婚約破棄された日陰令嬢「これが私の最後のご奉公ですわ!」
美女前bI
これはざまぁではありませんの。
高貴な貴族達の集まる学び舎。塵一つない綺麗な広間。そのステージ上では王子がツバを飛ばしながら私を糾弾していた。
「だから私はお前とは結婚できない」
その言葉は事実上の婚約破棄。私の母は父の妾。始めから婚約なんて間違っていると思っていた。だけど私は父に文句なんて言える立場ではない。それは今だってそれは同じ。王子の言葉に従うしかない。
「かしこまりました。ではすぐに退場させていただきますわ」
「そうか、わかってくれたか」
振り返るとクラスメイトの卒業生たちから注目を集めていることを知った。私は日陰の女。彼らとは身分も違う。父は大公爵でも私は半分庶民の子。半端な形で幽閉となるか、はたまた追放となるか。たぶんそんなところだろう。
「私は首席で卒業した宿屋の娘シェリーと婚約することを決めた。皆も祝福してくれるとありがたい」
彼のセリフを背中で聞くと、日陰から日向に場所を移すことになる女とすれ違った。それでも私は拍手の雨が降り注いでいる広い室内を歩き続ける。
彼女はなぜか苦虫でも噛むようにそっぽを向いていたように思う。その目尻には雫が溜まっていた。まるで悔しさでもあるかのように。
「さあ、シェリー。こちらへおいで。みんなに君を紹介したいんだ」
聞いたこともないようなかつての婚約者の優しい声。こんなに温かい心で寄り添ってあげられるのなら、そのシェリーさんとやらもさぞかし幸せになることだろう。きっと先ほどの表情は見間違いだ。
そして出口に差し掛かった時、とんでもない声が聞こえてくる。いや、とんでもない真実だった。
「殿下。恐れながら私は男。子供が産めません、ごめん……なさい」
『は?』
私も皆と同じように思わず声が出てしまった。しかし信じられなかった。あれだけの美貌で殿方とは。本当かしら。どうしよう。なんか、とても興味ある。確かめたい……
「しぇ」
王子が何かを言いかけたような気もするが、私は言わずにはいられなかった。そう、これは私が彼にする最後のご奉公。きっと嬉し涙で感謝することだろう。
「シェリーさんだったかしら。私は無理だったけれど、王子の男妾となる方法もあるわ。陛下に願ってみるのも悪くないわね。私が推薦状を書いておくからご安心を。では」
私は振り向かずにそう言って扉を締めた。ヒールの音を道連れに、日陰でも私は私に恥じない道を堂々と歩く。
遠くに聞こえる賑やかな喧騒を聞きながら、私は卒業証書を片手にお屋敷へと向かった。
「やってくれたな、ジョージ。お前がしたことで私はとんだ恥をかいた。婚約破棄などされおって……」
「そうは言いますが、もう女として王子に寄り添うというのは限界でしたよ。私もヒゲが最近濃くなって参りました。婚約破棄はむしろラッキーでしょう」
それに声変わりも終わり昔のように高い声も出ない。夜伽で確実にバレるし、騙したとなれば処刑もありえるだろう。父だって無傷ではいられないはずだ。
しかし彼は目を丸くする。私、何かやっちゃいました?
「お、お前、女じゃなかったのか?」
「男と知ってるからジョージと名付けたのでは?」
質問に質問で返した私。なぜ今まで女だと思っていたのかも私には理解が出来なかった。王子がそういう趣味なんだろうなと思っていたけど、どうやら私の勘違いだったようだ。
でもこれまでは女として育てられた。男であると言っても、はいはいと皆に言われてきたけどそれはちょっと違う意味だったようだ。
「そ、そうか。えーと、じゃあいい。でもそうか、男か……」
その後、私は予想通り父から追放された。日陰の女から日陰の男と性別を変えて。
それから二年が経ち、留学先の隣国に手紙が届いた。私を次期当主として迎えに来るらしい。すっかり仲良くなったフィアンセも出来たというのに急な話であった。
「ジョアンも一緒に来るかい?」
「面倒だわ。あなたが婿養子に来なさいよ。そのほうがこちらも好都合だわ」
彼女の一言が決め手となり、僕は隣国の侯爵家に婿入することになった。駆け落ちとは違うけれど、僕はようやく日向で幸せを掴むことができた。
結婚してからどのくらいの月日が流れただろう。目の前に跪く父と数人のよく知った人がいた。
「面を上げてください、父上。他の方々も。この国にはそちらの国のような古臭い風習はありませんから。今日はどのようなご用事でしょう。私にまだ当主になれと?」
「い、いえ。その、こちらの国の王子とシェリー殿の婚約破棄をお認めいただきたく……」
こちらは宗主国。わが母国は属国であり、僕の立場は結婚とともに父や王子とは逆転してしまった。ところで王子はまた婚約破棄?
「どういうことです。そんなのそちらで自由にしたらいいでしょう」
「ですが、ジョージ様が王様に認めるようにとしたためた手紙がありますれば勝手なことは……」
そこでかつての卒業式をようやく思い出した。宿屋の子のシェリーと婚約ができるように、私から王様王妃様に向けて推薦状を出してから留学に来たんだっけ。今まで一度も思い出さなかったけど、しかしなぜ今頃……
「一夫多妻制ですよね。ならば后を迎えれば問題ないのでは」
「そ、それが。以前も男と婚約、今回もと続きまして王子のご趣味ではと。そのお噂のせいで候補は軒並み辞退され……」
不運だ。
しかし、それと同時に少し面白くないと感じてしまった。恨みや憎しみなんて持ったことはないけど、絶望だけはあったのだ。
僕は抱いていなかったはずの復讐心が始めてここで生まれてしまい、口が勝手に動いていた。
「うちは誰も僕の話をまともに聞いてくれませんでしたね。ご辞退が認められるなんて羨ましい。大公爵様よりもよっぽど偉い方々なんですね」
彼らはそれきり口を開くことはなかった。
やがて母国は貴族によるクーデターで王家と公爵家が滅び、なぜか庶民出身の新しい王が生まれることとなった。彼にどこかから大きな援助があったらしい。
そして新王の実家の宿屋は、出世宿と評判を生み世界各地からその力を肖りに予約は20年待ちという。
よかったね、シェリー。
僕は報告書をそっと日陰の側に避けて、お日様を浴びるのだった。
婚約破棄された日陰令嬢「これが私の最後のご奉公ですわ!」 美女前bI @dietking
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