第二話 男一匹転生す
「死んだのにあの世じゃあないって、どういうこっちゃあ?」
あの焼けるような痛みも、流れていく体温も、全て本当だったはずだ。
その後はどうなったかは分からんから、つまりはそこで意識が途絶えた。
ここも病院ではないし、目の前の青瓢箪も医者には見えないし。
何よりも、こいつの口から俺は死んで、ここはあの世じゃないと告げられた。
まるでとんちか謎かけみたいな感じだ。
死んだのにあの世じゃあない。
脱出ゲームだとか謎解きゲームでもまだ親切なチュートリアルが用意されてるというのに、これじゃあ初めてやる海外のインディーゲームで訳も分からず突っ立っているようなもんだ。
「えぇ、はいですから、つまりあなたは死んだのですが、その、魂はまだ死んではいないというか。まぁ厳密に言うと我々の定義では死んではいないのですが、まぁ、あなたの基準の解釈では死んだというのが適切かもしれないですが、魂と肉体ではまた色々と違ってきまして....」
「えぇい!! よくわからん!! 死んだのか死んでないのか!! どっちなんじゃい!!」
「ひっ! 死んでます! 死んでます! 死因は切腹で死んでます!!」
「....そうか、俺はやはり死んだのか」
────しぃんと静まり返った。
先程、神器だとかいったノートパソコンが立てるファンの音がぶぅんと響き、それにあてられた書類がパタパタとなびいた。
コートのように羽織った、詰襟の改造学ランが、ぎゅっと衣擦れの音をたてる。
「....はい、お悔やみ申し上げます。えぇと、そこでですね? ここからがご説明なのですが、異世界転生というのはご存じでしょうか?」
◇◇◇
唐突に切り出されたワード
【異世界転生】
そういえば、マンガだのアニメだのでオタクの間で言っておったのは知っている。
パチンコでもそれらしい台は確か打った事はある。
乳のデカい女のキャラクターがこれでもかというほど出てきて最初は楽しかったが、似たようなのばかりですぐに飽きてしまった記憶があるが....
「あぁ? 聞いたことはあるが、あんなもんはマンガだとかアニメの話だろ?」
「いいえ、ちがいます」
「なにぃ? どういうこっちゃい」
「あなたたちの認識では空想の類。そういう認識なのでしょうが、実際は違います。異世界転生は実際に存在します」
「....ほう?」
「世界というのはあなたたちが把握しているよりも広大で複雑です。それを、我々【神】が管理しています」
まぁ、私は下請けですが....
そうボヤいたのを誤魔化すように慌ててコホンと咳払いをして更に続ける。
「恐らく、魂が数多の世界で輪廻転生を繰り返すうちに、何某かの記憶が残滓のように残っていたのか、それらを夢や閃きという形で思い出したのか、それが創作のアイデアとして使われたのでしょうね。それがまさか世界の真実の一端だとも知らずに」
「ふぅん、よくわからんが、異世界転生だとかいうのが在るというのは分かった。で、それが俺とどう関係があるんだ?」
「えぇ、そこですね。本来ならばそのあたりは自動化されているのですが、あなたの場合は少々事情がありまして....ちゃんと聞いていただけますか?」
「おう、聞いてやる。わかりやすく頼むぞ」
暴力は振るわないでくれ、その念押しが籠った言葉に応えると、神とやらは安心したのか、その口からほっと息が漏れた。
「あのですね? 無数の世界があるとお伝えしたのですが、その中にはちょっとインポッシブルな、人を選んでアサインする必要があって、スクラップアンドビルドが検討されつつある世界もあるんですね?」
「うん? おう。それで?」
「えぇ、つまり、問題を解決できれば万々歳な世界にヒーローになれる人を探しているというわけです」
「....なぁるほど。それで、この権藤資隆様が選ばれたというわけだな!!」
「そういうことです!! いやぁ、助かるなぁ〜、強そうな人が来てくれて〜、私は運が良かったな〜」
「そうだろうそうだろう!! この男、権藤! いっちょ世界を救ってやろうじゃあねぇか!!」
どこからか笛や太鼓の音が鳴り響き、祝福するようにクラッカーがパンパンと鳴る。
あぁ、クラッカーは神が鳴らしてたのね。
いつの間にかパーティーで使う三角帽子を被ってやがる。
「ではでは、異世界転生していただけるということで、まずはこちらの書類にご署名お願いいたします。ちょっと量が多いのですみませんね〜? こことここと、丸で囲んであるのでそこにサインしていただければオーケーです」
「おう! この俺様に任せておけば一切合切解決してやろうじゃねえか!」
「いや〜助かるな〜、本当にどうしようかと思ってましたよ〜。お引き受けいただいて感謝感激ですよ〜」
次々と差し出される書類へ踊るようにペンを走らせていく。
丸に囲まれた空欄に次々と【権藤資隆】とサインが書かれていく。
そうして、ひとしきりの書類に記入を終わった頃に神が切り出した。
「それでですね、異世界転生におけるチートスキルやアイテムなのですが…こちらの書類にあるようにまぁ、色々と規約がありましてぇ」
おずおずと一枚の書類を差し出した。
異世界転生者 優遇措置及び、それに伴う免責事項に関する覚書
第一条(目的)
本覚書は、世界の管理者たる【神】(以下、「甲」という)が、異世界転生者たる権藤資隆(以下、「乙」という)に対し、「対象世界」(別途資料参照)の救済業務を委託するにあたり、その諸条件を定めることを目的とする。
第二条(優遇措置) 甲は乙に対し、本業務を円滑に遂行せしめるため、下記の優遇措置を「選択肢」として提示する。なお、各措置の行使に際し、乙の魂の格に応じた「ポイント」が消費されるものとする。
そのあとにもびっしりと細かい文字であらゆる文言が記載されていた。
「まぁ、要するに、転生先で有利に生活できるように便利なスキルやアイテムを取得と、望んだ容姿にすることも可能ですよ〜、ということです。.....いかがされます?」
作り笑いのような笑顔を貼り付けた神は揉み手でもしながら顔色を窺っている。
「いらん」
「え?」
「だから、いらん」
「....え? いやいやいや! 流石にそれはマズイですよ!! みんな何某かは貰っているんですから!!」
前例だの手続きが〜だのと言ってのたまっているが、そんなものは俺は知らん。
「俺は権藤資隆!! この俺の根性と漢気がチートスキルじゃい!!」
「....え? はぁ?」
「それに、親から授かったこの男前の顔(つら)に、文句なぞあるわけ無かろうが!!」
最後の一枚の書類に手早くサインをすると、ただの紙ペラだった書類たちがまばゆい光を放ち宙に舞う。
俺の頭上を円を描くように舞う。
「....あぁ、これで異世界転生契約は締結されました。ほ、本当にもう何も変えれませんからね!? いいですね!?」
「おう!! 男に二言はねぇ!!」
「なんなんですか、その訳の分からない自信は…」
やがて、頭上を舞っていた書類が光の束になり俺の体を包む。
「はぁ....それでは、良い旅を....」
この短時間でげっそりとした顔の神がノートパソコンのエンターキーを押した。
宙に浮いた。
俺が。
いや、落ちた。
バラエティの落とし穴みたいに。
床が抜けた。
「ぬおおおおおおお!! なんじゃあこりゃああああああ!!」
こうして、俺の異世界転生が始まった。
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