第3話 老人パラダイス:檻の楽園


「ジン、おばあちゃんのところに、ミナさんと行ってきて」


「えー、マジかよ」


行けば一五〇ポイント。

正直、あと一カ月で検定だってのに、せっかくの休みをデートじゃなく、老人ホームで潰すとか最悪だ。


……いや、仕方ない。十七歳の検定は人生を決める。スコアは一ポイントでも欲しい。


祐也。アイツは頭がいいから、「梅」に落ちても学校が特別に用意したエリート棟に送られたって噂だが――。いいよな。


「こんにちは」

「ジンとミナちゃんが来たわよ!」


老人ホーム。そう呼ばれてはいるが、中にいるのは全員二十代にしか見えない。

うちの両親より若く、スカッシュやサーフィンまでやっている。


「やだな。あそこ行くと疲れるんだよな、やけにテンション高くて」

「おばあちゃん、八十六歳だけど、私より全然元気だよ」


ここは特区。七十歳以上でないと入れない。

街中には最新設備、デパートもレストランも三ツ星以上が並び、老いも病も消えた世界。


薬とテクノロジーで老人は二十代の肉体を得て、体力も気力も復活。青春を謳歌できる。

スコアさえあれば経済力は関係ない。誰でも入れるし、好き放題に暮らせる。


だから平民〈竹〉にとっては、この夢の老人タウンに入ることが唯一の希望。社畜として働く理由すら、それだけだ。


――だが。


見た目は若返っていても、中身はやっぱり八十代。

相撲観戦や懐メロカラオケに、やけにテンション高くつき合わされる。


極めつけは、妙に艶っぽい顔で「ヒーヒーヒーッ」と笑うおばあちゃん。

……女を捨ててるとかじゃなく、もう人間味すら置いてきた感じ。不気味すぎる。


マジで勘弁。


ゲートボールをしていた青年が青い顔をして、ふらついて倒れそうになり、すぐに看護師が二人ほど駆けつける。


横目でみた祖母は気にしてないようだった。


「そうそう、最近できたイタリアンのレストラン。有名シェフプロデュースなのよ。行きましょう」

婆ちゃんに誘われた。


豪華なレストランの中。

若返った老人たちはワガママを次々と口にする。


「ワインがぬるい! 今すぐ替えて!」

「ほら、もっと笑顔で! 青春は笑顔よ!」


減点の心配がないから、やりたい放題だ。


「だから、みんな老人を羨むんだ。

スコアの鎖から解放され、若返って、毎日遊び放題。俺たち〈竹〉にとっては、唯一の希望――定年後のパラダイス」


その横で従業員たちは必死に張り付いた笑顔を浮かべる。

「はい!」「ただいま!」

――スコアに縛られた奴隷だ。



「あれ、おばあちゃん、何も食べないの?」


「今日はいいの。サプリメントを飲んだから。あまり食べると身体に負担がかかるのよ」


祖母が柔らかく笑った。


「さあ、ジン。あなた達にもポイントをつけておいたわ。私からの感謝もこめてボーナスよ。来月の検定、がんばりなさいね」


ピコン、とデバイスが光る。

スコアが加算された通知。


(……感謝まで数値化かよ。これで俺は“幸せ”って思えってか)



「こいつら、やりたい放題だな」

思わずつぶやいた。


祖母が振り返り、穏やかに笑う。

「あら、私たちがどれだけ頑張ったから、今の世界があると思ってるのよ」


すかさずスタッフが頭を下げる。

「はい! この方たちあっての日本ですから。このくらい当然の権利です」


ジンは口をつぐむしかなかった。

(……権利? ただの檻の中の王様ごっこだろ)


祖母は満足げに頷いた。

その横で、ミナは黙って微笑んでいた。

ジンには、その笑みの意味がわからなかった。

ただ――何かを隠しているように思えてならなかった。

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