第7話 ノア•ポイントの鍵—ブレスレットの秘密
マナの出してきたブレスレットは、あの祭りの夜にもらった物と同じだった。
ジンはカバンの中を探り、放り込んだブレスレットを取り出す。
金属の輪は、マナのものと寸分違わず同じ形をしていた。
「……なんで、同じものをお前も持ってるんだ?」
千斗が驚いた顔でジンを見た。
「俺も……祭りの夜、ミナが射的で取ってきたんだ。よく分からなくてカバンに突っ込んでたけど」
マナは真剣な瞳で言った。
「そのブレスレットがあれば、デバイスを外せると言われたけど……でも、私は怖くて試せなかった」
千斗が低くつぶやく。
「つまり、スコアの監視から逃れられるってことか。檻から抜け出せる唯一の鍵……」
ジンの心臓は早鐘を打っていた。
これまで当たり前だった管理社会。スコアで縛られ、ルールの中で“優等生”を演じる日々。
それが一つのブレスレットで覆される――?
だが、同時に頭をよぎる。
――もし本当にデバイスを外したら?
監視から外れるのは自由じゃなく、梅の施設どころか,下手すると“根の国”行きの片道切符かもしれない。
マナは両手を握りしめた。
「……祐也を助けるには、これを使うしかないの。でも、私一人じゃ無理。だから……」
言葉が詰まるマナの横顔を見つめながら、ジンは思った。
(俺も……ミナも、このリストに載っているかもしれない)
ジンは思わず笑った。
(ブレスレットなんかで、システムを抜け出せるわけがない)
街には、いたるところにドローンが飛んでいる。
通りすがりの人間が立ち止まっただけで、
「行動理由」を即座に確認される。
学校では、息を合わせたかのように全員が同じタイミングでデバイスをオンにする。
家庭でも、親ですらスコアを口実に監視してくる。
……そんな鉄壁の社会を、祭りの景品みたいなブレスレットでどうにかできるはずがない。
「頭がどうかしてるんじゃないか」
そう吐き捨てながらも、ジンの胸の奥には、冷たい違和感が消えずに残っていた。
その瞬間、窓の外を一機のドローンが音もなく横切った。センサーの赤い光が一瞬こちらをかすめ、何事もなかったように通り過ぎていく。
ジンは無意識にブレスレットを握りしめていた。
冷たい金属の輪が、皮膚に食い込む。
——これはただの祭りの景品じゃない。
そう直感した瞬間、背筋を走ったのは、祐也の消えた夜の記憶だった。
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