第57話 闇市の絆

10月24日 震災翌日

闇市 ロンの店――ノアポイント本部。


地震のどさくさに紛れ、祐也、アオイ、タケル、そしてアンドロイドのアキラが脱出に成功した。


「なぁ、なんで上条が混じってるんだよ」

千斗がまじまじと眺める。


「俺はアオイのために死ねる」

「本物の晃くんは絶対に言わないと思う。それにアンドロイドは死なないし」

マナが笑いながら、呆れて笑う。


「ああっ、俺のトレーシーが敵の手に!」


祐也が涙目のタケルを紹介する。

彼はアイアンウォードの、海人武あまとたけるだった。


「おー!実物はさらにマッチョだな!」

みんなが一斉に振り向く。


「よろしく。隼人と一番長く仕事した。アオイと祐也は最高のパートナーだ。……もういない、トレーシーも」


ジンが声をかける。

「よかったな、祐也!アオイ!腕、大丈夫?」


「うん、祐也にお姫様抱っこしてもらったから」

「俺が助けるべきだったのに」

「気にしないで。アキラ」


千斗が叫ぶ。

「あー!俺のセレスティアがぁー!!」


震災の爪痕が残るバラックに、ひさびさに爽やかな笑いが響いた。


ロンが話す。

「みんな、昨日の騒ぎで大変な思いをしたばかりだが、ここには政府の援助なんか一切ない。怪我人がまだ瓦礫の下にいる。みんなで救助にあたろう」


アンドロイドアキラは瓦礫の下の人々を助け出し、ミナやマナは、怪我人を手当てし、炊き出しの準備に走る。祐也も呼びかける。


「ジン!千斗! よし、みんなでやれることをしよう!」

「だな!」


焚き火の前、鍋がぐつぐつと煮えている。

子どもたちが列を作り、老人が疲れた顔で腰を下ろす。


ジンが鍋をかき混ぜながら声を張った。

「今日は“特製ジンカレー”だ!スコアも身分も関係ない、並んだ順だからな!」


子どもが「ありがとう!」と受け取ると、ジンはにやっと笑い、お玉を掲げる。


「聞けよ、みんな!――俺たちは強いから戦士なわけじゃない。困ってる人を助けるから戦士なんだ!それを忘れたら、ただの暴力屋だ!」


ざわついていた場が一瞬静まり、誰かが「そうだ!」と声を上げる。拍手が広がり、空気が和らいでいく。


千斗が苦笑しながらアオイに囁く。

「……やべぇ、ちょっとジン、カッコよくね?」

「うん、見直した」


ミナも焚き火の向こうでジンを見て、

わずかに笑った。



その翌日。

修理エリアから整備班が駆け込んでくる。

「ロン!一体だけ動くようになった!」


鉄と油の匂いの向こう、白い手がふるりと上がった。

「――トレーシー!」

タケルの声が裏路地に響き、次の瞬間には両手を広げて飛びついていた。


「I love you, honey!!」

「俺たちで、アンドロイドを回収したんだ」

千斗が得意げに言う。


一拍の静寂ののち、周囲がどっと笑いに包まれる。

「It's great to finally meet you!」

「いや、そこは『ありがとう』だろ」

「トレーシーの生命の恩人だ!千斗」

「お前、マジでバカ……でも、よかったな」


温かい空気の中、さらに二体のアンドロイドが修理から戻り、救助と運搬に加わった。

希望の輪郭が瓦礫の街に少しずつ戻っていく。


10月26日 震災から三日目


テレビが復旧し、紫音が大画面を点灯する。


「ちょっと!大変よ!ニュース」

「防衛省長官による発表です」


『10月23日 21:48 M9.2 この度の地震は、東京湾岸海洋地震と命名いたします。死傷者は現在3000人、瓦礫の下になる人々の救助に、サイバー部隊が出動しました。


市民の命を護るため懸命に貢献しています。自衛隊最前線として選ばれたサイバー部隊の初活躍として、未来の日本の素晴らしい技術に各国も賞賛の声と支援のエールが届いています』


『速報です。梅センターでは、レジスタンス“ハクト”を名乗るテロリストが襲撃しました。CORLEA三体、アンドロイド三体を盗み、ゲートを突破。現在逃走中』


速報:横浜テロ事件の背景に“名門学園出身グループ”関与か


横浜で発生したテロ事件について、新たな情報が明らかになった。関係筋によれば、今回の襲撃を主導したとされるテロリストは、名門校・明成学園の出身である 青砥 刀(あおと・じん)容疑者。


青砥容疑者は学友時代から「狂信的思考グループ」を率いていたとされ、過激な思想で周囲を扇動していた。

さらに、同学園在籍中に恋人登録制度を利用し、

登録されていた 霜峰三奈(しもみね・みな)氏 を執拗に狙い、誘拐を試みた実行犯との容疑がかかっている。


公安関係者は「個人的な執着と、思想的な過激化が結びついた可能性がある」としており、事件の全容解明に向けて調査を進めている。



青砥 刀(17)

赤井千斗(16)

七瀬真奈(17)

城戸祐也(17)

如月アオイ(17)

海人武(19)


上記6名は、テロ組織「ハクト」と共に行動していたとして、ブルーホライゾン関係者による犯行と断定。


本日付で、警察省は全国指名手配を発令した。


市民の安全確保のため政府は戒厳令を発動。

市民は自宅、もしくは避難所での待機を要請されている。

政府広報によれば、食糧・水・インフラ復旧は48時間以内に完了する見込みだ。



画面が暗転する。

焚き火の揺らめきだけが、彼らの顔を照らしていた。


誰も言葉を発せない沈黙を破ったのはジンだった。


「……笑えるな。昨日まで“未来の戦士”なんて拍手してたくせに、今日は“テロリスト”だとさ」


その瞳は、怒りでも絶望でもなく——

かすかな決意の光を宿していた。


「ああ、もう後戻りはできないな。……自分たちの手で、真実を暴くしかない」


祐也が低く答える。


——彼らの戦いは、ついに“表の世界”に晒された。

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