第9話 甘く熱い衝動は、実は二人分!
「よかろう。」
皇帝は軽く手を振り、大声で命じた。
「秦総管、禁軍の
禁軍――それは皇帝直属の精鋭部隊。その少尉・
母妃が亡くなって以来、彼と父との関係は氷のように冷え切っていた。自分が父を直視できないように、父もまた彼を直視できなかったのだ。
本当なら、まだ力を隠しておくつもりだった。すべてが落ち着き、
だが、
これからどれほどの嵐が待ち受けようとも、
「陛下、謹んで拝謁いたします。陛下、臣をお呼びとはいかなるご用でしょうか?」
「
皇帝は淡々とした口調で言い放つ。
「えっ……そ、それは……」
――いやいや、なんで父子げんかにまで俺を巻き込むんだ!?林家とあんたらに、そんな因縁ありましたっけ!?
「朕の命令が聞けぬのか、
皇帝は立ち上がり、怒気を込めて指を突きつける。
「……臣、承知いたしました。」
――これ、どうすりゃいいんだ……
……本気で殴り倒すべきか、それともわざと負けてやるべきか?
そのうち一本を
次の瞬間、両脚で剣を支えながら布を折りたたみ、それを目隠しのように結びつけ――視界を閉ざした。
皇帝はその様子に歯ぎしりし、玉座から怒声を放つ。
「見せびらかしおって……
次の刹那、彼の剣は雷鳴のごとく疾く、豪雨のごとく荒々しく振り下ろされる。天地を裂く勢いで放たれた剣圧は、空気すら震わせた。
対する
――だがその瞬間、彼はつま先で床を軽く蹴り、身を燕のように宙へと躍らせる。
鋭い刃が迫る寸前、紙一重でその軌道をかわしてみせた。
「……三殿下?」
――病弱キャラだと思ってたのに……これ、詐欺じゃないか!?
だが
対する
そして次の瞬間、二本の指が閃き――凄まじい剣圧の中で、その刃をがっちりと挟み止めた!
「……すご。」
その言葉を聞き取った
金と鉄がぶつかり合い、火花が飛び散る。甲高い金属音が長く響きわたった。
「……お前、私の人にならないか?」
――な、何だこの
次の瞬間、
だが
それでも
彼の身のこなしは、まるで全ての軌道を最初から知っていたかのようだった。
「……そんなに私の命令を聞きたくないのか?」
風のような反掌で剣を押さえ込み、その切っ先を
そして、
「……お前の腕、私の三皇子府で――妻を守るのにちょうどいいと思うんだ。」
剣を反手に握り、もう一方の手を拳にして合わせ、皇帝に向かって拱手礼をとる。
「陛下――臣は、負けを認めます!」
皇帝の瞳が一瞬だけ鋭く光り、冷ややかな面持ちにかすかな驚きが走った。
だがすぐに表情を崩し、口元に笑みを浮かべる。
「
「臣は手を抜いておりません。ただ、全力を尽くしたわけでもございません。しかし三皇子殿下もまた、目隠しをしたまま全力ではなく、終始余裕を見せておられました……正直に申し上げれば、もし殿下が目隠しを外して本気を出されたなら、私は到底勝てなかったでしょう。」
皇帝は手をひらひらと振り、ため息交じりに言う。
「……よい、よい。退がれ」
その頃、
――はずだった。
白紙の上に、突如としてコメントが流れ出したのだ。
『皇帝も本当に心が冷たいな、自分の息子に毒酒を下すなんて!』
『
『三皇子府なんて、いずれ与えるものだったはずなのに!』
『でも自分から父帝に楯突いたら、そりゃあ面倒になるわな。』
『どうせ
『
『死にはしないよ。せいぜい数日寝込むくらいさ。』
「……っ!」
これまで目にしてきたコメントは、すべて自分に関するものだけだった。
だが今流れているのは――まるで別の話。それも、とんでもない内容で。
ちょ、ちょっと待って……これって……今、起こってること?
まさか……皇帝が
信じられない。
「お腹が痛いので、少し下がらせてください!」
顔を青ざめさせながら立ち上がり、彼女はそのまま、一目散に学堂を飛び出した。
学堂の回廊を飛び出すなり、
「二?三?五?七? 誰かいるの!?」
……しかし、返事はない。
「一、二、三、四、五、六、七!本当に誰もいないの!?」
あまりの必死さに、近くの烏でさえ彼女を避けるように羽ばたき、頭上を素通りしていった。
「三!今すぐ、ここに出てきなさい!」
やれやれ、とでも言うように声が降ってきた。
「わかったわかった、そんなに呼ばなくても……危ない目に遭ってないんだから静かにしなよ。殿下からは『護衛』を命じられてるけど、『おしゃべり相手』になれとは言われてないんだぞ!」
不満げにぶつぶつ言いながら、侍衛・三はどこからともなく姿を現し、近くの樹の枝に軽やかに腰を下ろした。
「三、殿下は今日、学堂に行ったの?それとも父上のところへ?」
侍衛・三は落ち着きなく視線を泳がせ、口ごもりながら答える。
「……学堂には、行ってないよ。とにかく。」
――今の時間、皇帝は御書房にいるはず。けれど、あんな場所に私が入っていいの?
心臓がばくばく鳴る。怖い、でも……もう考えている余裕はなかった。
内宮を抜け、正殿へ。わかっている、こんな行動は間違っているって。
着ている衣もあまりに目立ちすぎる。
けれど三皇子妃であり、兵部尚書の娘である自分を、軽々しく止められる宦官や宮女はいない。
「三!早く出てきなさい!」
侍衛・三は結局、ずっと彼女の後をついていた。もしもの時に何かあれば殿下に申し開きができないからだ。
だが姿を現した途端、
……無茶でも、怖くても。やっぱり私は、彼を置いてはいけない。
だって――今の彼は、名目だけでも、私の夫だから。
唇を噛みしめ、駆け出す胸の内に渦巻くのは、恐怖ではなく……それを上回る、甘く熱い衝動だった。
けれど
その甘く熱い衝動は――二人分の想いが重なり合ったものだということに。
ーーーーーーーー
後書き:
本当は一話でまとめたかったのですが、気づけば七千字を超えてしまったので、可読性を考えて二話に分けました。
そして、
https://kakuyomu.jp/users/kuripumpkin/news/16818792440265367226
今回の景澄はまだ衣装の細部が決まっていないので、髪型や表情で個性を出してみました。描きやすかったけれど、とても気に入っています。みなさんにも気に入ってもらえたら嬉しいです~
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