キメラになったのでモンスター食べまくるおっさん、適合し過ぎて最強キメラになる

三流木青二斎無一門

宝くじに当たって食中毒に中る


「うっそやろ」


 宝くじで一等を当てた日から俺は絶頂の日々であった。

 銀行で即座に換金をして貰い、通帳には三億の数字が記載された。

 即座に俺は退職代行を使い職場を退職して、早々と旅行に行く準備を始めた。

 退職代行にはあまり良いイメージを持たなかったが、こうやって金銭に関する理由で辞める時には有効で、何故会社を辞めるのか、原因の追究をしてくる会社の行為に俺は耐え切れず宝くじを当てた事を口に出してしまいそうだったからだ。

 そうしたワケで翌日から俺は晴れて自由の身となり、日頃から出来なかった事をする為に旅行をする事にした。

 俺の将来の夢の実現である。

 将来の夢と言うのは、昔から食事をするのが大好きだった俺は、色んな世界を巡りながら様々な料理を食べてみたい、と言うものだった。


 旅行をするにも食事をするにも金と時間が掛かり、会社に縛られていた俺にとっては夢の実現など到底叶うものでは無いと半ば諦めていたが、まさかふと思い立った時に購入した宝くじが当たっているとは思わなかった。


 年を重ねれば重ねる程、夢の実現など到底不可能だったが……二十代後半で夢が叶うなど幸運にも程がある。

 最初の一年は日本各地の有名どころの料理や珍味に舌鼓を打った。

 二年目にはガイドを雇い様々な世界旅行ツアーに行った、ネットで調べれば世界各地の料理を中心にしたツアーガイドなどあり、高額ではあったが今の俺の貯金では払えない額では無かった。


 そうして三年目に差し掛かった時、俺は旅行帰りに寄った熊の手や猿の脳味噌と言った珍味中の珍味が味わえるジビエ料理を提供する居酒屋で食事をしていた時の事だった。


「うぐッ?!」


 俺の腹部に痛みを感じ、居酒屋でのた打ち回ってしまう。

 病院に救急搬送された時、医者からの診断は寄生虫が腹部に這い回っていると言う事だった。

 それを聞いた俺は安心したのだが、虫下しの薬を貰えるのかと聞くと医者は深刻な表情をして言った。


「クルメさん、これはなんと言いますか……新種ですね」


 寄生虫に新種?と俺は思ったのだが、即座に大きい病院に紹介されて俺は入院と検査を繰り返す事となった。


「寄生虫、と言うのでしょうか、これは……この蟲、クルメさんの肉体と同化しつつありますね」


 胃袋の中身を直接確認する為に胃カメラを突っ込まれた俺に対してお医者様はそう言った。

 なんでも、寄生虫は俺の肉体に張り付いて、胃袋に根を張っているらしく、このままでは胃袋を突き抜けて脊髄に到着し、脳神経を支配される可能性がある、との事であり、俺は怖ろしさのあまり卒倒しそうになった。


「しかし生物に寄生する事無く、細胞と同化して共生するなど……まるでキメラだ」


 そうして、その寄生虫、もとい、蟲は新種のキメラパラサイトと言う名前が名付けられ、最終的にキメラと言う名称で呼ばれる様になる。

 そして、俺が発端であるかの様に、各地でも同等のキメラによる同化が発生しており、世界中ではパンデミックの様に恐怖になりつつあった。


「医学会からの決議の結果ですが、クルメさん、そのキメラの摘出をする事に決まりました」


 そして、一番最初に、日本で初めて確認されたキメラを摘出する為に、俺は医者たちからの恐喝に近しい放置していればどうなるか、と言った脅しを受けて半ば強制的に手術をする事になったのだ。


 そうして、俺が麻酔をされて、いざ摘出手術が始まる……と思った時であった。


「……ん?」


 麻酔をされた筈だった俺は目を覚まして顔を上げる。

 術後であるのか、病室に居た俺は体を起こして欠伸を行う。


「あれ?」


 腹部を切開された筈だが……痛みも鈍い感覚も無かった。

 そして周囲を見回すと、部屋の中は誰もおらず、途轍も無い程に静かだった。


「……い、てて」


 体を起こそうとする、関節を曲げると物凄く痛い。

 そして、筋肉が凄く落ちている気がした、少なくとも、俺の体は沢山の美食を味わったお陰で、体重は百キロ近くになっていた筈なのだが、手術と同時に脂肪吸引でもしたのだろうか。


「な、だ、誰か、居ませんかあっ」


 俺は叫んだが、声も久しく発していない為か掠れていた。

 寝起きの猫が漏らす声に近しい声だった。

 近くに置いてあるナースコールも何度も押してみたのだが反応が無い、と言うか電源が落ちていた。

 病室は薄暗く、外を見ようとすると、硝子が割れてカーテンが破けていた。


「な、にが……起こってるんだ?」


 俺は病室から外を見て、大きく目を見開く。

 何時もだったら、日夜関係なく騒音と排気を撒き散らす車の群れがアスファルトを削りながら進んでいるのだが、車は動いておらず、アスファルトは砕けていて、草木が生えていた。

 人らしい姿は何処にも無く、代わりに、掃除を忘れたかの様に地面にはべったりと血痕と、白骨化した人間の遺体がそこら中に落ちていた。


「え、ぇ?」


 これは、最早、終末では無いのだろうか。

 そう思った俺は病室の隣のベッドに置かれた松葉杖を拝借して、病室から外へ繰り出す。

 異様なまでの人の匂いが充満していたかつての病院は、今では殺風景な暗闇が延々と先まで続く無機質な匂いが突き抜けていた。

 俺は外を目指す為にエレベーターまで向かうが、その道中でゴミが散乱していたのが見えた。

 コンビニの袋だったので、お見舞いで誰かが食事でも買って来たのだろうか、ならば何か食べるものが無いのか、と俺は地面に座りゴミ袋の中を確認する。


 ぐぅぐぅ、と先程からお腹が空いて仕方が無かった。

 俺がコンビニ袋の中を探すと、先ず最初に目に入ったのは新聞紙だった。

 何か書いてないか、そう思いながら新聞紙の内容に眼を通した。


 なになに?……へえ、異世界が開通って見出しかあ。

 ……はあ?なに、フェイクニュース?その見出しに思わず俺は被り付きで見始める。

 なんでも、秘密裏に研究を進めていたが、次元ホールを固定する為の座標が誤作動、世界各地に異世界側棲息の寄生虫が流出、後にそれが世間で騒がせるキメラ・パラサイトである事が判明……。


「……え?あれ異世界の寄生虫だったの?」


 新種って言ってなかった?と言うかマジの話これ?いやでも、新聞業界に疎い俺でも見た事のある新聞だしなぁ……と言うか、そんな事よりも。


「なんか、飯ないか?」


 ずっと前から腹が鳴り続けている。

 空腹が飯を求めて泣き続けているのだ、これを治めてやりたいのが人間の本能と言う奴だろう。

 ゴミ袋の中を探すと、残念ながら食事になりそうなものは無かった。

 空の弁当箱と、中身の入ったマッチだけ、俺はマッチを病衣のポケットに入れて、立ち上がる。


「飯、あぁ……飯」


 ごはんを求めて彷徨う俺、……世界は今、どうなってしまったのだろうか。

 ……まだ、貯金が二億近く残ってたんだけどなあ。

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