第9話 揺らぐ決意 ――檻の中の優等生


昨日の敬寿の日記念、ヨットレースの優勝者のスペシャルドキュメンタリーが特番で組まれていた。


試合に挑むまでの、トレーニングや、仲間との

連帯感が感動的なドラマ仕立てで、終日流されている。


「ジン!貴方達のインタビューに、優勝者が

コメントしてるわよ」


(あの老人は、とても復活するようには….)


「明成学園の一年生の方々が、試合の後、インタビューに来てくれた。いやぁ、せっかくの訪問なのに、会えなくて悪かったね!


見た目は若いから、いつも忘れちゃってるんだけど87歳だからね!さすがにダウンしてたんだ。

だけど、来年もまた優勝を狙ってがんばるからね。試合観戦ありがとう!」


拍手のなか、爽やかな笑顔で手を振っていた。


「これ、フェイクだろ」ジンは冷めた目でつぶやく。


「まさか、政府の専用チャンネルよ。それに、昨日私達、握手したけど彼だったわ。あの若さ、間近でみると益々びっくりよね、全く24歳くらいにしか見えなかった。ねぇ貴方」


「はやく、ママの若い姿に会うのが楽しみだ」


こんな茶番につきあってられない。


俺は、浦島太郎みたいに、みるみる老化した死屍のような彼を観たのだ。


「さあ、ママにキス、パパにハグして、

学校に行きなさい。1日1日が大切な時期よ」


ジンには、全てが今までと違って見えていた。


家族の食卓に並ぶ、卵やソーセージはバイオ肉

野菜にはビタミンをふりかけ食べる。


政府は、これらは贅沢品としている。サプリメントを3錠飲めば身体に必要なものは、満たされる。だから、竹以下の階層は、食事自体に娯楽税がかかる。


「見栄なんかはらず、サプリでいいのに」


街は人が少なく渋滞もない。車も移動するたび、スコアが低い人間には、高い税金がかかるので、

乗る人は、殆どいない。


人は、貧老病苦をついに克服し、最高な世界を手に入れたというけど、それは、本当のことなんだろうか。


ジンは食卓を抜け出し、靴を履きながら考えていた。

――マナの告白。

兄が別人になって帰ってきた話。祐也も、あのままでは……。


ミナに話すべきだろうか?


彼女なら何か知っているかもしれない。

けれど、開発者の娘にそんな話をしたら、俺の方が梅送りになるかもしれない。


「……言えるわけ、ねぇよな」


ポケットの中のブレスレットを握りしめる。

冷たい金属の感触が、今までの世界のすべてを嘘のように思わせた。


――ミナ。

お前はいったい、どこまで知ってるんだ。


放課後、ミナが校門の前で待っていた。

「悪い、ちょっと千斗と話がある。先帰っていてくれる?ミナ」


ミナは、顔を真っ直ぐ見つめた。

「うん、いいけど。なんか悩んでる?」

「まさか、何にも。だけど、成績上げないとまずいからさ」

「わかった!じゃあ、頑張って」



マナの家に、千斗もいる。

今日こそ――はっきりさせる。


祐也のことも、ノア・ポイントのことも。

そして、このブレスレットの意味も。


――全部、確かめてやる。




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