日本超常現象保管協会 JPA

青霊

ブラックなこの会社。

カタカタというタイピング音が、薄暗いこの部屋に響く。

現在時刻は25:32。

みんな顔に死相が出ている。

上司に罵詈雑言を浴びせられる毎日──というわけではないのだが。


この会社は常に人手不足で、人、1人に対する負担が尋常じゃない。

一応この世界に労基は存在する。

しかし、このブラックな労働を誰も労基に密告しない。

それはこの労働環境に満足しているなどという狂気的な理由ではなく、単に仕事がなくなるから。である。

もし仮に密告をして、労基が調査に入ったら間違いなくこの会社は終わる。

じゃぁそのあと他の企業に就職などできるのかと言われると、そんなわけはない。

この会社に入る為に必要なスキルは、強靭なメンタルと、強い霊感だけだからだ。

あと、仕事が忙しくてそんな暇もない。と理由もあるのかもしれない。



彗華すいか、また仕事が入った。」

隣に座る、赤芽あかめが死んだ目で俺に呼びかけた。

赤芽は綺麗な赤い髪をぐちゃぐちゃと掻きながら言った。

白いワイシャツと黒いスーツが、なんとなく喪服に見えた。

まぁそれを言ったら会社員全員がそうなんだけど。

「はぁ〜……また?俺まだ昨日の仕事の報告書、書き終わってないんだけど…」

「あ〜…じゃぁ僕が代わりにやっておくよ。」

赤芽の目の下にある濃いクマがヒクヒクしている。

今日何十回めかになる缶コーヒーのタブを開けながら言った。

任せられる空気じゃない。

「いや…別にいいよ。」

俺はもう一度深いため息をついて席を立った。

「彗華、行き先はメールに送っておいた。」

「了解。」

俺の声も、赤芽の声も疲れ切っている。

もう何日も休めていない。

家にも帰れていない。

それでも仕事はなだれ込んでくる。

本当、毎日が憂鬱だ。



赤芽から送られてきたメールを確認しながら、駐車場に行く。

あちこちドロだらけの黒い軽自動車に乗り込んだ。

「はぁ〜……行くかぁ……」

今回の行き先は群馬にある古民家だ。

今はもう家主がいない。

東京にある本社から若干遠い。

この依頼を片づけて帰って報告書書いて……

「こりゃ今日も泊まりだな。」

気を紛らわすためにテレビをつけた。

この時間はバラエティしかやっていなかったが逆にいいかもしれない。

最近は地球温暖化やら物価高騰やらで暗い話が多いのだ。

「まぁそれもこれもあのなんちゃらっていう技術者とかのせいなんだけどさ~……」

俺はため息と共に車を走らせた。

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