ファーヴァル神話

@yaganekai_suzunonesiryoukan

抜け殻は影

 白くぼんやりと灯りを放つ闇の中にたくさんの机が列んで浮かび、それと同じだけの神が、椅子の上に座っている。中央の玉座には笏を持ち道服を着た少女、閻妖姫神(エンヨウキシン)が座り、神々の統率を行っていた。

「ですから、人を集めねばなりません。」

一人の男が話していた。

「ええ、確かに、そうだけれど、でも、厳しく選抜をせねばなりません。間違った人が入ってしまえば、シェルターではなくなってしまう。」

閻妖姫神が言う。

「他に、意見のあるものは?。」

ヱイザナディンが手を挙げた。

「アザルトロスや、ホティップ・ダン・ナイアルラを封じねば、根本的解決とはなりません。」

「しかし、あくまでもホティップは、正式に南極大陸を治める者。我々が許可なく追放すれば、シンガンサマへの反逆罪にもなり得ます…。アザルトロスに関しては…、貴方もわかっているはずです…。」

 時は、第四暦2824年。殆どの人々が、教えよりも数式を好むようになったなった時代。大陸では、物事の自動化が急激に進んだ上、香辛料や新大陸を求めて外洋に旅立とうとする、多くの人々で溢れかえっていたのであった。貴族たちも貧民も、明日が希望であると信じて、日々奮闘を続けていた。

 白く輝く砂浜には多くの人々が群がり、青く澄んだ海の向こうからは美しく重々しい帆船が、素早くどっしりと向かってくる。やがて帆船は砂浜にて立ち止まり、中からは、一人の男が降りてきた。群がる先住民の中で、一人の男が口を開いた。

「この船は、一体!?」

「なんと素晴らしい質問だ!。この帆船はマリーナ号。我がオランディア連邦共和国の最新鋭の技術を用いて造られた帆船!」

「それじゃ、マリーナ号はどなたのお力を使ってるんです?。」

同じ男が再び訪ねた。

「これまた良い質問!この船は、我が国最大の造船技術者であるヤンセン氏が、全ての設計を行っているのだ!。」

「そうじゃなくて、『どの神様の力を使って動かしているのか。』を聞きたくて…。」

「それは一体どういうことだ?。」

「いや、例えば裁判なら閻妖姫神様のご意見を頂戴するでしょう?。そんなふうに、誰がこの船を動かしているんです?。」

「は?」

 「やめてはだめ…。今やめれば、世界は壊れてしまう…!。」

空洞は静かに轟き、いつかは、カガヤキサマとも呼ばれていたシンガンサマの体からは、暗い光が放たれる。ヱイザネミゥの体からは、いくらかの血が滴り落ち、赤い色をも失っていた。彼女の体がゆっくりと変形しだしているのは、はっきりと目に見えてわかった。かつては一種の偶像であったヱイザネミゥの姿はまるで、体が切れてもなお動き続けようとする蚯蚓のようであった。

 「早く、早く戻るのじゃー!。」

浜へ来たのは、シェッダ婆であった。

「理由は後で話そう。ともかく、早く石舞台へ帰るのじゃ!。」

そのピリピリとした空気感は、一瞬にしてアボルージュ達に伝わった。あのシェッダ婆が、ここへ走ってきたのだから。アボルージュ達の誰もが走った。ウィレイム船長もそれを追おうと走ったが、太陽神ラウの染めた日光を前に、彼は叢に沈んだ。

 石舞台の上ではシェッダ婆を中心とし、彼らは円を描いていた。ディジュリドゥは重く鳴り、彼らの歌声も重く響いた。シェッダ婆は力尽きた。信仰は一時中断となり、あたりにはたくさんの不安が漏れた。

「タウ、そこでなにやってんの!?。」

ジャビルは言った。

「マリーナ号へ戻るのさ。」

「信仰の途中だ。シンガンサマや、ヱイザネミゥ様が堕ちればどうする!」

「ジャビルだって知ってんだろう?。スラァは奴らの手に堕ちた。となれば、次はこのファーヴァルさ!。武力がなけりゃ、奴らには対抗できないんだ。だから、今奪っておかなきゃいけない!。奴らの、文明と戦術ってやつを。」

「ッ…!」

「残念だが、奴らにゃ勝たねばならんのさ。文明を守るっていうのは、そういうことだ。俺一人いればできること、お前は口出しをするんじゃない!。」

タウは離れていった。荒野の陽炎に揺れ、そして消えていったのだ。

 森林は雨に濡れた。激しく冷たい雨に。タウもまた雨に濡れていた。しかし、夜闇に燃えていた。やがて砂浜へたどり着いた。濡れた砂がまとわりついた。夜空に星は怪しく光った。マリーナ号は恐ろしく揺れた。終わりの始まりとも思えるほどのその光景は、まるで850年前のあの日のようであった。

 タウはマリーナ号の右舷に張り付きよじ登った。船体にはいくらかのフジツボが根をはやしていた。タウは手や足をフジツボに切られつつも甲板まで登りきった。そして中へと侵入し、暗く狭い通路の中を手探りで進んだ。タウには船の中は輝いて見えた。体が波の意のままに揺られるその感覚も、彼にとっては初めてで、恐ろしくも、をかしく思えた。天井に吊られたランプは怪しく揺れていた。タウはとっさに息を殺し加持をした。廊下の奥から足音が近づいてきているからだ。床板はメ゙シメ゙シと音を立てた。足音は重く、優しく、愚かだった。うっすらと影が見え始め、やがて全てが見えだした。しかしその時にはもうすでに、それは彼の目の前にあった。それはウィレイム船長だった。そして彼は立ち止まり口を開いた。

「見たところ君は、ここのアボルージュだね?」

タウは小さくゆっくりと、そして強く頷いた。

「これほどまでに暗くては顔も見えんし、話もできん。少しこちらへついて来たまえ。船長室へ案内しよう。」

 「火の精霊ワームスよ。ここに炎を灯したまえ!。」

石舞台の上の焚き火はその一言で燃え始めた。しかし燃え盛るように見える炎もまた、暗い光を放っていた。星も月も光を放つが1000年前の夜空ように世界を照らしはしていなかった。

「タウは、どうしたのじゃ。」

シェッダ婆が言った。しかし誰一人として口を開こうとはしなかった。空気はピリついていた。重く苦しかった。誰もその空気の下に、耐えられるとは思えなかった。ついに誰かが口を開いてこう言った。

「ジャビルと、話していたときから、そこからあいつはいなくなったんだ。」

息はとても荒かった。声は恐ろしく震えていた。

「それは本当なのか?、ジャビル。」

「………はい…。」

ジャビルは苦い声でそう言った。

「うちの、うちのタウがすみません!。」

タウの母、タリアは必死に叫んだが、シェッダ婆は、一切聞く耳を持たなかった。

「どういうことじゃ!。一体、どういうことなのじゃ!。」

そのシェッダ婆の様子は、今まで見たことのないほどに恐ろしく、そして愚かだった。

 「今日はこのくらいにしておこう。何かあればいつでも来い。私がここにいれば、できることならしてやろう。」

船長席にどっかりと座ったウィレイムはとても上からな態度であった。そのままウィレイムは続けた。

「どうだ?。高価な物でなければ、何でも持っていってくれたまえ。ところで少年、君はいくつだい?。」

「…。15歳。今年で成人です。」

「そういえば、君は、昼の婆さんと、何か関係があるのかい?。」

「…あの人の、…孫に当たります…。」

「それは結構。ところで、貴公を見ていると、私の息子を思い出すよ。」

「御子息、ですか?。」

「そうさ。彼は12歳なんだがね。今は、私の兄弟の貿易船に乗って、ヤーパンという、東方の国へ向かっているよ。」

「…今、オランディアにいる人達は、そうなのかもしれませんね。」

「そうだろう、そうだろう。」

タウの心の中は、静かに笑っていた。

「この大陸の文化についても、教えてもらいたいものだがね。」

「文明と、言っていただきたいものですが、ここは公平に行くためです。こちらの文化もお教えしましょう。」

「『平等』と言いたまえよ。少年。」

「あなたほどの人が、度量の小さい。」

「場を和ませた、つもりかい?。」

「全く、辛いものですね。」

タウの心は震えることしかできなかった。

 「あなたは、神を信じていらっしゃいますか。」

「私は、我がオランディア連邦共和国の理学のみを信じている。神など、この世にいるはずもない。」

「やはり、あなたがたはそうでしょうね。それが、いけないというわけではありませんよ。でも、僕たちアボルージュの文明は、神様という存在によって、成り立ってイルものなのです。」

「すまんがな、そんな幻想を信じている暇はないのだよ。」

タウの眉間には一瞬しわがよったが、タウはそのまま話を続けた。

「…それでは…、話しましょう。900年前…、何があったのか…。」

ウィレイムは椅子にどっかりと深く腰掛け、頬杖をつきながら時計を見ている。タウは一度、大きく深呼吸をした。息は震えていたが、タウはゆっくりと話し始めた。

「その昔、人と神々は、共に同じ次元で暮らし、人々は神々の力を借りて、文明を強くしてゆきました。最高神であるシンガンサマからの許しを受けた神々は、時に大地を創造し、時に星星を創造し、自分の国であるかのようにそこを治めていたのでした。しかし、地球のスラァ列島を治めていたエイザネミゥ様は、ここファーヴァルを治めていたエイザナディン様に恋をして、島を出ていってしまいました。そんな中深い絶望の中で、スラァの一人の思想家は立ち上がり、『今こそ人類は人類の力で立ち上がるべきだ。』と主張して、人々に希望を与えました。人々は、あたたがたの信じる理学、私達の信じる神を使って、シンガンサマの瑪那を吸い取る遺物をその手で作り出したのです。シンガンサマは、少しづつ貧弱してゆきましたが、神々は…、それを助けようとはしませんでした。あなたがたの滅ぼしたスラァも、大帝国となったのです。」

「つまり、我々は救いの神だったということか。」

ウィレイムはタウの方を見た。口元はほのかに、はっきりと黒い笑みを浮かべていた。

「やがて、シンガンサマの5つの力を繋いでいた瑪那の結晶は消滅し、6つの体に引き裂かれたのです。一人は繭とになり、一人は大樹となり根をはやし、一人は空洞の中に眠り、一人は石像となって、一人は大陸となりました。そしてあとの一人は…。」

タウは人類の憎悪の歴史のすべてを話し、そしてファーヴァルのすべてを話した。そのまま時は、一瞬にして過ぎていった。

 「なるほど!。精霊というのはおもしろい。精霊の死ぬ際に起こる瑪那というもの、これはますますおもしろい。君の力は興味深い。この船に乗って、一緒にオランディアに渡ろうではないか!、少年。」

「それはとてもよいものです。ご一緒させていただきたい!。が、今は一度、村へ戻りたい気分です。」

「もちろんだ。」

 荒野に朝日は昇り、太陽の前に人影が浮き出た。それは、こちらへ帰ってきたタウであった。その頃、アボルージュの使える瑪那や、世界の放っていた妖艶な光は、少しずつ失われていた。全てのアボルージュ達にも、それははっきりと分かった。アボルージュ達はタウのもとへ駆け寄って、タウの周りを円に囲んだ。タウはそこに座り込み、持っていた袋を地面に広げた。そこから出てきた機械は皆、暗い光を放っていた。その瞬間、タウを囲っていた人の円は、割り込むシェッダ婆のもとに崩れた。そのままシェッダ婆は言った。

「楽しかったかい?。」

タウは重々しい声で答えた。

「…楽しくなんかなかったよ。自慢話ばかりでさ。」

「それは結構。」

「でも、それでも、ファーヴァルを救える可能性は見つかった。」

「救うだと!?。馬鹿を言うな!。お前は自分が侵略者であるとなぜわからん!。スラァ王国はシンガンサマからの天誅によって滅んだのじゃ!。ここもまたお前のせいで天誅を受ける!。」

「スラァは!、オランディアに滅ぼされたんだよ!。無差別にな!。」

その時、シェッダは大きく腕を振り上げ、タウの顔面を打った。しかし、タウの決意は固かった。タウの目は、ずっと未来を見つめていた。タリアの目は嘆きの涙に揺れていた。しかし口元は笑っていた。タウはゆっくりと立ち上がりシェッダの奥へと歩いていった。タウは再び荒野に消えた。

 ジャビルはその後を追って走った。近づいても遠ざかり、中々辿り着く事はできない。タウはこちらを振り返ることもなくただ歩き続けていただけだというのに、走っても走っても追いつくことはできない。荒野に緑が見え始めた頃、やっとタウへと辿り着いた。

「タウ、僕は君を信じてみることにしたよ。タウ。」

「…。」

「今からマリーナ号へ行くのかい?。」

「オランディアに行くんだよ。」

「オランディアに?。なんで?。」

「ウィレイムという男、あいつを信じたくはないが、あいつは俺のこの力が、文明の発展に貢献できると言っていた。もし本当なら、有権者というやつになって、政治や外交ってやつに参加するんだ。そうして侵攻の計画を止める。これ程難しいことはない。」

「そうか…。頑張ってね。」

「もし、俺が止められなかった場合には、その時には、どうか侵攻を食い止めてくれ。」

「そういうタウは、嫌いだよ。」

ジャビルの目は、輝き涙に揺れていた。口元は笑みを浮かべていた。

 「ヱイザナディン、駆けつけてくれてありがとう。」

閻妖姫神は控えめにも玉座に座っている。

「何が、あったのです?。」

「ホティップが、向かって来ているんだよ。ファーヴァルに。」

声以外の音は鳴らず、重い空気も流れを持っていなかった。

「僕に、どうしろ、と?。」

「君の力で護って欲しいんだ。シンガンサマと、ヱイザネミゥを。」

「わかりました。やってはみましょう。」

「ホティップは、殺さないでくれ。わかっているな?。」

声もまた重い。閻妖姫神は俯いたままだ。彼女の顔には哀しみと怒りが入り雑じる。

「あなたのことだ。わかっています!。」

ヱイザナディンは、何も言わずに扉へ向かった。

「すまんな…。こんな私で…。」

扉は大きな音を立てて閉まった。

「私のせいで、ヱイザナディンは…、自分の妻さえも守れんと言うのか。全く持って片腹痛いものだな、私自身のことなのに…。」

 「何か、黒いものが来る…!。」

シェッダはただ怯えていた。ただ、ただそれだけだった。ジャビルはタウの消えた方向を見つめていたが、シェッダがそう言った途端に、心配そうにシェッダを見つめた。シェッダはその手で顔を覆った。シェッダの目は細かく震えた。

 荒野からホティップが向かってくる。彼の周りに光は亡かった。彼の進んだ道筋からは水分も消え失せ、地面は激しくひび割れた。そして彼は何かを探し、ファーヴァルを彷徨い続けていた。

「シンガンサマを探しているんでしょう?。」

後ろにいたのはヱイザネミゥであった。しかしホティップは、振り向こうとはしなかった。

「いけないか?探していて。」

「私が見つけはさせないわ。自らの罪を償えるのなら、この命、惜しくはないッ!。」

ホティップは、ヱイザネミゥへ、振り向いた。

「勝手にしていればいい!。八神創は、見つけ出す。」

「シンガンサマを殺したら、この世界は壊れるのよ!。」

「あんな奴、八神創と呼べばいい!。」

「あんな奴って、アザルトロスだって、シンガンサマの一部でしょ!?。」

「一部だからこそ哀しいんだよ!。」

「世界が壊れてしまったら、あなただって生きられない!。」

「夢幻時空へ逃げれば良い!。」

「他のみんなはどうするの!?。」

「そういう考え方でいるから、我々に勝てないんだろうがぁぁぁぁぁッ!。」

ホティップは、その手を前に突き出した。その瞬間、精霊たちは砕け散り、ただの瑪那の塊となった。それらは手の中に吸い込まれ、彼の力の一部となった。ホティップが手を握りしめると、ヱイザネミゥはあっけなく、塵となって死んでいった。塵は風に流されて、跡形もなく消えたのだ。彼女の死を見ていたのは大戦の根源、ホティップ・ダン・ナイアルラだけだった。

 「エイザネミゥ様が、死んだ!?。」

シェッダのその一言に、アボルージュ達は振り向いた。彼らの目が絶望を見ていたその時に、ジャビルは独り立ち上がった。

 「な、なんだぁぁぁぁッ!。」

ホティップの体に、巨大な電流のようなものが流れた。しかし、それは電流とは違う、怒りのようなものを持っていた。

「に、逃げろぉぉぉぉッ!。」

ホティップがマントで体を覆うと、たちまちどこかへ消えていった。

 ヱイザナディンは暗く輝く永遠の白の地平線を進む。ヱイザナディンは拳を強く握りしめていた。俯きながらも表情には決意が見えた。重苦しい沈黙の中で、独り特異点に触れた。

 石舞台の前を、ヱイザナディンが通った。アボルージュ達には静かに見つめていることしかできなかった。

「ヱイザナディン様!、ヱイザネミゥ様が、ヱイザネミゥ様が!。」

「わかっている。僕が、結界を、張った…。」

そのままヱイザナディンはその場を後にした。

「シェッダ婆、シンガンサマの復活には、後どれくらいかかるだろうか?。」

「終戦から800年もたったというのに…。今のシンガンサマの様子を見ると…、数万年は…、ザラじゃろう…。」

「僕が、ヱイザナディン様の後を追います。」

「すまんな、ジャビル…。ッ!」

その時、シェッダの髪から色が抜け、身体についた肉は削げ落ち、骨は粉々に砕け散り、心臓は鼓動を鳴らすのをやめた。シェッダの命は枯れ果てたのだ。

 ヱイザナディンは砂浜にて、ウィレイムと、対峙していた。ジャビルは震えていて、叢に隠れたままでいた。

「あなたには、ここから出ていっていただきたい。」

「なぜ出ていかねばならん。」

「あなたにはわからないでしょうが、人間には、理学には、見えないものがあるんです。」

「我がオランディア連邦共和国に、不可能なことなどない!。」

「お願いです。今すぐここを立ち退いてください。さもなくば、あなた達にも結界を張ります…。」

「そう言われて、信じるものがいるものか!。」

ジャビルは意を決し、叢から飛び出した。

「僕からも、お願いいたします。どうか、今は、世界のために…。」

ウィレイムは、何も言わずに船へ戻った。船は穏やかに激しく、海の波に揺れていた。重々しく勇ましい船体からは威厳の奥に苦しさが見えた。

「ありがとう、ジャビル。そしてすまない、ヱイザネミゥ……。この結界は、必ず割らせはしないから……!。」

 ホティップはヤーパンを歩いていた。鬼界山の地下にある、特異点に向かっていたのだ。が、その瞬間、あたりは真っ暗になり、底のない穴に落ちたような感覚に陥った。ホティップとアザルトロスは、生身で次元を越えていたのだ。そうして着地した場所は、やはり天界の中の一部だった。天界は暗く輝いていた。いくつもの椅子が浮かんでいた。白い地平線は恐ろしく不気味で、気が狂いそうだった。奥から誰かが歩いてくる。闇に鳴り響く足音は、硬く、厳しく、苦しかった。その足音の正体は、閻妖姫神であった。彼女は二人の前で立ち止まり、独りでじっと二人を見つめた。気づけばホティップは、一歩、引き下がっていた。ホティップは強く拳を握りしめ、苦々しく彼女を睨んだ。閻妖姫神は全く動じず動かない。すると、閻妖姫神は強く、そして妖艶に、一度笏を天に突き立てた。そのまますっと二人に向かって笏を向け、そのまま閻妖姫神はこう言った。

「この私の能力のもとに!、アザルトロス、及びホティップ・ダン・ナイアルラは、暗黒追放の刑に処す!。」

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