第22話 絶対だよ

帰りの支度を整えるため、そして物資調達も兼ねて、

シュンヘイ君とイモリスちゃんに

連れられて、村を簡単に案内してもらった。

主な目的は食材の買い出し、それともう一つ。


ガルボが色付きの布を見せてくれた。

「万が一、戻る時に迷わねぇように目印にすっぺ」とのことだ。

途中まではガルボが木に目印をつけてくれるらしい。なるほど、これなら安全だ。


僕は腰の袋から銀貨を数枚取り出すと、差し出した。

「これは今回の取材の謝礼です。釣りギルドからのお礼ということで

……ぜひ受け取ってください」


「お、おめさん……こんなもん」

ガルボさんは大きな手を振ったが、僕はぐいっとその手に銀貨を押し込んだ。


「いえ、これはギルドからの正式なお礼なんです。

僕の気持ちも少し入ってますけど」

そう言うと、しぶしぶながらもガルボさんは受け取ってくれる。


「んだが……んじゃ、ありがたぐ頂いとぐか」

不器用に笑う顔が、どこか嬉しそうに見えた。


横でヘルガおばあさんも目を細めて頷く。

「まぁまぁ、律儀な坊やだこと。ほらガルボ、断ったら失礼になるべ」


「二人とも、本当にありがとうございました」


二人は顔を見合わせ、そして声を揃えるように言った。

「また来るの、ちゃぁんと待ってるど」



買い物を終えたあと、ガルボ亭で晩飯。

最後だからと、村の人たちが十数人も来てくれた。

宴会のようなにぎやかさで、皆、本当は来たかったらしい。

優しい人ばかりだ。

――また機会があれば、ぜひここに戻ってこようと思った。


イモリスちゃんはミナとフローラたちと一緒に寝るらしい。

まるでお泊まり会みたいだ。

ちゃんとマクラも持参しているらしい。


みんな、早めに夜の支度を終え、静かに就寝。

僕も布団に潜り込み、今日の出来事を思い返しながら目を閉じた。


翌朝、朝食を終えた僕たちはシュンヘイ君の家の前に集合していた。

旅支度を整えた僕、ミドル・ガードの5人、ガルボ、シュンヘイ君。

谷ルートの出発はもうすぐだ。


その時、イモリスちゃんが駆け寄ってきて、目を真っ赤にして叫ぶ。

「やっぱりおらも行ぐー!」


ガルボがすぐさま制す。

「おいおい、朝さ言ったべな?」


だが、イモリスは顔を歪めて抵抗する。

「だって……シュンちゃんまだ11歳だべ!」

シュンヘイ君が苦笑しながら言う。

「イモっぺだって12歳だべや?」

イモリスは目を輝かせて叫ぶ。

「おらもうすぐ13歳だ! だから……おらも……ついていきてえ!」


その言葉と同時に、彼女はミナとフローラにしがみついた。

「離れたくねぇ……絶対離れたくねぇ……」


ミナは優しく膝を曲げ、イモリスの肩に手を回す。

「イモリス、わかるよ、でも今回は無理なの。

私たちはまた必ず会いに来るから」

フローラもそっと手を添え、柔らかく微笑む。

「怖がらなくて大丈夫。約束するからね。元気でね」


イモリスは涙をこらえ、二人の顔をじっと見つめる。

「ほんとに……また来てくれる?」

「もちろん。絶対に戻ってくるから」とミナが力強く頷く。

フローラも優しく頷き、手を握ったまま言った。

「約束だよ。私たち、必ず会いに行く」

イモリスは小さく息を吐き、涙をこぼしながらも頷く。

「……わかった……また会える……絶対……」


イモリスちゃんはこちらへ振り返る。

「ガイルおじちゃんとバルクおじちゃんとヒュー兄ちゃん、

ミナねえちゃんとフローラねえちゃんをしっかり守ってけろ!」

「ああ分かった」

ガイルは軽く頷き、落ち着いた声で答える。

その表情には、彼女の思いをしっかり受け止めた覚悟があった。

「おう任せろ!」


バルクも力強く拳を握り、元気に応える。

その豪快な声が、イモリスの緊張を少しだけ解きほぐしたようだった。


「……約束する」

ヒューは少し控えめに、しかし確かな口調で言った。

その一言には、静かながらも揺るがぬ責任感が込められていた。


イモリスちゃんは目を細め、少し安心したように息をつき僕に向き直った。

「フィリオ兄ちゃんは迷惑かけんなよ、足引っ張んなよ!」


――おお、コレがツンデレというやつなのか。

いや、僕にはツンツンしかないな。

自分でも知らない間にツンデレのデレ抜きオーダーでもしたんだろうか?


もし店員さんに「えーと、これデレが入ってないんですけど」

ってクレーム入れたら、

「あ! すぐ作り直します!」とか言ってくれるんだろうか。


そして二時間ほど進んだところで、ガルボさんが立ち止まり、

振り返ってイモリスちゃんにやさしく声をかけた。

「イモリス、おめはここで帰んだぞ」


その言葉に、少女の瞳が大きく揺れた。

まるで、胸の奥を強く掴まれたかのように。


けれども彼女は、震える心を押し隠すように小さく頷き、

仲間ひとりひとりの顔を順に見つめる。

そして、唇をきゅっと結び、無理やり笑みを作った。


「それじゃ……きをつけてなあ。また来てね。約束だぞ……!」

声が少し震えていた。


僕たちは何度も振り返りながら、

涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった

少女に向かって手を振り続ける。

少女は小さな体をいっぱいに使って腕を振り返し、

必死に笑顔を浮かべていた。

だがその笑みは、今にも泣き出しそうに歪んで見えた。


風が谷間を渡り、木々の葉をざわめかせる。

足元では小川がさらさらと音を立て、

まるで別れを見守るようだった。


歩を進めるたびに、少女の姿は少しずつ小さくなっていく。

手を振る腕も、赤く潤んだ瞳も、

やがて点のように遠ざかっていく。


それでも僕らは、どうしても振り返るのをやめられなかった。

一歩、また一歩

――そのたびに胸の奥が締めつけられる。


「またな!」

「必ず戻ってくるから!」


誰ともなく声を張り上げると、仲間の声が次々と重なった。

まるで、皆がその言葉にすがるように。


やがて、その少女の姿が遠くの木立に溶け込んで見えなくなった。

それでもなお、最後の最後に

――風にのって、かすかに届く声があった。


「……絶対だよ」

そのひと言が、胸の奥で静かに響いた。



ここまで読んでくれて、ありがとね~。

イモっぺみたいに、ちょこんと「いいね」押してけたら嬉しいな。

ブックマークもしてもらえたら、おらほんとに喜んじゃうど!

byイモリス



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る