勇者に父親を殺された魔王の息子、村人に拾われる

@1885

第1話 魔王の息子拾いました

俺の名前はドレイク・ルーラー。

周りの人から少し慕われていること以外は、ただの村人だ。

髪の毛だって、この国で1番多い茶髪で、顔つきも良くいる顔と言われる。


いつも通りの朝。

歩き慣れた道には、いい匂いを漂わせるパン屋。

花に水をやりながら声をかけてくれるおばあちゃん。


「ドレイク!昨日はありがとうね。土を運んでくれて」

「気にしなくていいよ、おばあちゃん!」


そんな風に、俺は困っている「人」がいたら、つい助けてしまう。


……だからこそ、今は困っていた。


俺の目の前に、小さい角がある白髪の青年が倒れていたのだ。

「みず……水を……誰かください……」


声はかすれ、うまく喋れないほど喉が渇いているらしい。

だが、あいにくこの場に水はない。

少し先に果物屋はあるが、水を売っているわけじゃない。


「……もしよければ、オレンジジュースでも構いません」


なぜかクレードアップしてきた。図々しいなぁ。

正直、助ける気がちょっと失せてきた。


「……もしよければ、水分を多く含んだフルーツでも構いません」


おいおい、さらに図々しいぞ。


一瞬、「見捨てて国に密告するか」と考えたが……

俺の中の天使の声が「助けてあげなさい」と囁いた。

俺の中に悪魔の声はいない、俺はそういう男だ。


結局、俺はそいつを助けることにした。


「うぼおおおおお……お、お……!」

俺は近くにあったじょうろで、この青年の口に水を流し込んだ。


「な、何すんだよ!? もうちょっと優しく俺の口に注げよ! しかもじょうろって……」

――さっきまで苦しんでたのに、急に元気だなこいつ。


「すまんすまん、近くにあったのがこれしかなかったんだよ。……後で、あの家のおばあちゃんに感謝しろよ」

そう説明すると、青年の白髪が赤と黄色に変化した。


「ふざけるなよ、人間! 俺は魔王の息子、ギール・アポリアだ。この俺の口に“水やり”なんて、本来なら不敬だぞ!」


……はい、今ので魔王の息子確定。こいつ、人間じゃない。

それにしても、髪の色……感情で変わるのか?

さっきまでの白は平常?、今の赤と黄色は怒り?じゃあ、他の色は……?

魔王一族にこんなのがいるなんて聞いたことも見たこともない。

……特別な存在、か。


だったら、下手に王国に密告するのは危険すぎるな。


「しょうがない。お前、行くあてがないなら俺のところに来い」


そう提案すると、ギールの髪が緑色に変わった。


「……しょうがないな。まぁ行くところないし、人間、ちょっと間だけお邪魔になろうか」


――ああ、なんか、とんでもなくめんどくさいやつを拾った気がする。


俺とギールは、俺の家へ向かっていた。

道すがら、ギールが腹を押さえながら叫ぶ。


「固形物食いたい!! オヤジが倒されてから、ろくなもん食ってないんだよ!」


「……一体、今まで何を食べてたんだ」


「何って。火とか出せないからな。大樹とか空気にある魔力を吸って生活してた」


――やっぱりこいつ、間違いなく魔族だな。

最初は別の種族かと思ったが、その可能性は低そうだ。


「しょうがない。俺の行きつけの料理屋を紹介してやるよ」


そう言って案内を始めると、ギールは落ち着きなく辺りをキョロキョロ見回した。

人間の文化をほとんど知らないらしい。通りすがりの人を目で追っては、まるで観察するように眺めている。


「……おいお前。よくよく見たら、小さいけど角があるの、バレバレじゃねえか」


「別に大丈夫だろ」


「お前、よくそんなんで今まで生きてこれたな」


「まあな。髪を短くしてから、なぜか魔族だとバレやすくなって……追いかけられて脱水症になったが」


「大丈夫じゃねえだろ!! そもそも倒れてた原因それかよ!」


どうにかしなくちゃならない。

そう思っていると、偶然、よく会う釣り好きのおっちゃんに出くわした。


「おうドレイク!また困ってんのか」

「悪い、スペアの帽子、余ってない?」


……そんな流れで、俺はギールに帽子をかぶせてやった。


これで、よく目立っていた角は隠せた。

……だがその時、帽子の隙間から見えたギールの髪が、一瞬だけ薄いピンク色に染まった気がした。

俺が瞬きをした次の瞬間には、もう元の白髪に戻っていたけれど。


「ドレイク!! さっさと店行くぞ!」


ギールは帽子を揺らしながら、楽しそうに駆け回る。


――とりあえず。

こいつのことは、もっと知っておく必要がある気がした。



そうだな、やっぱりあの人の店に行くか













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