第46話 世界初期化宣言

観測局の“目”が空に浮かび、無数の光のペンが世界を塗りつぶし始めた。

石畳は紙片に、建物は下書きの線に戻り、人々の声は消しゴムで消されるみたいにかき消えていく。


「……世界初期化を開始する」

冷たい宣告が頭の奥に響いた。


◇ ◇ ◇


「初期化……って、全部リセットってことか!?」

僕は胃を押さえながら叫ぶ。

「セーブデータどころか、ゲームごと消去じゃないか!」


「その通りです」

魔導書少女は淡々と答える。

「歴史ごとやり直すつもりなのでしょう。

モブ勇者という矛盾因子を取り除くために」


「つまり僕のせいで世界が全消去ってこと!?」

……なんだこの迷惑なラスボス感。僕、皿洗いしかしてないのに。


◇ ◇ ◇


リュカが剣を構え、初期化の光に斬りかかる。

だが斬ったそばから書き直され、空間は白紙のままだった。


「無駄だ……!」

彼が歯を食いしばる。

「こいつらは戦闘じゃ止められない。世界そのものを塗り替えてやがる!」


「じゃあどうすんの!? 戦えないし、逃げても消えるし!」


◇ ◇ ◇


その時、足元の石畳が裂け、勇者候補の一人が崩れ落ちていった。

「いやだ! 俺は勇者だ! まだ役を――」


叫びは途中で途切れ、白紙の中に吸い込まれるように消えた。


……胃じゃなくて心臓が痛い。

これはもう、“舞台袖”に隠れてやり過ごすなんてできない。


◇ ◇ ◇


魔導書少女が僕の顔をまっすぐ見た。

「次で決断してください。

皿洗いモブを貫くのか、それとも別の役を選ぶのか」


「別の役って……勇者とか魔王とか!? 冗談じゃない!」


「ならば、モブであると宣言し続けるしかありません。

ただし――世界ごと敵に回す覚悟で」


リュカも剣を握り直し、僕に背を預ける。

「カレー肉まん、決めろ。

お前の言葉が、この初期化を止められる唯一の可能性だ」


◇ ◇ ◇


白紙化は進む。

市場も酒場も、人々も……僕の居場所だった日常が消えていく。

残るのは、僕がモブとして皿を洗った記憶だけ。


「……ああ、クソッ! 胃薬持ってくればよかった!」


それでも、叫ぶしかない。

次に来る瞬間が、世界の命運を決めるのだから。


◇ ◇ ◇


次回、「初期化の中の選択」


お楽しみに。

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