第七話 世界の違い
「権藤流合戦槍術 紫電三段突き!!」
槍の掴尻を握り大きくしならせる。
そして、その力を利用し、上に下に穂先が揺れる動きを利用した、暗雲の中を煌めく紫電の閃光のごとく放たれる槍の三段突き。
ドルドイも躱しきれずに一突き、二突き、頬を切り裂き、既の所で三突き目を躱す。
「....ふむ、この三段突きが、貴様のスキルか?」
「....あぁ?そうとも!!この権藤流合戦術が俺様の技よ!!」
「ふふっ、そうか。どうやら俺は少々買いかぶっていたようだな。初めて見る技は、ついつい確かめたくなってしまう」
そっと頬に出来た二つの傷を撫で、その指先を舐める。
「貴様....死んだぞ?」
「殺してから言えよ」
「抜かせ!!」
ドルドイが上段に構えたその巨大なブロードソードを振り下ろす。
今までとは明らかに違う、裂帛の気迫が空気をさざめかせる
その様子に村人たちがやにわに顔を青くする。
そして。
「剣技!!トライリッパー(三頭凶殺斬)!!」
叫ぶやいなや真っ直ぐに振り下ろされる剛剣。
しかし、余りにも真っ直ぐ、余りにも単純、そして一直線。
ここまでで権藤資隆の技をみたものにしては余りにも不用心。
破れかぶれか、そう思った。
しかし、それは権藤だけであった。
取り巻きの兵士も、村人も、エンゲスですらも、それがただの一振りにはならぬと分かっていた。
唯一、異世界の旅人である権藤資隆しか、その迫りくる脅威を理解していなかったのである。
肉が裂け、血が舞い踊る。
完全に、目の前の一振をいなしたと思った権藤の腕から胸から、噴水のように血が流れ出しているではないか!?
奇怪!
余りにも摩訶不思議な現象!!
たった一振の斬撃が、三つの斬撃を与えたのである!!
「な、なにぃぃぃぃぃ!!なんだぁこれはぁぁぁぁぁ」
「おぉ!!ドルドイ兵士長のトライリッパー!!」
「しかし、あれを受けて首が繋がっているとは!!」
「むぅ、あの野蛮人、ますます持って油断ならん!!」
兵士たちがドルドイのスキルに興奮し、色めきたち感嘆の声を上げる。
それとは真逆に。
「あぁ.....やはりあの兵士長、”スキル持ち”だったか!!」
「スキルを持たない我らだが、もしやゴンドウ殿も....」
絶望と諦めの合唱。
堪らずドルドイと距離を取り構える権藤。
「なんなんだ一体、俺は確かに、あの一振りをいなしたはずだ.....」
なのに、斬られた。
まるで全く同時に三つの斬撃が放たれたように。
切り返しや脱力なんて話じゃない。
そんな次元の業ではない。
超常の、魔法のような、非科学的な超能力!
「ふふっ、どうやら貴様、スキルを見るのは初めてのようだな?」
「スキル....だとぉ?」
「そうとも、貴様の力頼りの児戯とはものが違う、本物の業だ。この寸分のズレもなく同時に繰り出される【トライリッパー】の斬撃、果たして、いつまでその首が繋がっているかな?」
劣勢。
一転して劣勢。
先程まで大勢の兵士たちを相手に無双していた権藤が、たったの一撃で腕から、胸から血を流し、その事実を突きつけた理解を超えた斬撃に、動くことが出来ないでいるではないか。
そして今、彼の頭の中ではスーパーコンピューター富岳ですらオーバーロードを起こしてしまいそうなほどに、持てる限りの知識と経験を総動員し、この超常の業に対抗する手段を導き出そうとしている。
「.....へっ、まさか異世界に来て大道芸にびっくりするとは思わなかったぜ」
しかし、現実は非常である!
精々が虚勢を張るだけで精一杯。
攻略法が見えないのである。
「ほざけ!その強がり、いつまで言っていられるか!!」
ドルドイがぐっと体を沈め踏み込む。
鎧兜を身につけているというのに、まるで餓狼の如き俊敏な動き、あっという間に権藤との距離を詰め剛剣を振り下ろす。
剣技・トライリッパー炸裂!!
しかし、振り下ろされたのはそうではなかった。
ただの剛剣、ただの一閃、ただの剣技、スキルにあらず。
(なに?どういうことだ.....さっさとスキルとやら使って勝負を決めちまえば良いものを、余裕.....か?)
「ぬぅん!!」
一太刀、二太刀、この優勢を確実に我がものにしようとドルドイの猛攻が迫る。
剣の形をした嵐のような猛攻、直撃を受ければそれだけで胴体が寸断されてしまうかもしれないほどの剛剣
しかし、トライリッパーは来ない。
(....もしや、スキルとやらは何回も連続では使えないのか?RPGだとかソシャゲでも、便利なスキルやアイテムほど何回も使えない。そうなのか?本当にそんなゲームみたいなものなのか?....ここはひとつ揺すってみるか)
「おい、ご自慢のトライリッパーとやらは出さんのか?」
「....大道芸にも駄賃が必要でな、そう死に急ぐ必要もあるまい!」
言うや否や一合、二合と打ち合う。
そして、その瞬間が訪れてしまった。
折れたのである。
槍が、権藤の手に握られていた、民兵の一人が使っていた槍が。
木に穂先を付けただけのちゃちな槍、鉄心が入っているわけでもないただの槍。
むしろ、良くぞここまで持ちこたえてくれた。
しかし、これにて権藤は無手、徒手空拳の身となってしまったのである。
トライリッパーの攻略法も思い浮かばぬまま絶体絶命のピンチ!
「ふふ、どうやら、これで貴様も終わりのようだな?平民如きが逆らった事、後悔しながら死んでゆけ!!剣技・トライリッパー!!」
再び、裂帛の気迫と共に権藤の脳天へ向かって剛剣が振り下ろされ、ドルドイのトライリッパーの斬撃が、猛獣の牙のように襲い掛かる。
どうする、権藤資隆!!
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