第16話 女の意地、妻の覚悟~弱さを知り、強さを選ぶ時~
新府祝いの昼の宴は、ようやく幕を閉じた。
皇帝は
重臣や名士たちもそれに続き、ぞろぞろと退出していく。別れ際に口にするのは笑顔混じりの祝辞――だがその響きはどれも薄っぺらく、
――残ったのは、ほんの身内だけの宴。
本来なら、新居に移った際の家宴こそが一番の晴れ舞台のはず。けれど皇家では、外に向けた「見せ物」としての宴こそが主役であり、内輪の席は二の次とされてしまう。
帰り際、
「……まったく、しょうのないやつだ。」
苦笑をひとつこぼしたあとで、結局は彼をその場に残すことを許した。
だが家宴が始まってすぐ、
「
普段は口を出さぬ
「お父様……もし私が『自分でも分からない』と言ったら、怒りますか?」
「戯れ言を!」
「お父様……でも、
「お前は……
「お父様……どうして私がそんな本を読んでいたことをご存じなのですか?」
「……それは――」
「お父様は朝堂の争いや
拳を握りしめ、
「お父様は皇命に逆らえず、皇帝の友として命令を拒むこともできなかった。だから私がどれほど声名を汚そうと、気にも留めなかった……そういうことなのですか?」
「違う、
だから本気で考えたのだぞ。官を辞して遠くへ逃れることも、死罪を免れる
そう言って、
「だが……
お父様も彼を半ば息子のように見てきたから分かる。
だから私は彼と約束した。もしお前が
そのとき、
「――やっぱりね。男ってみんな、自分だけが正しいとでも思っているのね。」
鋭い眼差しで
「お父様に……それから
そして――扉の外で様子を窺っていた
「冷めたお茶なんて、私は口にしませんよ。」
「はは……では、すぐに淹れ直してまいります、夫人。」
そう言って扉を開けると、ちょうど
「
「
「――話し合いもなく一方的に守られるなんて、私たちには耐えられませんわ!」
「……そ、それは……」
「
「私はお父様とは違い、
仮に
扇子の音が、ぱた、ぱた、と響く。
「お母様……私はそこまで先のことを考えてはいません。ですが、お
何もしなくても、今日のように枯れ枝をすり替えて陥れようとする者は現れるでしょう。私と
――そして今日、私は気づきました。私が弱いからこそ、枯れ枝のような稚拙な計略でも通ってしまう。弱いからこそ、読む本や学ぶことにまで干渉される。もし私に力があれば……誰ひとり、そんな真似はできないはずです!」
「だから私は、自分のために気丈でありたい。そして
扉の外に立つ
彼は気づかれぬよう、わざと何でもないふりをして額に手を当て、天井を仰いだ。けれど、巡邏していた侍衛・三は見てしまった――頬を伝い落ちる涙を。
――退くか進むか。
彼は
「もちろん、私はただ全力でやってみたいだけです。でも……もし共に歩むことが叶わなくなった時には、その時はどうか、
そう言って扉を開け放ち、
「
彼は目を見開いた。
――これは退きなのか、それとも進みなのか。
関係は一歩進んだはずなのに、なぜか遠ざけられた気がして、寂しさが胸に滲んだ。
「もし本当に恋を望むのなら……少し距離を置いて、あなたを、そして自分の心を見極めたいのです!」
その言葉が響いた瞬間――夜空を震わせるように、轟音が鳴り渡った。
光の束が勢いよく天へ駆け上がり、黒い天幕を切り裂く。
やがて花びらのような火花が幾重にも重なって広がり、赤、蒼、金の光が夜を染め上げた。
瞬き、零れ、また散り、静かな闇に溶けていく煌めきは、まるでふたりの胸の奥に芽生えた決意と戸惑いを映すかのように。
涙に滲んだ
そのひとひらごとの輝きが、ふたりの心に甘く染み入っていった。
ーーーーーー
後書き:
言い忘れていましたが、昨日の第15話で描いた秋音の舞のイラストはこちらです〜
https://kakuyomu.jp/users/kuripumpkin/news/16818792440720683883
雀金は自分なりのイメージで描いてみましたが、やっぱり本物が残っていたらきっともっと美しかったんだろうなと思います。残念ながら実物は現存していませんね。
みなさん、明日も気持ちよく過ごせますように~
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