第16話

「まずは、先日お話ししたルナクアル=リッツ共和国――通称水の国のことは覚えていますか?」

「うん、話してくれたことは覚えてるよ」

 通称の通り水が身近にある生活をしていて――水の流れと魔力の流れが近いから、魔法が使える人、精霊と会話ができる人が多いって話だった気がする。

「先日は少し暗い話ばかりだったので、水の国の魅力をお伝えしましょう……。アシリアさんは音楽や劇などといったものは耳にしたことはありますか? またはお好きですか……?」

 少し考えてみる。現実逃避のために聴いている時もあったが、音楽は割と好きな方だ。劇は……自分から好んで見に行ったことはない。でもたまに学校の行事で見る時や、文化祭などでクラスメイトがやっていたのを見た時は楽しめた覚えがある。

「劇はあまり触れてこなかったけど、音楽は好きだよ」

「そうなんですね……具体的な例を挙げてしまいましたが、転生前の世界にも、同じような文化があり安心しました……水の国はそういった芸術的な方面でも世界中に名を馳せています」

 昔有名な演奏家のコンサートを見に行ったことがあるのですが、それはもう素晴らしく、言葉がでないほどでした……と、アストラさんはうっとりとしている。

「ですから、無事にこの旅が終わってからなのは前提として……共に観劇に行きましょう。もちろん、ネクロさんも連れて」

 急に話をふられたことにびっくりしたのか、ネクロは思い切り咳き込んだ。どうやら歩きながら食事をとっていたようだ。手にはまた長方形の食べ物が握られている。

「草ばっか食べてるけど栄養偏らないの?」

「草じゃない。どんな味がするか聞かれたからそう答えただけだ」

「ネクロは水の国行ったことある? 今度三人で行こう」

「話を聞け」

 私たちの掛け合いを見て、アストラさんはくすりと微笑む。

「仲がよろしいんですね……」

「仲が悪ければ一緒に行動はしないだろう」

ネクロがそう答えれば、「それもそうですね」とアストラさんは微笑んだままでいた。

「続いて、ゼノヴェリア公国――こちらは通称“風の国”と呼ばれています」

 おお、なんか名前がかっこいい。

「ここは頻繁に武闘や決闘など、人と人がぶつかり合う戦いをよく行っています。上下関係に厳しいですが、争いごとに関しては身分関係なく行っているそうで……こういったことを好む人は地位を手に入れたい方が多いですからね。……昔、観光目的で向かった方が武闘の場に連れ込まれ、大怪我を負ったという話も聞いたことがあります」

 血の気が多すぎる。ちょっと向かうのは怖いなと感じてしまった。

「……ですが、こういった話は特に治安の悪い一部分でしか起こりません。対戦という行為自体が風の国の観光の顔になっているだけであって……風の国の民全員が血気盛んというわけではないですよ。どちらかといえば、自由奔放な方が多いです」

「そういえば風の国出身の友人がいるが、彼の性格を一言で表すとすれば“自由”が似合う人柄だな」

 ネクロの言葉に頷き、アストラさんは話を続ける。

「水の国では精霊と会話ができる方が多いという話でしたが――風の国では自在に空を飛べる人が多いです。……もちろん、こちらも魔力ありきの話ではありますが……」

 それでも水の国よりは、魔法を使えない方への待遇は悪くないですよ、と付け加えられる。

「精霊と話したり、空を飛んだりっていうのは、私にもできるようになるのかな」

「ええ。どちらも練習すればできるようにはなるはずです」

 へえ! 精霊との会話、空を飛ぶ……どちらを先に会得しようかな。その前に普通の魔法を使えるようになることが第一優先なんだけど。

「魔法に関しては教えられますから、いつでも頼ってくださいね」

 アストラさん、とても頼もしい……。

「そろそろ休もう。ランタン越しでも先が見えにくくなってきた」

 ネクロに言われて周りを見渡せば、確かに周りは真っ暗で――いつも真っ暗なのはそうなんだけど――それでも薄ぼんやりとしていた明るさはすっかりなくなっていた。ずっと歩いていたことを考えるに、夜が来たのだろう。

「あそこに木があります。そのそばで今日は休息をとりましょうか」

 アストラさんの提案に私たちは頷いた。


 ――

「この調子だとメラリーテ村に到着するのはあと3日ほどといったところだろうか」

 ネクロがかき集めた木々に、私が火魔法で点火して、ある程度の暖と光を確保する。

 暖とはいったけれど、今は別に寒いわけじゃない。ただ光はランタンよりも大きいので、よりみんなの顔と周りの様子が見れて嬉しい。

「何もなければ、の話ではありますけれど……今のところは順調に進んでいますね」

「そういえば、アストラさんの未来視で今後のトラブルとか予知できないの?」

「そうですね……」

 私がふと気になったことを聞いてみれば、アストラさんは虹色の瞳を閉じ、空中に何かを書き始めた。

「……いえ、特には。ただ、見張り番はつけておいた方がいいかと……。何もいないと勘違いした魔物が近くに来る可能性はあります……」

「そうだな」

 私もそれには異論はないので頷いた。

「お二方、お腹は空いていますか?」

 アストラさんの声がけで、忘れていた空腹が私を襲ったのがわかった。

「もうお腹と背中がくっつきそう……」

「俺は空いていない。草を食べたから」

 自分でも草って呼んでるじゃん。ネクロにジトっとした視線を向けてみたが、「?」と不思議そうな顔をされた。

「それなら……アシリアさんには私が料理を振る舞いましょう」

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目が覚めたら光がない異世界に来ていたので、最強農民少女として世界を救おうと思います。 浅葱霙 @Sn_7gjtm

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