係ないか…

車窓に映る夜景を見る。

そんなに幻想的ではないが、まぁ見る人が見れば綺麗なんだろう。

とうの昔に綺麗なものを綺麗だと思う考えは消えてしまった。

どんなに壮大な景色を見せられても、どんなに輝く星を見せられても、「へぇ」だけで終わってしまう。

深く物事を考えたくない。

面倒くさいから。

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