第6話
お義父さんの葬儀から幾月か過ぎた。冬も終わり春がやってくる時期になってくる。
真希が家出したあの日以降、どういうわけか毎日学校には兄妹で通うようになった。それ以前も彼女を引きずるように通学していたことはあるが、それはもう運搬ってカタチに近かったので今のそれとは全く違う。しかも、それまでの7年はなんだったんだと思うほどに真希と俺との仲は良くなっている気がする。まったく何がなんだか理解が追いつかないが悪いことじゃないので俺としては無条件で受け入れているかたちだ。
お義父さんが亡くなったことは、家族全員ともかなり気の落ち込む出来事だったのは違いないが、遼太郎さんの願いはいつまでメソメソとしていることではないということで3人共意見は一致していた。
「真希は独りじゃないからな」
「わかってる。ありがとう」
「それさえわかってくれているなら俺も母さんも安心だよ」
「お義母さんには申し訳ないことしちゃったとは思っているよ。これからは、今までを取り戻すわけじゃないけど親孝行するつもり」
「その調子で俺にも接してくれると有り難いけどな」
「うーん。今更雅史を義兄として扱えって言われてもピンとこないんだよね」
「扱わなくていいから敬えよ」
「それこそ無理だって」
俺たちもこんな軽口を叩けるほどには溝が埋まっていた。さすがにこれから一般的な義兄妹をやれと言われても俺とてなかなか難しいものがあるので、気のおけない友だちぐらいの間柄でも構わないかなとは考えていた。
真希の暗く無感情に見えていた顔も今では表情豊かになり、よく笑うようになっている。お陰で家の中も明るくなった気がしてすごく過ごしやすくなった気がする。
家庭だけでなく学校でもこんな感じだから、ずっと友だちのいない陰キャさんだったのが今では何人も友人ができているようになっている。本当に一安心できたと俺もホッとしていた。
「もうちょっとで学年末テストだけど雅史は勉強とか成績とかはどうなのよ?」
「ん? ぼちぼちだ」
「……なにその怪しい言い方は。どうせ下から数えたほうが早い程度の成績しか取れていないんでしょ?」
「おっ、バカにすんのか? そういうお前だって勉強なんてしているとこは見たことないんですけどー。どーなんでしょうねー!?」
この冬は暮れも正月も俺たちには全く無関係のまま過ぎていってしまったけど、学校のテストだけは幸不幸にかかわらず平等にやってくるようだった。
「悪いですけど、わたしは誰とも関わってこなかったぶん、勉強くらいしかしていなかったの」
「ふーん。それにしちゃ俺と同じ高校に進学してるじゃん。レベルは大して変わんないんじゃないのか?」
「中学の頃は勉強もしてなかったから! 高校では違うの。いっぱい勉強していい大学に入っていい仕事についてパパを安心させたかったのよ」
「……そっか。茶化してごめん」
「もうっ! いちいち悄気なくていいんだからね。どっちかといえばその役割はわたしの方なんだから」
「……」
お義父さん絡みのことで気落ちするのは真希の言う通り彼女よりも俺のほうが多いかもしれないのは否定できない。俺だって初めて父親だと思える人だったからな。
「話を戻すよ。わたしは順位でいえば20番くらいよ。雅史はどうなのよ?」
「まじかよ、20番って。俺、3桁なんだけど……」
たった1年弱で大きく差をつけられてしまっていたことにやや、いや、かなりの衝撃を受ける。兄妹云々は考えないなんて言っておきながらお兄ちゃんとしての威厳的なナニカの崩れ去る音が頭に響く。
「雅史、勉強……教えてあげようか?」
「むぐ……お願いします」
悩んだのは一瞬。母さんに楽させてあげたいって気持ちが俺にもあるので、いい就職ができるように成績は上げておいて損なんか一つもないんだよな。兄としてのプライドなんて1円にもならないし。
「じゃ、わたしの部屋でいい?」
「え? 真希の部屋でいいのか?」
お互いの私室は不可侵と暗黙の了解的に決まっているものと思っていた。例外は、真希が半ひきこもり状態になっていたときに朝起こしに行ったときぐらい。あの時は真希も文句言うほど元気なかったからノーカンだと俺は勝手に思っている。
因みに俺は、真希に私室へ入ってこられるのはなんとなく嫌な気がする。ゴミ箱の中のティッシュの塊とか見られたら気まずくなる自信があるし、たとえ片付けた後だとしても匂いとか気にしてしまう。
「わたしの部屋が嫌なら、雅史の部屋でもいいんだけど?」
「いや、真希の部屋でいい。つっかリビングでもよくないか?」
「リビングはお仕事してくるお義母さんの寛ぐ場所だから占領したくないのよね。わかるでしょ」
「おけ。じゃ、真希の部屋でよろしくお願いします」
母さんのことを気遣ってくれることに彼女の変化をまた感じる。
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