第14話 魔王の息子、村人と紙芝居をする
俺たちはついに紙芝居をやることになった。
その前に、ステラが「前回のあらすじ」を語り始める。
なるほど。
これで子供たちが物語を思い出して、より没入できるというわけか。
……やるじゃないか、ステラ。
魔王城ではスポーツが主流だったから、こういう紙芝居の文化は新鮮だ。
「ではまず――運命相剋(そうこく)編!!について話していきたいと思います!!!!」
「ちょっと待て!?なんだその仰々しいタイトルは!」
「えっ!?あの勇者紙芝居シリーズで1、2を争う人気作ですよ!!知らないんですか!?」
子どもたちもすかさず参戦してくる。
「ダッサ。こういう“若者の文化”に乗り遅れる大人にはなりたくないね」
「仕方ないよ。明らかに田舎者っぽいし」
「やっぱ人間って二種類いるんだよね。時間が経つたびに、成長する人間と、退化する人間。」
「で、あの人は後者。」
おい、ちょっと待て。
なんでこの幼稚園の奴ら、全員ナチュラルに煽りが上手いんだ!?
これ絶対、パウロの教育のせいだろ!?
……俺は黙って、ステラのあらすじを聞くことにした。
「まずはギアスマキナのエンジンターブルを切ったあと、アドガイバスしたはずが、マインタリンであって、キキルパルスした後にパウナパグナで決着がついたと思ったら、全部勇者の夢での出来事で――魔王城に向かおうとしたところで終わりましたよね!!!」
……。
やばい。使ってる単語のすべてがわからない。
てか、最後の“夢オチ”で全部チャラになってないか?
しかし――子どもたちは全員、納得した顔でうなずいていた。
ドレイクを見ると、なぜか涙を流している。
「やっぱ、何度聞いてもあらすじだけで感動しちゃう。この展開。」
……俺は一体、これから何を読まされるんだ。
俺の困惑をよそに、ドレイクは勇者役を演じ始める
「ついにここが魔王城か。古びた雰囲気、コウモリたちが飛び回り、壁には多くの血痕が残っている……!」
――いや、それ違うだろ。俺はすかさずセリフで修正を入れた。
「魔王城は常に百人以上の召使いが掃除してるから、壁はいつだってピカピカだし、コウモリは普通に害獣だから定期的に追い払ってる。つまりこれは、勇者の妄想癖であることを示している。」
ドレイクが裏から俺の腕をつねってきた。
「ギール、一体何のつもりだ? 話が進まないだろ!」
「だって歴史と違うんだもん。」
「そこは耐えろよ……!」
しかし子どもたちは爆笑しながら盛り上がっていた。
「なるほど、新しい解釈ね!」
「これは伏線ってこと!?」
……なるほど。こいつら、考察系幼稚園児か。
物語は次の場面に移る。
勇者と、魔王軍幹部の会話シーン。
「お前が“槍のハリケー”か。なぜお前ほどの手練れが魔王軍につく?」
モブ担当のステラが爆音でセリフを放つ。
「魔王様への大義のためだ!」
また設定がズレてるので、俺はとっさにセリフをかぶせた。
「魔王様が好きなのもあるが、いちばんの理由は給料だな。幹部になれば責任は増えるが、働きに応じた給与がもらえる。休暇だって、一ヶ月前に申請すれば普通に取れるしな!」
次の瞬間、ドレイクが俺の足を思い切り踏みつけてくる。
「痛い痛い痛い痛い!!」
――ガチで痛い。けど、子どもたちは笑い転げていた。
「なるほどね、カリスマ性は利益で生まれるってことか」
「魔王だけが悪じゃない! 一部の人を幸せにしてるってことを暗に示してるのね!」
……いや、待て。
お前らどんな解釈力してんだよ
よく見たら――イーズも笑ってくれていた。
それだけで、胸の奥が少し温かくなる。
……よし、ここからが本番だ。
「勇者として、義務を果たす時が来た!! 覚悟しろ!」
ドレイクが堂々と叫ぶ。
イーズが見ている以上、俺はどうにかしてでも魔王が負ける展開を阻止しなくてはならない。
「お前が勇者か。一旦、話をしないか?」
「……なんだ?」
「このまま戦って、どっちも死ぬ展開って、正直イヤだろ? だったらさ、もう戦うのやめにしない?」
俺は心の底から思っていたことをセリフに乗せた。
子どもたちも一瞬静まり返り、息をのんでいる。
どうだドレイク、返しを見せてみろ。
ドレイクはまっすぐ俺を見つめて言った。
「いいだろう。しかし、平和になったとどう証明すればいい?」
……おい、紙芝居でそこまでリアリティ追求する必要ある!?
でも、ドレイクの目は本気だった。
さては、こいつ、入り込むとガチ演技するタイプだな?
咄嗟に出た言葉が――
「簡単なことだ。俺とドレイクが結婚すればいい。」
……は?
部屋の空気が一瞬で凍りついた。
やっちまった。
言い間違えた。勇者じゃなくてドレイクって言っちゃった!!
どうする。どうする俺。
頭の中が真っ白になる。
必死に言い訳を探すが、出てこない。
子どもたちは一拍おいて――
「3次元に突入した!!!」
「こんな紙芝居見たことない!!!」
「これは……愛による平和エンド!!」
会場大ウケ。
そして、俺の心臓は爆発寸前だった。
「えっと、だな。その……まずは結婚からじゃなくて――」
ドレイクもまともに俺の顔を見れず、セリフが詰まっている。
その瞬間――
ステラが俺とドレイクの手をガシッとつかみ、強引に合わせた。
「こうして勇者と魔王は幸せに暮らしましたとさ! 世界は平和になりました! めでたしめでし!!」
ぱちぱちぱちぱちぱち――。
子どもたちから大拍手。
「今回の話、面白かったね!」
「うん、めっちゃよかった!」
「わかる~~~!」
子どもたちは感想を言い合いながら盛り上がっている。
そしてイーズにも声がかかった。
「ねえ君、どう思った?」
一瞬、不安がよぎったが――
「最高に面白かった!」
その言葉に、胸の奥がじんわり温かくなる。
「じゃあさ、次も一緒に紙芝居見ようよ!」
イーズはうなずき、少しだけ笑った。
……もう大丈夫そうだな。
夕方まで子どもたちの世話をしたあと、俺とドレイクは帰ることにした。
「ありがとうございました!!! お二人とも!」
ステラが全力の声で見送ってくれる。
園児たちも手を振ってくれた。
「次も来てね! ギールお兄ちゃん!」
その声の中に、イーズの声が混じる。
「俺、夢できたんだ。ギール、絶対にギールと結婚するから!!」
「えっ、えっと、そのだな……」
俺が焦っていると、ドレイクが割り込んできた。
「ダメだぞ。魔王様はもう俺と結婚したから。子どもは諦めな。」
「はっ?」
一瞬で俺の髪の毛がピンクに染まった。
イーズは頬をふくらませてドレイクをにらみ、
「ふん!!いづれ、奪うから」
と叫んで走り去った。
俺とドレイクはしばらく黙って歩いた。
いつもなら、ドレイクが歩調を合わせてくれるのに――
今日はなぜか、彼は少し早足だった。
「……すまん、ドレイク。今回は迷惑かけて。」
「別にいいさ。あの子が元気になったのはお前のおかげだろ。やっぱ魔王様はちがうな。」
そう言って笑うドレイクの横顔に、どこか照れくささがにじむ。
「それにしても、結婚の件、言い間違ってすまん。ドレイクじゃなくて勇者って言うつもりだったんだ。いや、それでもおかしいけどな。」
「なんだよ、ただの言い間違いか。」
「えっ、ちょっと待って!! ドレイク!! 今のはどういう意味だ!?」
俺が聞き返した瞬間、ドレイクは小走りで先へ進んでいった。
――まあ、よかった。
今の髪の毛、見られたら困るからな。
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