第2話 梅送り

翌朝、教室はざわついていた。


「ジン! 大変!」

ミナが蒼白な顔で駆け寄る。


電光掲示板に赤字が浮かぶ。


城戸祐也しろとゆうや梅』


「……梅? まさか、あいつが⁉」


クラスで一番優秀だった祐也に、“社会不適格”の烙印が押されたのだ。


マナが泣きながら教室を飛び出していった。

俺は思わず追いかけた。


「昨日、何があった!」

「何にもない! 離して!」


ピコンッ。

『女性が嫌がっています。これ以上の接触はマイナス六ポイント』


「うっせー!」


「祐也に告白された。でも……登録もしてないのに、勝手に近づいて。だから断ったの!」

「……フッたってことか?」

「そうよ!」


デバイスが赤く点滅する。

『執拗な問いかけは、マイナス八ポイント。九、八、七……』


「かまわねーよ!」


ミナが駆け寄り、俺の腕を押さえる。

「ジン、あとは私が話すから」


――アイツは松だったんだ。クラスで誰よりも出来るやつが、なんで梅なんかに。

いったい何が起きたんだ。来月検定なのに。


***


「マナちゃん、祐也くんのこと、好きだったみたいよ」

ミナが言った。


「やっぱり昨日はそんな話だったんだな」


「でも祐也くん、登録もしないで“好きだ”って言っちゃったの」

「好きならカンケーねえだろ、そんな事務手続き」

「感知したデバイスが“不適合”って判定したのよ」


「はぁ?なんだそれ?」


男女の相性まで監視される――俺は初めて知った。

祐也は“嫌だ”と拒否されても、マナにキスをした。

びっくりしたマナは、そのまま走って帰ったらしい。


「……それだけで?」


「祐也くんが無理やりキスするなんて、ありえない。彼は、成績トップだから、不適合になってしまったのは、マナのせい....。

だからマナは、彼に迷惑をかけたと思って、逃げたらしいわ」


「俺、祐也の家に行ってくる」

「私も行く」


***


祐也の家を訪ねると、母親が涙目で出迎えた。


「二人とも、ありがとう。心配はいらないわ」


微笑んで言った声は、あまりに穏やかすぎて、不気味だった。


「心配はいらないの。あの子は一カ月後、あなたたちに相応しい“お友達”になって戻ってきます。その時は、よろしくね」


背筋に冷たいものが走った。


――梅になった者は、本当に戻ってくるのか。

それは“祐也”なのか?


なぜ優秀な祐也が梅に落ちたのか。

次は、俺かもしれない。


スコアを稼ぐしかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る