14 剣奈の手書きメモ 千剣破のダメ出し大作戦 剣奈、至高の冒険プランを得る


――翌日、午前十一時二十分ごろ 鍾乳洞バス停前


 巫っ子『我ら「St.スノーS」!主命を受け、部隊全員これより遠征に向かう。いざ、出陣っ!第二次探索開始!』

 『『『おう!』』』


「あの娘、時々押し黙って……思い詰めたような真面目な顔してる……」


 尾行の内調中川女史である。パトカーから降りた中川は遠くから剣奈を見た。剣奈は神妙な顔をして前を見ていた。

 視線の先には何も見るべきものはなかった。中川には剣奈が思い詰めて放心しているように見えた。つぶやきつつ痛ましげに顔を曇らせた。

 

「そうですね。イジメが心にフラッシュバックを……」


 中川のバディ、警視庁公安の風見が眉をひそめた。二人は顔を見合わせた。イジメを思い出して打ちひしがれている小学校三年生女児に同情していた。


 ――いや、違うから。トリニティネットでわちゃわちゃしてるだけだから。剣奈の勇者パーティー「St.スノーS」内で楽しんでるだけだから。

 内調さん、さすがに念話までは傍聴できないか……


 さて、痴漢を避けるために吉祥寺駅を朝九時ごろ出発した剣奈たちである。二度目なので剣奈たちも慣れたものである。吉祥寺九時発の電車に乗り、鍾乳洞バス停には十一時十六分に到着していた。第一次探索よりも一本前のバスである。


 ――千剣破は剣奈たちにかたくなにラッシュ時の乗車を許可しない。東京である。女性用専用車両があるのである(いや、これは千剣破さんの勘違い。青梅方面には女性用専用車両はない)。

 なぜか。千剣破は自身が薄い本をたしなむ趣味人である。女性であっても「ショタコン」、「ロリコン」、「百合」などのサブカル的好みを持つ女性は少なからずいる。超絶美少女TS男の娘(いや女子だが)などとバレようものなら……

 千剣破は男性の痴漢から娘を守るだけでなく、たとえ現実のリスクが低くとも女性の毒牙をも恐れたのである。いや、そのトラブルで玉藻が暴走して大事件に発展することを……


 ――時間は少しさかのぼる 藤倉・山木との作戦会議の翌朝


「うふふ。今日は行先たくさん!」


 剣奈は朝食をとりながら足をバタバタさせてウキウキしていた。


「そうなの?楽しそうね。どこに行くのかしら?」

「うん!昨日タダちゃからたくさん教えてもらったの!ここ!」


 剣奈は自分で書いた手書きのメモを千剣破に見せた。メモには以下のように走り書きがなされていた。


 「神明水」、「万寿の水」、「立岩権現」、「梵天岩」、「籠岩」!


「剣奈?ちょっといいかしら?」

 

 このメモを見た千剣破ちはやは剣奈を引きとめた。千剣破はその日は「作戦時間詳細検討」のための時間にすべきと優しく、しかし断固として主張したのである。

 とうぜん剣奈は渋った。大いに渋った。楽しみにしていたのである。行く気満々だったのである。当然剣奈は反論した。


「お母さん!「作戦時間詳細検討」なんて必要ないよ!「神明水」、「万寿の水」、「一石山神社」、「立岩権現」、「梵天岩」、「籠岩」この順番で回ればいいだけだよ。いざとなったら剣気をお腹に溜めればいいだけだし」


 ゴン


 千剣破の拳骨が剣奈の頭頂にヒットした。いい音がした。


「いったぁ……」剣奈が涙目になった。

 「剣奈。いろいろ言いたいことがあるわ。でも二つだけにするわね」

「なに?」剣奈がうるうるした目で千剣破を見上げた。

 

「一つ。剣気を人前で使うのは緊急時以外やめなさい」

「え?どうして?」

「「剣気酔い」。あれ絶対に人に見られないようにしなさい」

「ええええ。ボクも剣気酔いしない様に努力してるんだけど……」

「その努力!絶対に!」


 千剣破がものすごい目でにらんだ。


「ちぇ。はーい」


 この状態の千剣破に何を言ってもダメなのである。それがわかっている剣奈は承諾の返事を返した……。不承不承しぶしぶ……


「二つ目。冒険の基本は地図を見ることじゃなかったかしら?地図を見て自分がどの位置にいるか把握する。いきなりボスに遭遇して全滅しないようにする。宝物の獲りはぐれを失くす。水や食料の確保場所を確認する。経験値をしっかりためる。帰路と進路をきちんと把握する。目的までの消耗を避ける……」


 千剣破は「千剣破の冒険指南書」の内容を復唱していった。剣奈は神妙にうなずいた。


「う……うん……。た、確かに……。ボク……、ボク……「St.スノーS」リーダーとして自覚が足りなかったよ……」

 

「わかったのならよろしい。なら今日はきちんと地図と時刻表をみて冒険の行動計画を立てなさい。そしてその「冒険企画書」をきちんとお母さんに見せること」

「は、はい!」

「移動は平地は一キロ二十分、山道なら一キロ三十分で見積もりなさい」

「はい!」


 こうして第一次ダンジョン探索の翌日は「冒険プラン」作成のための作戦会議日になったのである。

 剣奈たちは午前中から昼食をはさんでおやつの時間まで話し合った。千剣破の言うことを聞いて一生懸命、勇者パーティーリーダーとしての責任を果たすべく「冒険プラン」作成にいそしんだのである。


 プランが完成した時、剣奈と白蛇が頭から湯気を出してベッドに倒れこんだ。玉藻はそんな二人に毛布を掛けた。


「じゃあ私はお散歩にでも行こうかしら」

 

 玉藻は吉祥寺ぶら歩きに出かけた。


「「冒険プラン」は出来たかしら?お風呂に入ったらお母さんと「作戦会議」を開きましょう」

「はーい」


 お風呂に入った後、千剣破は剣奈と作戦会議を開いた。剣奈にとっては自信をもって作り上げた「冒険プラン」である。

 剣奈にとって作戦会議の時間は、ドヤ顔で母に披露する時間である。千剣破にとっては……「剣奈プラン」の徹底的なチェックと手直しの時間だったりする……

 

 剣奈操縦術にたけた千剣破である。手放しでほめる風でいながら手直しは容赦なかった。

 原形を保たないほどに徹底的に書き換えられた「剣奈プラン」である。しかし剣奈は誇らしげであった。なぜか。


 それは……、千剣破は「剣奈の冒険プラン」がいかに素晴らしかったか、とうとうと述べたのである。ドヤ顔の剣奈であった。

 千剣破は「剣奈プラン」をさらに素晴らしいものに……「至高の冒険プラン」にするお手伝いをしたいと申し出た。

 

 お手伝い……それは……原形をまったく保たないほどの徹底的な書き直しであった。

 しかし剣奈は気づかなかった。なぜか。その改変が少しずつなされたからである。

 わずかな、ほんのわずかな訂正。それが積み重ねられた。結果、もとの企画書の片りんすら残っていないことに剣奈は全く気づかなかったのである……。

 

 千剣破恐るべし。


 ――――――

 

【「St.スノーS」日原ダンジョン周辺地探索至高プラン(作成:剣奈)】 


◆往路情報:吉祥寺九時発の電車に必ず乗車。日原鍾乳洞前到着十一時三十分。


・第一目的地「万寿の水」「神明水」「一石山神社」

 「神明水」:バス停から歩いて道の左側(谷川)。「神明水」との木製看板あり。階段を下りて到着。

 「万寿の水」:「神明水」から道に戻る。数十メートル先、道路左手に「一石山神社鳥居」あり。鳥居脇の石碑がある水場。

 「一石山神社」:鳥居から階段を登る。主神:天照大神、稜威尾走命いずのおばしりのみこと。」


 第一目的地終了時刻十二時半から午後一時。


・第二目的地「オガム所」午後一時十五分~一時半到着めど。

 「一石山神社」から徒歩五分。川の向こう岸の巨岩。見るのみ。決して行こうとしない。ここらか、北西の天祖山(立岩権現)、北東の籠岩、南西の稲村岩を拝んだとされる場所。


・第三目的地「梵天岩」「籠岩」の展望ポイント。到着午後二時半。

 「オガム所」を見た場所から鍾乳洞方面に進む。小川谷林道の標識まで行く。山道を歩く。「二岩峰めぐり」コース。午後二時半まで歩きながら岩の見える開けた場所を探す。見つからなくても午後二時半には帰路につく。


◆重要:帰路計画

 帰路バス:西東京バス 奥二十系統。鍾乳洞バス停発一六時十一分発。絶対厳守。乗れなければ母に連絡。

 バスは奥多摩駅着が十六時三八分着。JR青梅線が奥多摩駅:一六時四八分発、青梅駅十七時二十一分着。青梅駅十七時二十一分発の中央特快東京行きに乗る。立川駅に十七時四十五分に到着。立川駅で十七時五十分発の東京行きに乗る。吉祥寺駅に十八時十三分に到着。


 緊急事態、不測の事態には必ず母に連絡すること。






 ――――


*「St.スノーS」:剣奈たちが話し合って決めた自分たちのパーティー名。正式名称「サンライト・セイント・スノーソード(Sunlight St. Snow Sword)」いろんな略称があるが今は「St.スノーS」が気に入っているようだ。『剣に見込まれヒーロー(♀)に:七章』「132 聖なる白雪(Sunlight St. Snow Sword)誕生 勇者パーティー」に。


*「剣気酔い」:剣奈が剣気を身体に取り入れるときの副作用(と剣奈が思っている現象)。詳しくはかけないが、剣気酔い状態の時の剣奈を他人に見られることは絶対したくない千剣破である。剣気酔いについては『剣に見込まれヒーロー(♀)に:七章』「128 巨蛸と海女 怪異撃破! 死線越ゆも 快楽に沈む」あたりに。剣気酔いをさせるメカニズムへの嫌悪は『剣に見込まれヒーロー(♀)に:五章』「91 超絶刀技、そして子宮への激しい愛撫」あたりに。


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