第18話 眠れぬ夜

 ミラとのプレイが終わると、簡単な応急処置をしてもらい、またあの狭い部屋に戻った。


 ミラとのプレイはいつも僕の心を傷つけるが、彼女に捨てられるかもと考えると、不思議な恐怖が心を支配していた。


 暫くすると、またイワンに呼ばれた。


 こんな仕事だが、それなりに贔屓にしてくれる客がおり定期的にやってきては、僕を弄んでは歪んだ欲求を発散させていくのだった。


 その中には女性ではなく、男を犯すことで喜びを感じる男の客もいる。


 僕の客は皆、声を出せない僕が好みで他の人間では満足出来ないようだ。


 かなり時間が経ったようで、イワンが今日は終わりだと告げると、夕食をまたあの四角い枠から突っ込んで去って行った。


 僕は味気のない食事を取った。食欲なんか遠の昔になくしているが僕はどんなに傷ついても生きなければならない、そんな気がするがハッキリした何かがあるわけでは無い。


 今の僕は孤独という名の化け物に取り憑かれているのは確かなようだ。


 その孤独が強ければ強いほど、足元に何か暖かい何かを感じるがそれが何か分からなかった。


 でもソレは僕が大切な物のように感じるのは気のせいではないようだ。それだけはハッキリしている。


 この孤独に比べれば客の暴力さえ甘んじて受け入れられる。


 だから僕は夜は嫌いだ。そこに身を置くだけで孤独に押しつぶされそうになるから。人は一人では生きられないと言う人がいるが、僕はここでの生活しか知らないのだから、その答えを持ってはいない。


 僕の記憶はこの部屋とプレイルームしかなかった。なぜここにいるかも分からない。イワンは何か知っているかもしれないが、彼は答えてはくれないだろう。


 人は星空にロマンチックを感じると言うが僕にはまったく理解出来ない感情だった。


 小さな窓からは星なんかは見えず、かすかな月明かりが見える程度であった。

 声を持たない僕は願うという事も無かった。


 こんな事を考えるという事自体が僕らしくないなと思った。いや、思うこと自体が無意味なんだろう。


 こんな落ち着かない時は無理にでも眠りにつくしかない。ただでさえ不眠で悩んでいた僕は眠れないのは地獄であった。



 どれ程時間が経っただろう。部屋に入ってくる月の光は先ほどとあまり変わっていなかった。

 

 僕は思い切っリドアを叩いた。


 その音に隣の部屋のメリサが怒りの声を上げた。その声は奥の部屋にいるイワンにも聞こえたようで、イワンは不機嫌な様子で僕の部屋の前にやって来た。


「またお前か、アレク」


 イワンは手に持った、砂をギッシリ詰め込んだ棒でドアを叩いた。


「いつもいつも俺の楽しい時間を邪魔しゃがって」


 どうやらイワンは酒に酔っているようだ。彼は酔うといつもより暴力的になる。それでも商品に手は出さないがドアが歪むほどの打撃が加えられている。


「うぅ〜、うぅ〜」


 僕は声なき声で訴えた。


「分かったよ。腕を出せ」


 僕は下の小窓に無理矢理腕を突っ込んだ。


 イワンは手にした注射器で腕に注射器の針を刺した。その中には馬用の麻酔薬が入れられている。人間には危険な物を気にするような素振りもなく注射する所にイワンの人間性の歪みを感じられた。


 麻酔薬の力は凄まじく、程なく僕は意識を失った。

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