6 いざダンジョンへ参る! 痴漢ホイホイ回避大作戦
翌朝剣奈はリュックを背負って家を出た。来国光は千剣破と相談した結果、「隠れ場」で待機してもらうことにした。銃刀法違反のトラブルが起きないようにするためである。
さんざん千剣破の頭を悩ませた銃刀法問題だが、とある大事件をきっかけとして法律上の問題は解決していた。
とはいえ一警察官が小学生の短刀所持を見つければそのまま見逃すはずがない。いや、見逃すようであればそれは日本の治安上大問題である。余計なトラブルに発展しないように千剣破は剣奈が来国光を所持しないように釘を刺したのである。李下に冠を正さずである。
白蛇はしぶしぶリュックの中に入った。最後まで剣奈の胸が良いと駄々をこねた。
剣奈の胸に入り込めば外から見て丸わかりである。我らが白蛇は毒牙を持っているのである。「毒蛇」を胸に入れているのが見つかれば「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」「特定動物規制」の明確な違反である。極めて危険な行為とみなされ、刑事罰(懲役・罰金)や傷害・損害賠償などの大問題に発展しかねない。
白蛇は千剣破にこんこんと説教された。そして白蛇は不貞腐れながら剣奈のリュックに滑り込んだのだった。
金狐は人の姿(玉藻)に変化し、爽やかな青のワンピースに着替えた。小学校三年生の剣奈が独り歩きするよりも二十代(に見える)玉藻という保護者がついている方がよいとの判断である。
千剣破が引率できればよかったのだが平日である。休日まで待てないのかと千剣破は剣奈に提案した。しかし。
「ボク、すぐにダンジョンに行きたい。人生は短いんだよ。人生短し恋せよ乙女だよ(明らかな誤用)。光陰矢の如しなんだよお母さん」
と剣奈は駄々をこねた。玉藻に引率してもらえばいいかもしれない。いじめで心を痛める剣奈の希望をかなえてあげたい。そう思った千剣破であった。
そこで玉藻に保護者役を頼んだのである。年の離れた仲の良い姉妹、あるいは親戚のお姉さんに見えるであろう。
――「人生は短い」は剣奈の明らかな誤認である。剣奈は神に身体を作り変えられているのである(♂→♀)。来国光などは剣奈と悠久の時を生きられれば良いと目論んでいるくらいなのである。
「じゃあお母さんは仕事に行ってくるわね。気を付けて出かけるのよ?」
「うん!ダンジョン冒険してくるよ!」
「鍾乳洞を壊したらダメだからね」
「わかってる。山木先生とも約束したから大丈夫」
「今日は異世界に行ったらだめよ?」
「うん。しばらくは現実世界でダンジョン構造をマッピングするよ」
「人前で服を脱いだらダメよ?」
「しないってば」
「お母さんの冒険指針をきちんと守るのよ?」
「はーい」
「じゃあお母さんはいってくるわね」
「うん。お仕事頑張って」
「はーい」
千剣破はマンションを出ていった。剣奈は冒険荷物の最終確認を行った。千剣破の冒険指針を思い出して水や飴などもチェックした。
いざ出発の時間になったとき、トリニティネットで今回の冒険パーティメンバーに勇ましく「出陣」を呼びかけた。
巫っ子『よし、みんな準備はいい?』
古刀『よいぞ』
白蛇『狭くて暗いのぉ』
金狐『よろしくてよ?』
巫っ子『主命を受け、部隊全員これよりダンジョン遠征に向かう。では参る!いざ、出陣!』
――剣奈、千剣破の好きな刀剣付喪神ゲームをまねてノリノリである。
さて、玉藻を連れた剣奈(外見上は玉藻に手を引かれて、保護者に連れられているように見える)は元気よく吉祥寺駅を目指した。
剣奈と玉藻は改札を通り、昇りエスカレーターで三番ホーム(下り高尾・青梅方面)を目指した。
平日の朝九時頃である。ラッシュは終わりかけていたがホームは様々な人々でごった返していた。スーツ姿の会社員、大学生らしき若者、リュックを背負った親子連れ、買い物袋を提げた女性。
剣奈と玉藻はホームの中ほど、乗車位置マークの列に並んだ。
ホームには春の柔らかな朝の太陽の日差しが差し込んでいた。やがて陽光とともにオレンジ色の電車がホームに滑り込んできた。剣奈はリュックの肩ひもを握りしめた。そして緊張した表情で列車に乗り込んだ。
朝九時過ぎ。青梅行きの車内は比較的すいていた。この時間を選んだのは痴漢を避けるためである。
超絶美女の玉藻と超絶美少女の剣奈の二人連れなのである。明らかに目立つ。ラッシュ時に電車に乗れば即、痴漢ホイホイと化してしまうだろう。
――昨晩
「日原ダンジョンには朝九時から入場できるんだよ。早めに行きたいよ」剣奈が言った。
「ダメよ。九時ごろまで待ちなさい」千剣破がたしなめた。
「なんで!?」
「剣奈、あなたにはまだ女の子としての自覚が足りないわ」
「だってボク、男の子なんだもん」
「よく聞きなさい。美人の玉藻さんと隙だらけのあなたがラッシュ時の電車に乗ってごらんなさい。あっという間に痴漢に取り囲まれちゃうから」
「ん?金狐ならそんな奴らの腕を掴んで砕くくらい訳ないじゃろ」白蛇が言った。
「それが怖いのよ!」千剣破が言った。
数か月前まで千年にわたって殺生珠に封印されてきた玉藻である。封印が解けてから数か月を現代社会で過ごしたとはいえ、まだまだ何をしでかすか心配な千剣破である。
なにしろ玉藻がその気になれば車内の人全員を抹殺することすらできてしまうのである。とんでもないリスクは避けたかった。
「ダメなものはダメです。それとも土曜日まで待つ?なら私が連れて行ってあげるけど?」
「ちえっ。すぐ子ども扱いするんだから……。わかったよ。朝九時前まで待つよ」
「よろしい」
――――
という感じで強制的に出発時間を九時まで「待て」にされたのである。
吉祥寺から中央線快速に乗った剣奈たちは立川で青梅特快に乗り換えた。およそ三十分、剣奈たちは青梅駅にたどり着いた。ザワザワした喧騒の吉祥寺や立川と違い、朝の青梅駅は人が少なく静かだった。
吉祥寺とは違う雰囲気に旅情を感じた。剣奈は冒険が始まる気配に期待し、胸を膨らませた。
剣奈の気分はテンション爆上げであった。高揚感に満ち、胸を高鳴らせるのだった。
――――――
*「隠れ場」:剣奈を依り代とした来国光の異次元小部屋。詳細説明は『剣に見込まれヒーロー(♀)に:一章』「21 隠れ場」など。
*「銃刀法問題」:『剣に見込まれヒーロー(♀)に:五章』「98 銃刀法問題 ポンコツ千剣破バッドエンド回避?」前後。
*「とある大事件で銃刀法問題が解決」:『赤い女の幽霊:二章』「2-22 邪気去りて地脈戻る 夢終わりて 金狐は碧海に輝く」で山木が国の上層部とつながったことがきっかけとなって解決することになった。
*「剣奈の長寿」:『剣に見込まれヒーロー(♀)に:六章』「110 八尾比丘尼と剣奈」など。
*「千剣破の冒険指針」:『剣に見込まれヒーロー(♀)に:二章』「26 承諾」など。
*「千年の封印」:『剣に見込まれヒーロー(♀)に:プロローグ』「「宝玉の異変」びっくりした記憶 スーブニール1」など。
*「玉藻(人の姿時)の戦いぶり」:『赤い女の幽霊:二章』「2-20 九尾の断固たる想い 阿修羅は舞い 闇坂村は滅す」など。
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