第15話 魔王の息子、村人を意識する
チュチュン チュチュン チュチュン。
鳥の鳴き声で目を覚ます。
けれど俺は、昨日のことが頭から離れなかった。
ドレイクは一体、何を考えて「なんだよ、ただの言い間違いか」なんて言ったんだろう。
あの言い方……まるで何かを期待していたみたいだった。
そう思うと、どうしても気まずくて――
ドレイクがいるであろう一階に降りるのが、少し嫌になった。
それに、昨日の朝食は正直、野生の木の実よりまずかった。
今日もあれが出てきたらと思うと、胃が重くなる。
いくつもの不安を抱えながら階段を降りると、
台所には、いつも通りの笑顔のドレイクがいた。
昨日の不機嫌な様子なんて、まるで嘘みたいだ。
「昨日、パウロさんの手紙がポストに入ってた。
今日は、ライトルさんのレストランで働くことになった」
「そうだったのか。……だから朝食がないのか?」
「ああ。ライトルさんの店で軽いまかないを食べられるらしい」
よかった。
怒ってご飯を作ってくれなかったわけじゃないんだ。
少し安心して、外に出かける準備を始める。
帽子をかぶって、靴を履くと――
ドレイクが俺の足元を見て言った。
「そういえば、その靴ボロボロだな。そろそろ買い換えないか?
それに、その帽子もちゃんとしたやつを買ったほうがいいと思うんだが」
「いや、靴はともかく帽子は大丈夫だろ!」
「そうか?」
「そうだ! ……あのおじさんにも悪いしな!」
なぜだ。
なんでこんなことで、こんなに焦るんだ。
それに、今日はいつもよりも、
ドレイクの顔色を気にしている自分がいる。
嫌われてないか。
変に思われてないか。
そんなことを考えてる。
ドレイクが今回は、しっかり歩幅を合わせてくれていた。
今まで気にも留めていなかったが――
こうして並んで歩くと、手がたまにぶつかりそうになることに気づく。
……なんだこの距離感。
変に意識してしまうじゃないか。
どうにかしなければと思い、俺はある作戦を取った。
「ギール、何してるんだ?」
「いや、軽い運動だ。右肩に左手、左肩に右手をくっつけて、こう……準備体操をしてるだけだ。気にするな」
「いや、普通に気になるわ!」
完全に怪しい奴扱いされてしまった。
歩幅も、テンポも、もうバラバラだ。
「おい、ギール。ライトルさんのレストラン、こっちが近道だぞ」
「ドレイク!!そっちは朝の占いで“運勢・凶”の方角だったんだ! 遠回りしよう!」
「お前、朝に占いとかやるタイプだったのか?」
「魔族はみんなやる! よし、遠回りするぞ!」
「いや、別の方角から近い道を行けばいいだけじゃないか……」
――自分でも分からない。
一緒にいたいのか、避けたいのか。
けれど、確かなのは“今はこの気持ちの正体を知りたい”ってことだけだ。
そうしてたどり着いたのは、ライトルさんの店――『リニューラ』。
黒い木材で作られた、クラシックで落ち着いた雰囲気の店だ。
「さあドレイク!! さっさとライトルの牛乳を飲みに行くぞ!」
「なんで牛乳? お前、そんなに牛乳好きだったっけ?」
確かに。俺は牛乳を特別好んでいたわけじゃない。
だが、さっき気づいてしまった。
――ドレイクとの身長差が、六、七センチあることに。
なんでだろう。
それを意識した瞬間、無性に飲みたくなったんだ。
何なら意識していない時は、自分の方が10センチ位上だと思ってたのに。
そして俺は自分の言っていた言葉を思い出し、訂正することに。
「あっ、ちがう! ライトルの牛乳って、ライトルから出るって意味じゃないからな!!」
「わかっとるわ!! 今日のお前、なんかひどいぞ!!」
……やばい。
俺、ほんとにどうかしてる。
「ドレイク!!俺は別に、そういう変態チックなことを考えてたわけじゃない!!
ただ純粋に――言葉を正しく使いたかっただけなんだよ!!」
ドレイクは眉をひそめ、明らかに面倒くさそうな顔をする。
「わかった、わかった、わかってるから」
「いやその“わかった”は、絶対わかってない時の“わかった”だろ!!
俺はな、ドレイクのことについてはもう詳しく――」
「今日のお前、マジで何なんだ!?」
その瞬間――
キイィン
扉がゆっくり開き、軽く錆びた金属音が響く。
現れたのは、髪をぐしゃぐしゃにかきながら、半分寝ぼけた顔のライトルだった。
「お前ら遅いぞ。店の前で痴話喧嘩してねぇで、さっさと手伝え。」
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