第9章 新たな目標
「マスター・レン、システムの初期診断が完了しました」
静かなドーム空間に、フィリアの無機質な声が響いた。レンはそれまで、目の前に広がるホログラムの星図をただ呆然と見つめていたが、その声にハッと我に返った。「ああ、ご苦労。それで、どうだった?このアルカディアは、一体どれだけのポテンシャルを隠しているんだ?」
「はい。現在、各施設の九十七パーセントがエネルギー供給停止に伴うスリープモード、あるいは機能停止状態にあります。しかし、マスターからの魔力供給と私の再起動により、復旧は十分に可能です」フィリアが手をかざすと、ホログラムの情報が切り替わった。そこには、アルカディアの全体構造を示す、詳細な分解図が映し出されていた。
「これは…!」レンは息を呑む。そこには、彼が想像していた以上――まさに「要塞都市」と呼ぶにふさわしい施設群が眠っていたのだ。「自動生産工場…防衛システム管制塔…それに、研究施設まであるのか…」それらは全て、この島の地下深くに築かれた、巨大な地下ネットワークだった。
「なんてことだ…。ただの実験施設じゃない。これはもう、一つの完全な独立国家そのものじゃないか」彼は戦慄を覚えた。この島を創った古代文明は、いったいどれほどの技術を持っていたというのか。「フィリア、これらの施設は、復旧させればまた完全に使えるのか?」
「はい。マスターの【万物創造】スキルによる損傷箇所の修復と、私によるシステム再起動を並行して行うことで、機能の完全復旧が可能であると推測されます」
「俺のスキルと、君の能力…。最高のシナジーじゃないか!」
レンの心は、かつてないほどに熱く高ぶった。
ちっぽけなサバイバル生活が、彼の目標の全てだった。だが、今は違う。目の前には、無数の可能性という名の宝の山が眠っている。ただ生きるだけではない。この島の全てを掌握し、自分の手で運営する。その途方もない野望が、彼の脳裏に浮かび、乾いた魂を焦がした。「絶対に、この全てを手に入れてやる…」
それは、前世で奪われた全てのものをを取り戻すための、彼の復讐にも似た誓いだった。無力な歯車として消耗されるだけの人生は、もう終わったのだ。「自分の手で理想の世界をゼロから創造したい」その魂の渇望が、今、現実のものになろうとしていた。
しばらくの沈黙の後、レンは覚悟を決めた瞳で隣に立つ少女を見た。「フィリア、俺は決めた。俺は、このアルカディアを完全復旧させ、この島を一つの国家として統治する。俺が、この島の王になる」
その宣言に、フィリアの紫水晶の瞳は、一切の揺らぎも見せなかった。
「…マスターの宣言を、アルカディアの最高意思決定として承認します。これより、当施設の統治権限は、暫定マスターから正式マスターである、あなたに委譲されます」
「ああ、頼む。それで、まず何から始めるべきだ?君の意見を聞かせてくれ」
「資源とエネルギーの確保が最大の課題です。特に、マスターのMP消費を軽減させるためにも、自動生産工場の再起動を最優先事項として提案します」
「工場か。なるほどな」
「はい。工場には、あらゆる創造を代行するナノマシン・プラントが付随しています。マスターが一度【万物創造】で創造したものの設計図を登録すれば、あとは資源とエネルギーがある限り、理論上無限に生産することが可能です」
「つまり、俺は最初の一個を創るだけでいい、と」
「その通りです」
その話を聞いて、レンは衝撃を受けた。彼の【万物創造】は、ただでさえ規格外の能力だ。だが、このアルカディアの技術と組み合わせることで、その可能性は文字通り無限に拡張されるのだ。「創造の量産…。まさに神の御業の領域だな」
「よし、最初の目標は決まった。自動生産工場の復旧だ」
「了解しました。再起動には、まず工場に直接エネルギーを供給するサブ・ジェネレーターの修復が必要です。こちらへどうぞ」
フィリアはそう言って、レンを導くように歩き出した。その小さな背中は、どんな軍隊よりも頼もしかった。
どれほどの時間が経っただろうか。レンはフィリアに案内され、地下施設の複雑な通路を進んでいた。やがて、一つの巨大なブラストドアの前で、フィリアは足を止めた。「ここが、第一工場エリアです。ジェネレーターは、この奥に」
「よし、入ろう」
扉の向こうに広がっていたのは、沈黙した巨大な機械群だった。何千年も動くことなく、ただ静かにホコリをかぶっている。だが、レンの目には、それらが再び力強く動き出す未来が、はっきりと見えていた。「全てを、目覚めさせてやるからな…」彼は静かに呟いた。
数時間後、レンとフィリアの懸命な努力の甲斐あって、サブ・ジェネレーターは無事に復旧した。【ゴォォ…】という重低音と共に、工場の一部に明かりが灯る。「やった…!」レンは思わずガッツポーズをする。それは、彼らの最初の共同作業であり、最初の輝かしい成果だった。
「フィリア、ありがとう。君のおかげだ」
「いえ、全てはマスターのお力です」
感謝の言葉に、フィリアは無表情のまま応える。レンは、その無機質な声のトーンが、ほんの少しだけ誇らしげに聞こえたような気がした。この関係が、今の彼にはとても心地よかった。
夜が明けた。レンはフィリアと別れ、一人、地上へと戻っていた。彼は拠点の前の崖の上に立ち、眼下に広がるアルカディアを見下ろした。東の空がゆっくりと白み始め、やがて、力強い太陽がその姿を現す。
朝日に照らされた島は、宝石のように美しく輝いていた。「ここが、俺の国だ」彼は静かに、しかし力強く呟いた。その瞬間、壮大な交響曲が脳内に流れるかのような、圧倒的な高揚感が彼を包んだ。
「無力だった俺は、もういない。俺はここで、創造主になる」彼は両手を広げ、昇り来る太陽の光を全身で浴びた。「見てろよ、フィリア。俺とお前で、この島を…いや、いつかはこの世界さえも、俺たちの理想郷に創り変えてやる」それは、神にさえも挑むかのような、不遜で、しかしあまりにも力強い宣誓だった。
前世で何も持たなかった男が、この忘れられた島で、全てを手に入れる。そのための国家建設が、今、始まったのだ。彼は胸に宿った熱い決意を確かめるように、強く拳を握りしめた。
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