32 【完結】地脈の浄化と消えた姉の行方


「ん……んんん……」


「あ、剣奈ちゃん」

「えっ」


 玉藻の声がした。剣奈は瞳を開いた。暗闇に狐火が淡く金色に輝いていた。日原ダンジョンだった。


「ボク……、帰ってきたの?」

『そのようじゃの』


 剣奈にしっかりと握りしめられていた来国光が言った。


「話はあとじゃ。まずは約定を果たそうかのお」白蛇が言った。

「約定?」

「うむ。地龍と約束したのじゃよ。玲奈の手掛かりを示せとな」

 

「えっ!」

「そして地龍は約定をはたした。妾らも自らの責務をはたさんとな」

「せ、責務?約定?」

 

「なに、簡単なことじゃよ。剣奈よ巫女舞を舞え。この地を、日原ダンジョンを清めよ」

 

「うん!」


 剣奈は立ち上がった。来国光を拭って鞘にしまった。そして三途の川に向かった。


 三途の川で剣奈は上半身の着衣を脱いだ。そして水をすくった。

 すくった水で両腕を清めた。さらに水をすくって両肩に水をかけた。頭にも水をいただきかけた。

 

 それから来国光を鞘から抜いた。来国光の刀身にも水をすくってかけた。

 清めが終わると剣奈はリュックからタオルを取り出した。来国光を拭いて、鞘に納めた。

 それから自らも拭き、新しい白のファーストブラを頭からかぶった。そして新しい着衣を身に着けた。


 剣奈は歩き始めた。細い道を登っていった。なぜそこに向かっているのか、わからなかった。

 しかし剣奈にはわかっていた。本能がささやいていた。そこで……、巫女舞を舞うべきだと。


 剣奈は細い道を登った。すこし開けた場所にたどり着いた。「竜王の間」である。「白衣観音」と「白衣観音」が見えた。


 剣奈は「龍王の間」、「金剛杖」、「女神の間」、「白衣観音」に向けて深く頭を垂れ、お辞儀をしていった。

 剣奈はさらに北東南西の順に頭を深く下げた。四方拝である。

 最後に「龍王の間」で剣奈は跪いた。頭を地面につけて深くお辞儀をした。


 剣奈は立ち上がった。息を静かに吐きだし、そして静かに息を大きく吸い込んだ。


 剣奈は両手を天にかざし、しばらく呼吸を止めて黙とうした。


 剣奈は瞳を開けた。そして舞い始めた。天に捧げられし腕。それが回りながら徐々に下された。


 旋舞である。


 彼女は緩やかに回りながら徐々に腕を下ろしていった。

 

 白蛇は見た。その場の空気が鮮烈に清められていくのを。


 剣奈は跪いた。そして地面から突き出た石筍を掴んだ。剣奈は瞳を閉じた。そして祈った。


 この地の産土の大神たち。一石山大神の主神の一柱。地をあまねく照らす神。また天岩戸に隠れた神として、洞窟の神としても崇められる天照大神あまてらすおおみかみこと、大日霊命おおひるめのみこと

 そして、火の神を斬り給い、その威威しき力により邪を禊ぎ祓いし剣神稜威尾走命いつのおばしりのみこと

 古より大地と水辺を清め、刀剣の威をもって魔を断ち、また一石山にて御霊を鎮め給う尊き神である。

 

 そしてまた洞窟の神として崇められる伊弉冉命こと、黄泉津大神よもつおおかみ

 鍾乳洞・洞窟の入口などで祀られ、洞窟信仰と関係が深い神、天孫降臨で道案内をする「導きの神」でもある猿田彦命さるたひこのみこと

 

 玲奈とつながりの深い女性守護の神であり、また水の神でもある市杵嶋姫命いちきしまひめのみこと

 牛女の玲奈とつながりの深い牛の神である素戔嗚尊すさのおのみこと

 

 癒しをもたらし、葦船で流された蛭子と同一視される少彦名命スクナヒコナノミコト

 同じく流された淡島(淡嶋)。尊称を加えて淡島命あわしまのみこと


 山の神である大山祇命おおやまずみのみこと。そして祓戸の神様がた。

 

 以上の神々にことわけて深く祈りと感謝をささげた。


 剣奈は瞳を開いた。そして祝詞を奏上し始めた。


けまくも綾にかしこき天土に

神鎮かむしずま

いともも尊き 大神達 

ことわけて 

大日霊命おおひるめのみこと

稜威尾走命いつのおばしりのみこと

黄泉津大神よもつおおかみ

猿田彦命さるたひこのみこと

市杵嶋姫命いちきしまひめのみこと

素戔嗚尊すさのおのみこと

少彦名命スクナヒコナノミコト

淡島命あわしまのみこと

大山祇命おおやまずみのみこと

瀬織津比売命せおりつひめのみこと

速開都比売命はやあきつひめのみこと

気吹戸主命いぶきどぬしのみこと

速佐須良比売命はやさすらひめのみこと

大前おほまえ

慎み敬い かしこみかしこみまをさく

今し大前に参集侍まいうごなはれるものどもは

高き尊き御恵みめぐみをかがふりまつりて

かたじけなまつたふとみ奉るを以って

今日けふを良き日と択定えらびさだめて、

禍事まがごとかぎり

祓清はらひきよめめむと、

根の国、地脈に持ち込まれたる

諸々の禍事・罪・穢・邪の気、有らんおば、

持ち去りて

祓ひ給ひ 清め給えと白すことを、

聞こしめせと

恐み恐み白す


 剣奈が白黄の輝きに包まれた。地面からも白黄の輝きが放出された。


 剣奈は石筍から手を離した。そして上半身を伏せて、深々とお辞儀をした。


 剣奈は立ち上がった。そして歩き始めた。急な斜面をトントントンと軽やかに降りた。そして出口に向かって歩き始めた。


(この聖なるダンジョンに流れ着いた邪気。邪気に囚われた数々の想い。ボクはちゃんと邪気を滅して……、尊い想いを、そして地龍を、ダンジョン全体を浄化できただろうか。そうあってほしい……)


 剣奈は瞳を閉じた。地脈を通り、「篠の道」を通ってみた風景。その潮騒の風景が瞳に焼き付いていた。


 剣奈は柔らかく微笑んだ。風が吹いた。風は柔らかく剣奈を暖かく包んだ……


 シュル


 足元に細長いナニカが巻き付いた気がした。


「कुम्भीर(クンビーラ)め。なつきおったか。妾が先じゃ。妾が姉じゃからな」白蛇が謎に呟いた。

  

『で、どのような場所だったのだ』来国光が尋ねた。

「うん。あのね……」


 剣奈は静かに語り始めた。ダンジョンの入り口にたどり着いた。太陽が眩しく輝いた。川のせせらぎが涼やかだった。


 剣奈たちは日原ダンジョンをでた。暗闇に包まれたダンジョンから、明るい、太陽に包まれた外の世界へ足を踏み出した。


 その顔はどこか晴れ晴れとしていた。

 


 Fin


『春休み、ボク、ダンジョンに行きたい ~いじめられっ子巫女がんばる!(だって戦闘巫女♀←♂)』

 


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